第12話 4-1:blue illusion

水族館なんていつぶりだろうか。


日曜日というだけあって交通機関も混み合っていて、満員電車では蓮見さんを庇う為何気なく壁になったら、それはそれはもんっっっ・・・っのすごい!!形相で、俺を見上げる蓮見さん・・・。


無言の圧力。


あんた、近いのよ。


余計なトコロ触ったらコロスわよ。


そんな、鬼の視線、音無しの舌打ち、他人と距離が近い事への苛立ちは極限値。


水族館の最寄り駅まで、満員電車なのをいいことに周囲は楽しそうにする恋人同士や、父親に抱っこされる子供、その横に寄り添う奥さん・・・そんな光景を見ながら、俺とドアの間で鬼のように終始顔を歪ませる蓮見さんだった。



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「・・・・・・はぁ・・・・・・」


「大丈夫ですか?蓮見さん」


「・・・・・・・・・大丈夫じゃない。なんか、吐きそう・・・・・・」


「!!!え!!!」


「・・・・・・」


大勢の人が降りて、人波が過ぎ去った静かなホーム。


ベンチに座り溜息を吐く蓮見さん。


自動販売機で買ってきた冷たい水を手渡すと、小さく「ありがとう」と言って受け取った。


「・・・蓮見さんが大人しい・・・本当に具合悪いんですね・・・」


「・・・あんた、喧嘩売ってんの?」


「まさか!!」


とんでもない!好きな人が弱ってるところを見て、何かしてあげられる!ポイント稼ぐチャンスだ!なんて本気で思ったりはしない。


そこまで腐ってないはずだ、俺だって。


・・・たぶん。




その後、蓮見さんの体調が回復して、俺たちは水族館に向かった。


道中も、微妙な距離感は変わらず、車や自転車とすれ違う度に、俺がさりげなく庇うより先に、野良猫みたいな素早さとスマートな動きで蓮見さんは俺を盾にして背後に避ける。



・・・そういうとこ、ほんと好きでゾクゾクする。



「蓮見さん、水族館いつぶりですか?」


「・・・覚えてない。少なくとも、成人してからはないわ。」


「おぉ。セカンドバージンみたいなって!いって!!」


「ほんと、くだらなくて不愉快なことがペラッペラとよく出てくる口ね」


バッグで背中に一撃。


痛がっている俺を置いてさっさと先を行く蓮見さん。


「蓮見さんっ待って!」


「うるさいわね、何よ」


「そっちじゃなくて、こっちです!」


「・・・・・・・・・」



ほら、可愛い。



ハッとして、バツが悪そうに眉間と鼻梁に皺を寄せて俺を睨むの、ほんと可愛い。


直進しようとしていた道は間違い。

本当は右に曲がるルート。

大きくカーブを描いて右に曲がり、都合が悪そうにさっさと歩いて行く。


なんだか、こんな風にウキウキと人と歩くの久しぶりだな・・・。


俺はまだピリピリして不機嫌そうな蓮見さんの後ろをついて行きながら、揺れるポニーテールのしっぽを温かな気持ちで眺めていた。


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