ギシギシ

達吉

第1話

それはもう圧巻としか言いようのない光景だった。

見渡す限りのギシギシ。

よくまぁここまで生い茂ったものだ。

ボクとスガワラはたっぷり2分は呆然とそこに立ち尽くした。

「生える前にとか、枯れた後に土を耕すしかないんだって」

スガワラが言う。

駆除は無理だ。刈ったところで根があるうちは生えてくる。

「まぁ…ともかく…」

本部に写真を送る。

すぐさま主任から連絡が入る。

「冗談だろう?」

「いやいや、マジっす」

「ドローンで写真撮ってくれ。全体像を知りたい」

「承知」

ざっと見、陸上の400mトラック分は優にある土地。いやそれ以上か?ボクとスガワラはその端っこに立っていた。ここから車で15分のところに小規模だが町がある。昔の道路がここまで車が通れる状態だったのは奇跡のようだった。

ギシギシに覆われた空き地の向こうには鬱蒼とした森が広がっている。

ギシギシは人がその森に入るのを拒むかのように生い茂っていた。

「あの白い花が咲いている木はなんだろう?」

スガワラが森の入口にある木を指差す。

「今時分だと泰山木じゃないかな?」

海辺の平地はもうすっかり危険で、だからといって、山岳部も危ない。人の住む場所はますます限られてきている。大昔は町だったところも、人が減り、皆便利な平地に移り住んだが、かつてもあった自然災害が続き、平野部を改良するよりも、新しい土地を求めて調査し続けている。理想は高台。川の上流や、やや下方に湖などがあるとなおよし。

ここもかつては人が住んでいた。奥の森も町の一部だったと思われる。

ドローンを飛ばす。

ドローンが映す映像が自分たちのグラスに投影される。そして同時に本部にも映像は送られる。

ギシギシの生えている面積は思ったよりも広い。ここから見ているより、森までの距離はありそうだった。

少しドローンの高度を上げる。森の全容を映すことは可能だろうか?

大きな森があると自然災害には強いが野生動物との折り合いをつけるのが難しい。もはや地上では人間の比率は昔ほど大きくはないし、昔ほど、自然を制圧するほどの力もない。

そう、たかが1mほどに伸びたギシギシを前にして、こんなふうに途方にくれるほど、人間は無力だった。

「機械を入れないとダメそうだな」

本部からの声が聞こえる。

機械を使わずどうするつもりだったのだろう?いつの時代も偉い人の感覚は下々の者と違うということだろう。

「映像並びに計測データの記録は完了した。帰投後今後のスケジュールを立てよう」

「承知」

ドローンを操っていたスガワラが我が子を迎えるようにドローンを回収した。

ボクもスガワラも何も言わずにあたり一面のギシギシを、個人のスマホで写真を撮った。

風が吹くとざわざわ大きな葉が揺れる。

次にここへ来る時はギシギシ討伐なのだ。

ギシギシがそれでも「待っているから早く来いよ」と言っているような気がした。

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ギシギシ 達吉 @tatsukichi

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