第199話 IRA VS SAS

-イギリス ダブリン郊外- SAS隊員が乗員している車内にて…


『ニュースをお伝えします。アラブ首長国連邦、サウジアラビアの石油価格の高騰に続きシリア、イスラエル間の緊張は3日前に起きたシリア軍によるイスラエル国防軍の軍事施設攻撃以降高まる一方で国際連合は中東諸国における混乱を打破するべく、安全保障理事会による緊急招集を呼び掛けようとしていますが、現時点で米大統領車列襲撃から3ヶ月しか経過しておらず、その間は副大統領が代理として参加する予定であり…』


『この事態に対して、パレスチナ自治政府はイスラエルとの徹底抗戦を臨んでおり、またシリアによる基地攻撃は先のパレスチナ、イスラエル間の混乱を煽ぐため、またこの裏には米国の影響力が古今の事件により、減少傾向にあることが少なからず存在していると…』


『しかしイスラエル政府は裏に存在するとされるシリア、そしてシリアと現在友好関係にあるレバノンに向けた攻撃準備を進めているとされ、またこの事態をきっかけに第五次中東戦争の火種になるのではないかと専門家のほうで指摘され…』




「よし、ニュースはもういいだろう。すぐに消せ」


カチッ


ラジオを切る音が静かに車内に伝わる。静寂の夜を走る三台の黒いバンが目的地に向けて走っていく。


「腕の端末に最新情報が送られている。奇襲後に例の指導者を拘束、それ以外の人物が抵抗を試みる場合は射殺も厭わん」


SASを率いる隊長はそう言うと、キキーッと目的地に着き、止まったバンから慎重かつ素早く後部から降りていく。後ろに停車するバンからも複数の隊員が降りてくる。マルチカムの迷彩服を着込んだ他の隊員も手にM4カービンを手にし、目的の建物。


現代の西洋な二階建ての白コンクリートの建物の前、そこで配置を完了させる。おそらくは地下もあるとの想定で。


そしてL96スナイパーライフルを手にした、隊員が二人、バンを盾に、建物に存在する複数あるうちのそれぞれ左右端の窓に照準を合わせる。


「GO__」


程なくして隊長がサインを出した…時である。


ガァァァンンン!!!


大きな音、というより爆音が夜の静寂を突き抜けていく。


何があったか。それは彼らSASが突入する前に建物は爆音のちに爆発、そして炎に包まれることとなったのだ。その衝撃に巻き込まれた隊員の一部が道路に転がり込む。


多くの隊員はただ一瞬それを見ることしかできなかった。だが少しの間後の警察だか消防救急だかのサイレンで現状をすぐに理解する。


「…こちらE中隊作戦実行班。作戦実行前に原因不明の爆発を確認。一部隊員負傷!警察組織の回避のため、一時撤退する」


『……こちら司令部。了解した。作戦区域から撤退のち状況報告求む』


幸いにも隊員に命を落とした者はいなかった。ゴウゴウと燃える建物から隊員が去ろうとした時だった。


パーン!!!


一発の銃声、それが遠くから響き渡った。隊員はそれを誰も聞き逃すことはなかった。


「なんだ今のは…動ける者は4、5人付いてこい」


隊長は先陣を切ってSASを引いていく。どうやら奥のそのまた奥の建物の路地裏で何かあったらしい。


そして…そこまでたどり着いた彼ら、M4を持つ手に力を込め、全身の神経を尖らせながら、路地へ入っていく。


ピチャンと足のほうで音が鳴り、先陣を切っていた隊長は足元をじっと見る。


「…!」


そして足元から目先に視線を移した時、倒れている人物が目に入る。


それは紛れもなく、未曾有の災厄を引き起こした指導者、ネット上でのある種のミーム、そしてカルト的な思想と目的で世界を揺るがそうとしたその人物は凶弾に倒れていた。


「…ああなんてこった畜生!誰にやられた!?」


隊長は凶弾に倒れたその人物に声をかける。こいつはここで死んでは駄目だ。法の裁きを受けなくてはならない。その一心が隊員を動かした。少なくとも彼らは一瞬でもよいから世界のスケープゴートになってもらわなければならなかった。


「何故だ。私は…」


最後にテロリストの首相はそう言ったあと何も言わなかった。


彼らは、いや世界は映画のような終わりを求めていた。彼ら全員が正義の制裁を喰らうという終わりを。


何故彼らは世界をねじ曲がった方向に変えようと動いたのか、彼らの名前はなんなのか、彼ら全員は何故あの地で、死んだのか。それを知る者は少ない。


ただ一つ言えるのは――


世界は変わった。それは別の意味である種悶々とした混沌に包まれた…今は。そしてそれは彼ら世界の人間ではなく、次に繋がる。


たった一人の少女の物語。それは世界をどう変えていくのか。

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