第13話 4-2

「あ、イルカに触れられるイベントあるみたいですよ」


入場券購入の為の窓口には、まだ受付中になっている本日のイベントのお知らせ。

イルカに触れて写真が撮れるものや、バックヤードツアー、ペンギンの餌やり等様々な催しがあるようだ。


「ね、蓮見さん・・・やりたいですか?(笑)」


蓮見さんはお知らせを食い入るように見つめ、動きを止めている。


「・・・まさか・・・べつに・・・」


「まぁまぁ。そんな事言って、部屋にイルカの置物あるの知ってますよ、僕は。まだ大丈夫か、聞いてきますね!」


まったく、素直じゃないんだから・・・


・・・部屋にある置物がどういう経緯で、どんな思い出を宿しているのか分からないけど、他に飾り物や女性っぽい可愛らしい小物があるわけではない部屋に1つだけ、ガラス製のイルカの置物がある事に気づかないはずがない。


「はい蓮見さん、チケット。よかったですね、イルカ触れますよ。」


「・・・ありがとう。」



・・・うへぇぇぇっ!


ありがとうって言った!!!


可愛いぃぃぃっ!!




「集合時間までまだ時間あるので館内観てましょうか。」




しかし俺は、心の熱量を蓮見さんに気づかれて不審がられないように平静を装い、それはもうスマートに背中に伸ばしそうになった手を寸でのところで抑え、適度な距離を保ち、案内の矢印に従い館内を進んでいく。




「・・・すごい・・・」


背丈の何倍もある、水族館の目玉の大水槽。

本当に海の中から水面を見上げているような光と青が、口を開けて感嘆の声をあげる蓮見さんを照らしている。


仕事の時とは違う、プライベートで目を輝かせる蓮見さん。


目の前を悠々と泳ぎ去る巨大なエイやクエ、額が大きく出っ張ったコブダイ。

キラメキながら集団で泳ぐイワシの群れ。

突然視界を遮る黒い影。

巨影に驚くと目の前を通り過ぎる、頭がハンマーのようなシュモクザメ。



「なんか・・・大人になってからの方が、水族館て楽しめるわね。」



お・・・?これは・・・結構気に入ってくれてるんじゃないか・・・?



水族館初デートは好感触!



「ですね、俺もせっかくの蓮見さんとの初デート、水族館で」


「デートじゃない。」


「・・・はいはい。ま、せっかくのデートもどき・・・なんで、楽しんでくれてよかったですよ。」


お決まりのように遮ってくれちゃうけど、いいもんね~。


楽しんで目をキラキラさせてる蓮見さんを見れたし、心のアルバムにしっかり保存したし、俺は大満足だ。


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