第57話 7-7
ダウンライトの明るさを調整して、耳障りなBGMはオフ。
眠る時は真っ暗じゃないと嫌な蓮見さんが「もう少しだけいいんじゃない?」なんて可愛いことを言ってくれるもんだから、そんなムードに持ち込むわけでもないのに、明るさを抑えてしっとりモード。
仰向けに寝た俺が腕をいっぱいまで伸ばした先に蓮見さん。
腕の中に納まる距離まではまだ至らない。
蓮見さんがこっちを向いてるのがわかるけど、なんか・・・少し恥ずかしくて、そっちを向くことができない。
「・・・ねぇ、どうしたの?」
「え・・・なんでもない、デス・・・」
「・・・ドキドキしてる?」
「なんでですか?」
「顔が緊張してるから(笑)」
やだもう・・・見抜かれてる・・・
しかも、なんでか余裕な蓮見さんが、ちょいちょい、っと俺の指先を跳ねさせるようにじゃれてる・・・
「蓮見さん、あんまり可愛いことしちゃだめ。」
「え、別に可愛くないわよ」
わかってないなぁ・・・
俺が蓮見さんに向かい身体の向きを変えると、ベッドが揺れ、距離のせいなのか、<俺>に慣れてくれたからか、同じベッドの上だというのに穏やかに安心して笑っている蓮見さんがいた。
「・・・好きな人がすることなら、大抵の事は可愛く見えるもんですよ。それが、こんな非日常の空間、距離も縮まったベッドの上で指先なんて弄られたら、可愛すぎます。」
「・・・・・・でも・・・」
「何もしませんよ。しませんけど・・・可愛いなぁ、好きだな、とは常に思ってます。」
指先に触れたままの蓮見さんの指。
蓮見さんがしていたようにちょんちょん、と跳ねさせて人差し指を絡めてみる。
「・・・もう少し近づいてもいいですか・・・?手・・・つなぎたい、です・・・」
「・・・・・・嫌じゃない。」
「ふ・・・ありがとうございます。」
手を握れる距離まで数十センチ移動した。
人差し指、中指・・・薬指、小指・・・握りながら、自由が利く親指で蓮見さんの手を撫でていた。
「・・・・・・はぁ・・・」
「・・・大丈夫ですか?」
「・・・だいじょうぶ。」
「ふは、ほんとですか?」
「えぇ、大丈夫よ・・・なんか・・・・・・心地いいな、と思ったの・・・」
ふっと笑い、細められ、そのまま降りた瞼が瞳を閉ざした。
少しの緊張と強張りがあった蓮見さんの手は、力が抜けて俺のしたいようにさせてくれている。
本当に・・・こんな風にさわれる日が来るなんて思ってなかった。
距離感に気を付けて言われた条約を守りながら一緒に過ごす時間が増えていくうちに、悪態の数が徐々に減り、嫌悪の目で見られることも、トゲトゲした暴言も少なくなってきていた。
自分のパーソナルスペースにいる俺がいることを許してくれるようになってきたんだなぁと感じる事も増えていた中での今回のラッキーアクシデント。
蓮見さんの気持ちの変化は嬉しいけれど、調子に乗ってはいけない。
「・・・蓮見さん・・・?・・・・・・ふふ・・・寝ちゃったか・・・・・・」
今までじゃ考えられない、安心している寝顔。
同じベッドで、こんなに近くで見られるなんて・・・
起こさないように掛け布団を引っ張り、さっきより少しだけ近くに横になって、つないだ手から伝わる温もりと、目の前で愛しい人が眠っている信じられない幸せな状況に込み上げた涙が眦を伝った。
こんなに泣き虫じゃなかったのにな。
好きすぎて泣けるなんて・・・好きすぎだろほんと。
俺はほんのわずかに力を込めて手を握り、この夜の幸福を噛みしめていた。
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