27クラブ

甲乙いろは

ep.1


ーー1994年4月5日


「…もう、ダメなのか?」

『あぁ、ダメだ。これは決まりなんだ』

「そうか…」

男はそう言って、ショットガンで頭を撃ち抜き…絶命した。


27クラブという名前を聞いたことがあるだろうか。

偉大なミュージシャンが27歳でこの世を去る。という都市伝説である。

1938年に他界したブルースシンガー、ロバート・ジョンソンは巧みなギターテクニックで当時の聴衆を魅了した。

その並外れたギター奏法に人々から【十字路で悪魔に魂を売ってギターテクニックを手に入れた】と言われるようになった。

その後、ロバートは27歳の若さでこの世を去った。


これが『クロスロード伝説』である。


旧約聖書に登場するソロモン王が封じ込めた72の悪魔の序列27番の悪魔『ロノウェ』は【音と伝達を司る】悪魔と言われている。

そして、名声を手に入れたミュージシャンは、ロノウェの序列『27』と同じ27歳で亡くなる。こうして、都市伝説『27クラブ』が生まれたのだ。


ーー 2015年4月5日 イギリス ーー


一人の青年がいた。名前は【ジェイ】

彼は、何がなんでも有名なミュージシャンになりたいと思っていた。

そして、自分には才能があると信じていた。

…けれど、片っ端からレコード会社に音源を送ってはいたが、返事は一つも来なかった。

「見る目がない奴ばかり、どいつもこいつもわかってない!」

とジェイは思った。

それでも、ジェイは自分の夢をどうしても諦めることができなかった。

それはバンドの仲間達も同じ気持ちだった。


鬱憤の溜まった気持ちを仲間と一緒に吐き出そうとパブへ繰り出した。

仲間と騒いでいる内に『クロスロード伝説』の話になり、ジェイは、声高らかに言った。

「オレは命なんて惜しく無いぜ!やってやる。クロスロードで一曲弾けばいいんだったな。確か…時間は0時?オッケー、今から行って一曲悪魔に聴かせてやるよ!そしたら、悪魔の方からお願いしてくるさ!」

ジェイはギターと店から拝借した椅子を持って、意気揚々とパブから飛び出した。


フラフラした足取りで、しばらく歩くと。

「ん?こんなところに十字路なんて、あったっけ?まぁ…ちょうどいいや」


椅子に座ったジェイは自分のバンドで一番のお気に入りの曲を全力で弾いた。

「なんだよ!なんにも起こらねーじゃねーかよ。」

突然、黒い影が伸びてゆっくりと起き上がってくる…やがて影は人型になりジェイに向き合う形で立ち上がった。

影はジェイに話しかけた。


『…よう、お前のギターを貸せよ。』


ジェイは驚いて声も出せない、言われるがまま目の前の影にギターを渡す。

すると影は、ギターのチューニングを始め、終えたらジェイにギターを返した。


『受け取ったな、これで契約成立だ。』


思考が停止していたジェイは、そう言われて初めて自分の目の前の影が悪魔なんだと理解した。理解するのに随分と時間がかかった気がした。


「ホントだったんだ…あの伝説は…」


「アンタが、クロスロードの悪魔なのか?」

『あぁ、俺は悪魔。お前、名前は?』

「ジェイ…」

『そうか、ジェイ。お前が27歳になった

今日と同じ日…必ず迎えに来るからな。せいぜいそれまで楽しめよ。』

そう言うと、悪魔はその場から煙の様に消えた。


「今日?4月5日か…27歳ってことはあと5年…いや、6年後か…。」


ジェイは、覚悟を決めた!やってやる!

オレはやってやる。

太く短く生きて、伝説のロックンローラーになってやる!と決意を固めた。


そこからのジェイ達の快進撃は止まることを知らなかった。

デビュー作から全英ヒットチャートへ食い込み、続く2作目では全英5位の快挙を成し遂げ、3作目では遂に全英2位、そして全米9位という記録的なヒットを飛ばし、世界が認める大物バンドへと成り上がった。


しかし、ジェイにはその栄光の裏に誰にも話せない苦悩があった。


そう、悪魔との契約…


ビルボードのシングルチャートで一位を獲得しても、憧れのロックスターとの共演が叶っても、

頭の片隅では、余命を数えている自分が居た。


そんな時に出会ったのが、ヴィンセントである。金を稼ぐと色んな人間が周りに集まってくる。

彼は、金さえ払えば何だって用意した。

クスリはもちろん、なかなか手に入らないモノでも、金さえ積めばロケットだって用意するだろう。そんな男だ。


ジェイは誰にも話せないストレスと迫り来る死の恐怖にどんどん心に余裕が無くなっていった。

マスメディアへの悪態や暴言が目立ってきたのである。

更には、度重なるSNSでの炎上。

外へ出れば、パパラッチに容赦なく追いかけ回され。どんどん彼の精神は蝕まれていった。

そうなると、お決まりのコース。

酒とドラッグに逃げてしまうのが人間である。ジェイも例外ではなかった。

ドラッグはヴィンセントに言えばいつでも手に入った。

しかし、そんな自堕落な生活を送るようになったジェイにも、避けては通れない運命の日が近づいていたのだった。


「なんとか生き延びる方法はないのか。悪魔を出し抜く方法は無いのか…」


ジェイは閃いた。


ヴィンセントに頼んで仮死状態になる薬というモノがあるのか?あるのならどうにかして手に入らないか?と聞いてみた。

ヴィンセントの答えはこうだった。

『んーー、あるにはある…だが、カネ次第だな。』

「金ならいくらでも払う!だからそのクスリを手に入れてくれ。」

『危ないクスリだぜ?』

「構わない!手に入れてくれ。」


そう言って、次の週にはヴィンセントがクスリを調達してきた。

『いいか、このクスリは1時間しか効果はない。こんなクスリ一体、どうするつもりなんだ?パーティーの余興には趣味が悪すぎるぜ』

さすがのヴィンセントも怖気付いている。

「オレの一世一代の大勝負なんだ。黙って手伝ってくれ。報酬は払う。

でも、もし…オレが死んじまったら当然、報酬もナシだぜ」

『…ってことは、俺にとっても、大勝負って訳だ。』

ヴィンセントは今更、事の重大さに気付いたようだ。

しかし、今はこの男に頼るしかないのだ。大丈夫!今までだってコイツはうまくやってきた。ヴィンセントに頼る他ないのだ。



そして

ーー2021年4月5日 運命の日


「よし、飲むぞ…」

ジェイは、ジッとヴィンセントの目を見た。

『任せろ!成功したらちゃんと報酬は払ってもらうからな。』


「あぁ…ゴクリッーー」


クスリはすぐに効いてきた。

ジェイはゆっくり倒れた。


倒れながらヴィンセントの顔が見えた。

ヤツは笑っている。


ヴィンセントの背後にあの悪魔がいる。


振り向き、悪魔とハイタッチしている。


薄れゆく意識の中…


あの時の悪魔の声が聞こえた。

『オレ等が二人組だとは思わなかったか?』


今度は、ヴィンセントの声が聞こえた。

『そんなクスリなんてあるわきゃねーだろーが!お前みたいにずる賢いのがいるから俺達、悪魔は二人組なんだよ』



ジェイは考えるのをやめた。

それと同時に心臓も動くのをやめた。

そして、

27クラブに新たなメンバーが増えた。

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27クラブ 甲乙いろは @coats

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