第198話 テロリスト首謀者(2)
失語症――
アメリカ本国に帰還された時、病院でそう診断された。
複雑に羅列された英熟語や英単語を読むことが難しくなった。
私は生憎一人だった。近親は既に他界していた。だが一人でも食べるためには働かなければいけない。
福利厚生サービス自体はあった。だが少なすぎた。元々アメリカは高所得低福祉の国家だから。
そして私はアメリカに復讐を誓った。アメリカに忠誠を誓った私はアメリカに裏切られたのだから。
そうして…彼らと出会うこととなる。当時文字の読めない武器商人として働く私に彼らは接近してきた。
そして――
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-アメリカ合衆国 カリフォルニア州
グレン・アンダーソン・フリーウェイ-
そして私は今、何かも分からない特殊部隊に包囲されていた。
少なくとも米軍ではないことくらいは分かる。彼らは体裁を気にし、民間人一般車のいるところで安々と発砲はしない。
事実、周りにいる民間人は何事かと困惑し、車から外に出てくる者、焦って逃げ出そうとする者、大声で叫ぶ者、電話で切羽詰まりながら話す者など様々。
「……降りるんだ」
近づいて来たリーダーらしき特殊部隊の男がそう言ってM4カービンを突きつけてきた。
従わなければ隣あるいは運転席助手席に座る奴らと一緒にしてやるぞということなのだろう。
「あんたら一体なんだ?」
テロリストの首謀者たる私は素直な思いでそう聞いた。もう何も驚くつもりはなかった。ニューヨークで散々経験したのだから。
「……」
だが誰も答える者はいなかった。ただ銃を突きつけて来る人間が一人二人と増えながら慎重に近づいて来ているだけ。
「私は元米海兵隊の人間だ」
「いいから早く降りろ!」
指示に従わない私に苛立っているのか、いや当然だろう。私はあそこで多数のSPや警察官や特殊部隊、そして民間人を殺害したのだから。
私が生かされているのは私があの場で一番何か知っていそうな立場だからと判断されたからに違いない。
「……靴は置いてきたか?もう二度とあの場に戻らぬようにとな」
直後私は背に隠した手榴弾のピンを抜いた。
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米海兵隊は兵役を終えて帰国する時、靴を置いて帰国する風習がある。
もう二度とこの戦場に戻らないという意味の表れ。時には靴紐によって何重にも繋がった靴が洗濯物の物干し竿じみた場所にぶら下げられることもある。
後にテロリストの首謀者含む16人は全員死亡が確認された。
大統領は息こそあるものの事件の衝撃で意識不明の重体、そこにできた溝は副大統領が務めることとなった。
アメリカ政府は総勢でテロ組織の存在を追った。
その結果、彼らはダークウェブ上に存在していた。
手の甲でダブルピースしていた画像付きのウェブサイト。名前はIRA。
アイルランド共和国軍と呼ばれる約10、20年前に世間を騒がせた組織の過激派だった。
このテロ組織の本拠地を潰すべく、イギリス政府はSASを派遣。
SASとアイルランド共和軍による戦闘がダブリンにて行われた……
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