第9話 人神遊戯〈ウォーゲーム・オブ・フレンズパワー〉

 人は空を飛べない、宙に浮けない。翅だってない。翼だってない。

 神は空を飛べる、宙に浮ける。翅だってあるし。翼だって自由自在。

 そこにはどうしようもない遺伝子的な、抗いようのない境界線があった。


 別に別件であったファンタジア・リアリティなオンラインをやろうというわけではない。

 これはいわば存在証明。

 湘南桃花と名の持つ人間サイドと雛夏という神様サイドとの。「人間はここまで出来るんだ! なめんじゃねえ!」と「神様はここまで出来るんだ! なめんじゃねえ!」とのぶつかり合いである。


 故に、人は地から。地獄から一歩も抜け出せない象徴として。

 故に、神は天から。天国から悠々と解き放たれる象徴として。 


 天国と地獄に生きる我ら汝らの力で、実力でもって勝利をもぎ取るという。

 ただの、人間代表VS神様代表の総力戦と宣戦布告が。どこかの声で叫んでいた。いや、望んでいたのか? それはわからない。ただ、それは今日この時点で始まったという事だ。


 そうなってくると困ったことが一つある。

 すでに地球では神門の出現で尋常ではない状況になっているのに。更に尾を引いて厄介な油を注いで、「さあ点火しました」と言われても。鎮火の仕方がわからない。故に、他の遊戯で「前もって弱点を決めましょう」とか。そういう細かいことでは無くて。決めるべきことがある。


 ――勝利条件だ。


 何を持って勝ち、何を持って負けたと判断する材料に足るものが必要になる。

 対等となる掛け金の天秤も確かに魅力的だが、まずそこをしっかり決めなければならない。

 集団によるゴール地点。コイントスで裏表を明確に決めて、落として決まる。そんな単純な話では無いのは解っている。どうやっても複雑怪奇になるだろう。では、どこか?

 これまでの、今まで全てのゲームでその伏線たる宝はどこかにあるはずだ。その中で、勝利というに相応しい勝利条件があるはずだ。

 

 ――どこだ?――どこにある?


 富か? 名声か? 力か? 本当にそれなのか?

 この人神遊戯に相応しい勝利条件が本当にそれでいいのか?

 違う。と断言できる。

 ならば愛か? 何でもありか? 王様ゲーム? 最後に立っていた方が勝ち。それでいいのか?

 本当にそれでいいのか?

 

 ならば……。

 答えはもう決まっている……。


 ゲーム盤を見つめる二人の存在。桃花と雛夏は、言う。決定的な言葉を、今宣誓する

「「友達ゲーム!!」」


 これで……、内容はともかく、テーマは決まった。

 どちらが多く、速くかはわからない。質より量なのかもまだわからない。

 それはこれから詰めること……。

 でも、長きにわたる因縁対決に。1つのテーマが打ち込まれた。


 絆の強さ、友達の強さ、心友の強さ。


 今! それが試される――!

 人神遊戯〈ウォーゲーム・オブ・フレンズパワー〉の開戦だ!



 2020年7月15日13時00分、地球界、日本国、江ノ島。


「んで、友達ゲームのルールは……」

「肝心要のルールは……」


 桃花と雛夏の宣言とは裏腹に、置いてきぼりの少年がここにいた。

「2人して何を揚々と意気込んでるんですか?」

「「……、……」」

 何もかも、全くついて行けていない少年が1人いた。

「あ! あ~ごめんごめんこっちの話!」

「気にしなくていい! 気にしなくていい! 気にしなくていいよ!」

 広がって広がって広がって、よくわかんなくなったから等身大の自分自身に戻る。

 今は平常運航だ。

「いや、なんか環境問題とかの話題で持ちきりになっちゃって~」

「そうそう、世界平和とか良いよね~って話になって意気揚々とさ~」

 キョトンとした表情の実十は自分の手の届かない範囲でハハハと笑う。

「なんだそんなことか~大きすぎて僕たちじゃ手が届かないだろ~」

 いよいよもって『ただの創造神』とか『世界は私の手の中』みたいな現実離れした所に意識が言ってしまう、両名の女子。女子力ならぬ、意識高い系女子に成り下がってるのかもしれない。

