第50話 6-12


「・・・ほら」


バッグから蓮見さんが取り出したのは自分のスマホ。


「あ、え・・・ほんとだ・・・」


やばい、ニヤける・・・


てか、俺今まで気づかなかったのか・・・?


鈍すぎるだろうよ・・・


水族館で見つけたストラップは、キャメルの革のストラップに素材がシルバーのイルカのしっぽのチャームがぶら下がっているとてもシンプルなデザイン。


高価な物でもないし、キラキラしたビーズとかが付いているわけでもない。


けど、昔テレビか何かでイルカは<幸運を運ぶ>動物という事を言っていたので、パッケージに書かれた<幸運が訪れますように>、その言葉を見た時、販促用の煽り文句のような単純な言葉だけど、どうしても蓮見さんにあげたくなったんだ。


「あれからずっと付けてくれてたんですか?」


少しウキウキして聞けば、


「いいえ。違うわ。・・・この間・・・家でラーメンを食べた後。」


「・・・らーめん・・・・・・で、どうしてそれを・・・」


「・・・・・・なんか・・・いいな、と思ったのよ・・・わからないけど・・・」



それは先日、仕事をしながら俺がふと呟いた「なんか、ラーメン食いたいですね」という一言に、珍しく同意してくれた蓮見さんが、友人の北海道土産でもらったラーメンの詰め合わせがあるから食べに来る?と誘ってくれた日のことだ。



アパートを解約した俺は社員寮に入寮した。


階違いの男子寮と女子寮なので、俺は自分の部屋に荷物を置いて着替え、蓮見さんの家にお邪魔する。


勿論条約に則って蓮見さんを不快にさせない距離を保つのは絶対。


ちなみに、<条件④部屋にいるのなら、洗濯物はそれぞれが自分のを自分で洗うこと>というのは、居候のカタチではなくなったので無効化されている。


「わぁ、いっぱいありますね。蓮見さんこんなに食べられるんですか?」


箱を開けると詰め合わせ10種。


聴いた事くらいある有名店や、知らないけれど美味しそうなラーメンたちが10種類も入っている。


「食べられないからあなたを呼んだのよ。」


「なるほどね。」


「蓮見さんは何にします?」


「豚骨。」


「え、北海道なのに??」


「何か文句あるの?」


「いえ、無いです。俺は味噌にしよ~っと。」


余計な事は言うまい。


そう決めた俺は、蓮見さんと一緒に台所で材料を切ったり、卵を煮卵から作ったり、ニヤけてしまうが、仲良しカップル、新婚さんのような時間を過ごしたのだった。オワリ。




「・・・私がこう・・でも、あなたはそう・・なんだと受け入れてくれてる。キラキラジャラジャラした女の子が好きそうな物じゃなくて、邪魔にならなそうなイルカモチーフのストラップだった・・・。それが、ただ、純粋に自分を思ってくれてるみたいに感じた。一緒にラーメンを作って、美味しいとか微妙とか、卵煮過ぎたね、とか言いながらただラーメンを食べる、それが、・・・・・・楽しかったのよ・・・・・・ふ・・・また泣くの・・・??」



「だ、・・・え・・・・・・俺・・・・・・蓮見さんが好きです・・・・・・」




人を好きすぎて泣いてしまう。



蓮見さんの事が好きすぎて、涙が出てしまう。



あの時、俺にはいつも通りに見えていた蓮見さんが「楽しい」と思ってくれていた事が、苦しくて大好きで、蓮見さんの前で2回目の号泣をするくらい俺は嬉しかったんだ。





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