第19話 耕陽の決心

 部活の練習どころではなくなり、紫龍達は気絶した耕陽が目覚めるのを待ち続けた。


 「おい、耕陽!起きろよ!」


 紫龍は耕陽の体を揺さぶりながら怒鳴り、耕陽は声を唸らせ目を覚ます。


 「……うっ、ここは?稲葉さんがいたと思うんだけど」


 「あのビッチなら帰ったよ。あの野郎、いきなり俺のちんこ去勢するとか頭湧いてるのか?」


 「確かにいきなり剃刀出してちんこ去勢するはやばいよなぁ……俺だったら彼女にしたくないよ」


 「俺も……」


 仁達軽音部員のありあに対する評価はかなり低く、ワースト上位に入っているのは間違いなかった。


 「あれで読モやってるってんだから世も末だな……」


 「顔はいいのにあれだと男は寄ってこないだろうなぁ……」


 仁と紫龍はありあのことをボロクソに言い、耕陽は何故か俯き、表情が曇っていた。


 「もしかして耕陽、二年の先輩じゃなくてありあって女のことが好きなんじゃあないの?あいつは辞めておいた方がいいと思うばい。あんなすぐちんこ削ぎ落すとかいう女好きになったら命がいくつあっても足りんばい」


 「僕が好きなのは稲葉さんじゃない!詩音しおん先輩なんだ!それに坂本君達はさっきから稲葉さんの悪口ばっかりで僕の相手なんか一切してくれないじゃないか!」


 「ごめん……」


 仁は耕陽をおしゃれにするために紫龍と一緒に協力していることを完全に忘れきっていたことに耕陽は怒り、仁は頭を下げる。


 「それはそうとよ、その詩音って先輩の写真は持っとるとね?」


 「一応生徒会で集合写真はあるよ」


 耕陽はスマホから生徒会の集合写真を見せ、詩音という女子生徒を指さす。


 「なぁ耕陽、この詩音先輩ってさぁ……どう考えても今の君とでは月とすっ――」


 「仁、それ以上は言うな!今から改造計画しているわけだからここで自信喪失させたら何もかも終わりだ!」


 「それは僕でも分かっているよ。詩音先輩は幽霊のように影の薄い僕に生徒会に勧誘してくれたことが嬉しくて……だから僕は詩音先輩の横に並んでも恥じない男になりたい……」


 耕陽は声を震わせ、詩音に必要とされる男になりたかった。


 しかし、今の自分ではダメだと認識した耕陽は侑にアドバイスを貰おうとするも侑はあくまでラノベ作家で男子のおしゃれにはそこまで詳しい方ではなく、仁を通しておしゃれになれば詩音を振り向かせられると思ったからだ。


 案の定、仁を通して紫龍にアドバイスを貰っているが耕陽はアドバイス通りにして詩音のハートを射抜ける自信はまだなかった。


 詩音は黒髪ロングにさらさらなポニーテールの少女で、如何にも生徒会といった感じだ。


 「とにかく君が好かれたい気持ちは分かった。それでだ、ミス・ミスターコンに出て詩音先輩と仲良くなりたいんだろうなってのはなんとなく分かったがそれ以前に普通に喋ったりとかした方がいいっちゃなかとね?大体まずちゃんと話もできないのに付き合うも好きもないっちゃないやかって思うとよね」


 「そうだな、仁の言う通りだな。でも好きな人だと緊張するってこと普通にない?」


 「それって本当に好きって言えるとね?俺も牛沢の時とかそんな感じやったっちゃけど俺って本当は牛沢のことが好きだと思い込んでいただけなんやと分かったけんね。よくあるでしょ?そんなに好きでもないのに気になるからってそれを恋だとか思い込んでいる人?自分自身の脳に洗脳かけてることに気付かず騙されること」


 「僕は本当に詩音先輩が好きなんだ!」


 耕陽の想いは幻想でもまやかしでもないということを証明するために仁に感情の籠った声でその思いをぶつける。


 「そうね、耕陽はそげん詩音先輩のこと好いとったとね?それなら今すぐ先輩に話しかけて趣味とかそういうのを共有せんね、それと要注意せないかんとは自分の話しばっかりせんでちゃんと先輩の話しをしっかりと聞き、その中から要点だけ絞って話を繋げる。それさえできれば友達からでも関係は始められると思うばい」


 「分かった、僕っ……今から生徒会室に行って詩音先輩と仲良くなるために頑張るよ」


 「そのいきばい」


 「応援してるぜ」


 耕陽は仁に言われたことと紫龍に教わった髪のセットの仕方をしっかりと脳に叩きつけ、それを糧に耕陽は「ありがとう」と言い残し、生徒会室へと駆け付けるように音楽室を出て行った。


 「あいつ、本当に分かったとやかねぇ?」


 「大丈夫なんじゃない?てか仁、お前あれマジで言ってんの?」


 「俺はいつでも本気ばい。実際緊張して話しかけられないんじゃ仲良くなるもくそもないやんね?それ考えたらやっぱり自然に話せる相手じゃなきゃ付き合うなんて夢のまた夢ばい。ヤンキーとかその辺のチャラい人が当たり前のように女の子と付き合ったりしとるばってんそれも普通に女子と会話できるからでルックスがいいから普通に付き合うとかそんなラノベ展開になるわけないやんね」


 「そっ、それもそうだな……」


 仁は紫龍に恋愛とはそう言った些細なことから芽生えることがあり、自然体でいることが近道の一つであることを論する。


 実際、ヤンキーと呼ばれる連中は女子に免疫があり、当たり前のように会話をしていることを見ての通りモテてる場合の方が多い。


 そのことを考えるなら仁の言っていることも間違ってはいないのだ。


 紫龍は「だからヤンキーはモテるのか」と頷いていた。

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