急速潜航!

@Michael-I

第1話 独航船

緊張が張り詰めている。

司令室に低い声で応答が響く。


『方位角80、的速12ノット』

「距離は」

『1600メートルです』

「いいぞ…聴音、周囲はどうだ」

『音源無し、敵は独航船の模様』

「よし。1番、3番魚雷発射管に注水後、発射管扉を開け」

『了解、艦長殿』


潜水艦 U-96はゆっくりと発射管扉を開いた。

今、まさに敵船を雷撃しようとしている。


『ギュンター、敵船は商船か?』


副長が尋ねる。

U-96艦長、ギュンター・フォルクハイム大尉は潜望鏡に目を当てたまま答えた。


「そのようだ。だが、後部に不自然な出っ張りが見える。恐らくそこに砲を隠して武装しているんだろうな」

『では浮上は無理だな』


ギュンターは潜望鏡から目を離し、副長のほうを振り返って言った。


「なぁに、なら浮上せずに沈めればいいんだ」


そしてニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

その目には絶対的な自信が伺えた。

狙った獲物は必ず仕留める、狼の目だ。


『魚雷設定及び雷撃準備完了!艦長、いつでも撃てます!』


伝声管から声が響く。


「よし…進路維持。機関停止。俺の合図で発射しろ」

『了解、艦長殿!』


それまで轟然と唸っていたエンジンが停止され、辺りは静寂に包まれた。

今や U-96は波に揺られ、じっと『その時』を待っている。

士官も、兵も、固唾を飲んで発射命令を待つ。

何しろ1ヶ月振りの獲物だ。これを逃す手立てなどあり得ない。


ギュンターは押し黙り、身じろぎもせず潜望鏡を覗いている。数刻の後、その口が動いた。


「1番管、3番管、発射!」

『1番3番発射‼︎!』


魚雷発射管室では兵が大声で命令を復唱、

傍の赤いボタンを思い切り押した。


その瞬間、轟音と共に魚雷は発射管から勢いよく飛び出し、『獲物』に向け突進していった。


『…異常無し!魚雷は航走中です!』


聴音員が報告する。その瞬間。


『やったぜぇ!』

『ライミー共め、海に沈みやがれ!』

『これでまたチャーチルが禿げるぜ!』

『代えのカツラはねぇぞ⁉︎』

『ざまーみろってんだイギリスめ!』


兵たちが口々に歓声を上げた。緊張の糸が切れたのだろう。思い思いに叫んでいる。


だがそんな喧騒の中でも、


「…さて、当たるかが肝心だ」


ギュンターは独り、冷静を失わずに思案していた。









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