魔法省人事録(3)

前の事態から3日、その日は珍しく雷雨の日だった。そのため昼間から真っ暗、そしてジメジメとする湿気が辺り一面を覆っていた。


時おりガラガラという雷の音が聞こえ、魔法省の施設にいる全員がかなりうんざりとしているようだった。


俺とロベルトは例の魔族の死体について、施設内の例の図書館で話していた。


「あの魔族の死体は、解剖って言うんだっけか?とにかく何故死んでたのかそういうのをここで調べるらしい」


「へぇ…」


ロベルト曰く、その魔族の容姿はと言うと一言で言えばかなり異形だったらしい。


目は四つ、手足合わせた物が四つ、草食動物に近く、顔は鼻から下の部分が先出ており、クチバシのような口角が特徴らしい。そして頭に二つの特徴的な角がある、と。


「…手と足合わせた物が二つなんだよな?」


「らしい。そしてなんと驚くべきことに!こいつの全身を覆う白い体毛が全部生き物みたいにウネウネ動くらしい。これで絡め取ってあんなことこんなことしてるんじゃないかなって俺は思う」


「体毛が触手?」


「簡単に言えばそうだ。これだから魔族の魅力はだな…」


ここから先のロベルトの話が長くなりそうだなと思っていた時だ。


ガラガラガラ!!!!


「うおっ…」


「わー、また落ちたなー」


ロベルトの呑気な言葉通り、どこかに雷が落ちたらしい。音の大きさからするとかなり近い。


「なあ、この地域ってこんな雨降ってたか?」


「まあ珍しいな…あ?」


不意にロベルトが顔を歪ませる。何かに引っかかったと言った顔だ。


「ロディ、この雷雨ただの天気なんかじゃないな。これは…」


その時だった。


ガラガラガラ!!!!!!


雷だ。それも近くとかそういうレベルじゃない。この建物に落ちた。それと同時に何やら騒ぎが起きる。


段々と明確になるにつれて、分かった。


「襲撃、襲撃だ!魔物の襲撃d……」


声の主は次に聞こえた雷鳴によって消えた。そのまま稲妻に巻き込まれ、消し炭になった。


気付けば魔法省の施設には穴が開いていた。そこから吹き荒れる風と雨がどんどんと入ってくる。そして何より危ないのはそこから稲妻が普通ありえない方向、横から入ってきていることだ。


「ロディ!」


ロベルトの声に引かれて、俺は正面のドアに向かい、外に出ようとする。


だがそれを阻むかのように稲妻がドアから突き抜ける。それに巻き込まれた数人が消し炭となる。


しかしロベルトがその稲妻に手をかざすと、稲妻をサーッと霧のように消える。


「…知性があるなぁ。ドアから人間が入る出るってことが分からないとこんな攻撃はしない。それにこの施設一点に攻撃してるのも…」


「何言ってんだこんな時に!?」


俺は本を異次元から取り出した。収納の魔法程度なら道具なしでも使える。


「魔物に知性があるのなんてそんないない。ましてこんな攻撃仕掛けてくるなんて、ね」


格好良く決めたつもりのロベルトだが、それをガラガラガラの共に崩れる施設の壁と天井から溢れるかのように稲妻が入ってくる。


「これは一体…何なんだ!」


俺は本のページをパパッと開き、対処しようとする。が、本は本なので魔法の発動はそのぶん、遅れる。


「まあ任せろ」


俺が対処する前にロベルトが稲妻を掻き消したようだ。それと同時に壁が崩れ、外の光景が露わになる。


吹き荒れる雨風、ほとばしる稲妻、そしてヒビ割れのように崩れる周囲の建物、その真上にいたのは


はっきり見える三本指の足が四つ、獣のような見た目でその腰の部分に一対の羽、三本の尻尾、風によって靡く黒い体毛。


一言で表せば空飛ぶ大きな狼だ。顔は狼そのものだった。そしてその咆哮は雷の音と同じだった。


空飛ぶ狼は稲妻を纏わせ、唸り声を上げていた。


昼間だと言うのに夜のように真っ暗な中のそれは圧倒的な威厳を持ち合わせていた。


「あんな魔物…見たことない…なんだあれ…」


俺は思わずそう呟いていた。程なくして背後から次々と魔法省の人間が外に出てくる。


「討伐するぞ!あれは危険だ!全員で取りかかれ!」


誰かがそう言った。魔法省は基本有能な人間の集まりと評されているからか、行動は早かった。


俺もすぐ様あれを倒そうと思った。全員が隊列のように外に出て、散らばる中、ロベルトがあれを凝視しながら呟いた。


「あれはやばいぞ。魔物じゃない、あれは魔族だ」


「は!?」


ロベルトの発言は雷雨に遮られたのか、魔法省の人間は杖やら何やらで魔法を発動させようとする。だが次の瞬間には全員が圧巻とした。


『人の子よ、聞くがよい。我が名はラルゲイユス』


その声は雷鳴と共に響いた。天からの囁きのような声、どこから出ているかは分からない。


だが声の主だけは皆、自然と分かった。例の空飛ぶ狼なのだと。


声は続いた。


『我は従者ナルバエスを取り戻しにきた。そこにいるはずだ』


声はそう語りかけてきた。


「ナルバ…エス?」


ナルバエスとはそもそも誰だ?そんな名前の奴を聞いたことはない。


『人の子よ、覚悟するがいい』


狼はそう言った。






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る