第176話 過去のおはなし(12)

そう言えば薄霧の森に入る前にベラドンナに聞いたことがあった。


「どうしてそんな奴らを助けに行こうと思うわけ?」


「え?」


私は行方不明になっていた彼らの素性を聞かされていた。


薄霧の森の聖水をあのパーティーが独占していたというのは噂程度に知っていた。彼らは目先の利益ばかりを優先する卑劣という言葉に近い集団だった。


「あいつらは自業自得だよ、他者をあの森に入らせないようにするためにあの森の依頼は根こそぎなくなった。結構ギルドからも反感を買ってる。なのによくそんなに人を助けられるね」


「あぁ…なんだかよく言われるのそれ。助ける必要ないよそんな人とか、どうしてそんな人助けするんだって」


へぇ……としか思えない。そういうのはあまり共感できないことだ。


「でもね、人間の善悪、他種族の差別はあっても命は平等だと思うの。だって私達はこの世に産まれることができた一つ一つの命じゃない。だから理不尽で奪われる命があるなら私はその命を助けたい」


「……何その哲学?」

____________________

「魔王軍幹部…」


天から聞こえる声には重みがあった。あれは多分次元の違う奴だ。この森に来たことはやはり間違いだった。


『君達がここに何をしに来たのかは分からないけどとりあえず見せたい物があるんだ』


天の声がしたと思うと私とベラドンナのすぐ近くでドサッという音がした。


「ひっ…そ、そんな…嘘…」


「……何がしたいんだよ?」


ベラドンナは恐怖で顔を強張らせる。落ちてきた物は遺体だった。5人の遺体、その全てに何かで吹き飛ばされたようにして頭がなかった。


『彼らはね、果敢にも僕に挑んで破れた人達だ。男性は趣味じゃないから苦しまずに殺したつもりだけど…どうかな?』


「趣味悪クソ野郎だね。何がしたいわけ?」


『あはは、君の態度良いね、好戦的な性格、嫌いじゃないよ。何がしたいかなんて決まっているだろう』


「……」


『この街を壊しに来た。その前に君達を殺そうかなぁって。久しぶりに長く話せそうな相手だしね』


「易々とそんなことさせると思ってるわけ?声だけしか聞こえないけどどうせ近くにいるんでしょ?」


『そんなことはないよ、君達とはずっと遠い。それよりいいのかい?そこにいる彼女を…』


その時だった。膨大な魔力の動き、この流れ、おそらくこれの後には魔法が発動する。


『止めなくても?』


ダンンンン!!!!!


「んだ…こっ…れっ…!?」


何かの魔法だ。だが威力が桁違いすぎる。体が押し潰される感覚、という潰される。


地面に叩きつけられたようにその場に体を崩す、それはベラドンナも同じだった。徐々に私達がいた場所に窪みができ、木々などが飲み込まれ、潰されて行く。


『魔法への耐性か、二人共すごいね』


「…るさい!ベラドンナこの魔法は…ねぇ、どうしたの?」


さっきから気になっていたことだが異様にベラドンナの様子がおかしい。


「違う…なんで…私そんなつもりは…」


「…まさか…ねぇこれもベラドの…?」


『察しがいいね、その紫髪の…ええと?誰だろう。まあいいや、そうだよ、これもその子の魔法だ。その子自身が持ち合わせている魔法、けどどうしてその子がこんな事をするのかって?』


その子とはベラドンナのことだろう。そして私もどうしてベラドンナがこんな事をするのか、考えたくないがこの説しかない。


『僕が遠くから操ってる。と言っても体だけ、いやぁ僕の魔力を持ってしても一人とこの距離が限界で…』


「うるさい!黙れ!」


一先ず天の声が邪魔だ。そしてこの押し潰す魔法、いつまで持つんだ。この魔法の力を反転させてなんとか私もこれを発動させ、巻き込まれたベラドンナも持ち堪えているが長過ぎる。


「…ま、待って!体が勝手…に…」


ベラドンナは突然立ち上がった。魔法による負荷を無視しているのか、それとも無理やり立ち上がらせたのか。


「い、痛い…あ、頭が…あっあああ!!!」


その瞬間、凄まじい量の雷撃がこの辺り一面に落ちていく。


『…すごいね、かなりできる人間の魔法使いってのは魔力切れを考慮して威力を制限するって聞いたけど外した結果がこれか…』


独り言のように呟いてくる天の声、上から潰される感覚は段々消えていく。だが雷撃も降り注ぐこの中で最善の事を…


…最善の事?この魔法は天の声の主、魔王軍幹部に操られているベラドンナ、どうやら意識はあるようだが体と持ち合わせた魔法は奴の意のままに使われている。


そんなベラドンナを止めなければいけない。それが…最善の手だ。


雷撃は同じくその魔法に含まれる魔力を私の魔法で乱れさせていることでどうにか当たらないようにしている。


そしてこの威力と範囲、おそらく私どころか自分自身さえも巻き込まれる程の魔法の効果、そんなのを連続で使えば彼女の体が…


「あ…い…い…」


どうにかしようにもこの雷撃の対処で精一杯なのだ。だが彼女は既に両耳から血を流し出す程に負担がかかっている。またこの規模の魔法を繰り出されたら両方終わる。


「ベラド!どうにか操りを解除しないと!両方死ぬ!」


「私が…アナリスを殺す…?そんなの無理…でも体も魔法…もう…どうすればいいか」


『さて、頑張ってね。こっちはこっちで彼女を操るので忙しいから』













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