 強い強い肉食系になったら、女子力は下に下に、下がっていくゲームシステムなのかもしれない。あるいは自然の摂理がそうされるのか。

 あせあせと冷や汗をわけもわからず流しながら、桃花は見切り発車で先導する。

「んじゃ、精霊界と地球界。双方の情報共有でもしましょうか」



 まずほとんど何も解ってない精霊界。

 南に進行した日本軍は、巨獣族の巣窟でなんかボコボコにされて戦車とか潰されたらしい。

 北に進行した中国軍は、凍った大都市でたった1人の氷の青年にボコボコにされたらしい。


 次に大体お察しの地球界のほうは。

 アメリカが中型の神門を獲得、名前はまだない。小型の神門も国連、ロシアが手中に収めた。

 これでめでたく、1つの草原に4つの大国と1つの江ノ島小市民の勢力が一ヵ所に集まるという。さい先、波乱万丈の布陣である。

 現在、国際会議という事で同士討ちは避けようと。優先順位を各国が協議しているところだが。小市民には関係がない。何しろ徒歩で1日1時間しか入れないのだ、行ける範囲も限られる。


「あの……質問んなんですけど。精霊界へ行って1時間後に帰って来れなかった場合。どうなるんですか?」

 雛夏は答える。

「あー、それは神門は1日で使用制限回復するから。精霊界で1日過ごす羽目になるな」

「なるほど~、遅れたら明日まで帰れないと……」

 桃花が雛夏に提案する。

「じゃあさ、今度は私達3人で一泊二日にしようよ! そうすれば精霊界の事がもっとよくわかる!」

「なるほど、妙案じゃな。向こうには自衛隊も居るし、食料は貰えば大丈夫じゃろ」

「いや、初めっから他人任せは……せめて1日分の食料は持って行こうよ……」

「おし、そうと決まれば。善は急げ。今日中に身支度して明日行くぞい」

「おっけい」

「了解」

 こうして、一回解散して。

 時間は飛んで。翌日の7月16日13時00分に神門に入り、中心草原に足を踏み入れ。待つこと1時間。7月16日14時00分。第5小型異世界神門『北斗七星ほくとしちせい』は地球界への帰り道は閉ざされた。

 まるで戸締りを確認するかのように、神門が閉まるのを確認してから。

 

 2020年7月16日14時00分、精霊界、神門の草原。

 チーム『龍恋りゅうれんかね』はとりあえず東へ進んだ……。


◆~Q&A~◆


 Q25、人神遊戯〈ウォーゲーム・オブ・フレンズパワー〉って何ですか?

 A25、ゲーム盤の上で、ルールに乗っ取って人間と神様が対等の立場で遊ぶ遊戯です。よって明確にルールはありますが。現在、桃花と雛夏の間でルールも決まってない行き当たりばったりなので。テーマが『友達ゲーム』以外のことは不明です。


 Q26、神門には開け閉め出来る鍵のようなものは無いのですか?

 A26、あります。精霊界のどこかにある『鍵のお宝』として存在しています。難易度は不明。鍵を使うと手動的に神門を開け閉めできます。制限時間1時間の神門も閉じてから開けることも出来るし。制限時間1年間の神門も閉められます。開け閉め自由自在らしいが、一度使ったら壊れるとかなんとか。その詳細は現在不明。


 Q27、国連が出てきましたが。1日1時間ごとに国が入れ替わり調査するのですか? また各国その順番は決まってますか?

 A27、順番は決まってませんが。1945年(原加盟国)の古い順という事で。約51ヵ国が順番待ちとなっています。詳しい順番は不明です。


 Q28、巨獣族と氷の青年について教えてください。

 A28、獣人族と巨人族のハーフ、全長はビル7階ほどある巨大ビルに匹敵する耐久力を持つ。相手が軍隊だから難易度がおかしなことになってる。氷の青年は出番が無いので、暇つぶしをしていた程度、なのに1人で軍隊相手にして勝っちゃうレベル。難易度調整がおかしい。氷の青年の場合、夜は無敵状態になる。昼の時しか勝ち目がない。

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