第20話 大人なんて大嫌い!

 部活も終わり、仁はマンションに帰るとそこにはエプロン姿で料理をしているルーシーがいた。


 ルーシーは料理に髪の毛が付かないようにポニーテールにしており、ちらりと見えるうなじがなんとも愛おしく感じていた。


 「ただいま~」


 「あらっ、帰ってきてたの?今料理作っているところだからちょっと待ってて……」


 ルーシーは待つように言おうとすると仁は手を洗いすぐさま手伝いに入る。


 「別に手伝わなくても私一人でできるから大丈夫よ?」


 「何言いよっとね、ルーシー一人に任せっきりってのも男としての面子が……」


 仁はそう言うとルーシーは「別に嬉しいとか思っていないんだから……」と頬を赤らめ視線を逸らす。


 「それと仁、ありあはああ見えて繊細な子だからあんまりからかっちゃだめよ。あの子、小学生の頃は肥満体型で必死に減量してあの体型維持しているんだからね」


 「はいはい」


 「はいは一回じゃなきゃメッ!」


 「はい……」


 ゴマすり媚び売りが下手な仁はありあを傷つけてしまったことに少し悔いており、次会った時は一言でもいいから謝罪の言葉を述べようと思っていた。


 世渡り上手ではない仁はありあの第一印象こそよくなかったが自分自身と重ねてしまうところがあった。


 仁は大の三次元の女が嫌いでありあは男嫌い、それだけでも共通点があったのだ。


 「いただきます」「イタダキマス」


 二人は手を合わせ、いつものように夕食を食べていた。


 仁はいつものようにルーシーの作った料理を美味しそうに口の中に頬張り、幸せそうな表情をし、ルーシーはそんな仁を見て微笑していた。


 「仁とありあってどことなく似てる気がするわ……」


 「そうね、まぁ噂だと男嫌いで有名らしいし現実の女が嫌いな俺と比較したら近いものはあるかもしれんね」


 「私は以外と努力家な一面とか似てると思うわよ」


 「それはどうもありがとう。そしてルーシー、いつも美味しい料理ありがとう」


 ルーシーは「当然よ、ずっと料理しているんだから不味いはずないでしょ」と自信気のある声で言う。


 「ありあだけど……仁にロリって言われたことすごく気にしてたようで私にすごく泣きついていたわよ。仁はとにかく言葉遣いの悪さをなんとかしないとだめよ、仁は本質的には優しいんだから……」


 「俺は日本にいる女を可愛いとは思っていないからそれは無理な頼みだよ」


 「仁はそうやって何でも頭ごなしに考えるのよくないと思うわよ。異世界に行った友達が大の日本人嫌いだからって仁まで日本人嫌いになる必要はないでしょ?」


 「丈は確かに侑と俺以外の日本人は嫌いなようだった。それでも丈は日本人とかアメリカ人とか関係なく仲良くなりたかったんだ……あいつだって好きで日本人を毛嫌うようになったわけじゃない、丈はそこから反骨精神が芽生えて日本にいる古い大人達に負けないように不良にならざるを得なかった。俺だって同じだ……丈と一緒に古い大人達になめられないようにするためにこうゆう風になることで気を紛らわしているだけにすぎない。それを理解できない古い大人達と周りの奴らは俺達のことを一方的に不良だの落ちこぼれだと決めつけているだけなんだ」


 仁の表情は険しく、歯噛みをしながらルーシーに恨み節を見せる。ルーシーは仁がそれほど辛い経験をしたのだろうと理解こそしていたがそんな仁を包容するほどの力がなく、そんな反骨精神剥き出しな仁の中に入り込むことができず気圧されていた。


 「すまない……女の子の前でこんな暗い話はするもんじゃなかったね……忘れてくれと言われて忘れられるわけじゃないのは分かってる。それでも、それでも俺は誰かを好きになって傷つくくらいならいっそのこと誰も好きにならずに一人で二次元のように作られた世界に入り浸ったほうが幸せだと……俺は誰かを好きになって一度もいいことがなかった……それは丈も同じだった、俺も丈も日本が……この世界が大嫌いだった。そして弱者と言う存在が許せなかった。弱者はいつも強者にいたぶられるのが怖くてオドオドとして誰も信じられず言いたいことが何一つ言えない、俺も丈もそんな弱者の一員である自分自身も許せなかった。そして気付いた……この世界に強者などいないと、強者と呼ばれる人間は自分よりも地位の低い人間を弱者と称し優越感に浸ることでそんな関係を築いた。人類全てが弱者だったんだよ。だけど俺はまだ自分を弱者と認めたくはない。ルーシーはエミリーを守るために義母から嫌われるようにしていると言っていたがそれでも君は何故そこまで強くいられる?どうして俺なんかと一緒にいても、その曇った表情から時々光が……」


 仁は感情的になり、ルーシーは仁を抱き寄せる。ルーシーの母性に包み込まれた仁は口を噤ませ、目を閉じ涙が流れだした。


 「お願い……そんなに思い悩まないで……あなたが苦しんでいると私も苦しい。この婚約が嘘であっても今こうして一緒にいる時間は嘘なんかじゃない!紛れもなく本物よ!何でも意固地になって考えないで……仁も私も今は一人じゃない。こうやって嘘の婚約をして一緒に暮らしているのだってこうやってお互いを支え合うためにあるかもしれないじゃない……だから……辛いときは辛い……って言って!甘えたいときは甘えなさい……べっ、別に仁に甘えられても嬉しいとかそういう気持ちは一切ないんだからね。ただ、放っておけないから……一緒に同棲しているんだからその辺りのメンタルケアも大事でしょ!」


 ルーシーの豊満な胸に仁は顔を埋め、そのまま仁はルーシーの胸を借りて号泣した。

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