第148話 遭遇

目の前の男はどこにでも溶け込めそうな黒いスーツ姿で壮年な男だった。だがその顔はさわやかとは言えず、どこか陰鬱を感じさせる表情と鋭い眼光を持っていた。


だが不思議とそんな顔の持ち主でも何故だか、接しやすそうだというオーラを醸し出している。要するにただの人間ではない。


動揺こそしているだろうが、視線は一点に収まり切っている。命を晒される危険に慣れているあたりタダ者じゃない…はずだ。


冒険者の端くれでも人を見る目はそこそこあると思っている。


「…それは何なのだね?何故君達はそれを?」


先に話したのは男の方だった。口調は優しいが有無を言わせないぶりがある。


「…拳銃。奪った」


「奪った?」


「そうだよ」


ヒカルは単語で区切りながらそう言うと視線を完全に男に合わせる。ヒカルと男は俺を抜きに話し始める。


「…君達二人は何が目的なんだ?」


「それはこっちのセリフ。なんで付いて来たの?」


「……なんで、か。気になったから、だけでは済まないだろうな」


「当たり前」


「…俺は二人、いやもっと言えば君達5人を追っている組織のエージェントだ」


「なるほどなるほど」


「なんなのだ…君達は一体…」


「だから俺達もあんたらのことが分かんないだけど。大体俺達に正直にさっきまで話したんだったら最後まで頼むよ。俺達の事はその後」


「…組織の名前はTSA。最高機密機関という国家に所属しない機関、主に地球外生命体の調査を行っている」


「地球外生命体。国家に属しない。てっきりアメリカかロシアか中国かの三択かと思ってたんだけど。あと地球外生命体というのは俺達のこと?」


「…あぁ。だが異型な化け物共も含まれる。それが人間社会にバレた場合の混乱は計り知れない。そこで我々はそれらを捕獲する…君達含め」


「実際ニューヨークはそれで陥落したしね」


「あれは…!君達の仕業…なのか?」


「…違う」


「だったらあの…!ドラゴンはなんなのだ…!一体…!」


「簡単に言うとあいつらは侵略者、え〜っと前の世界、地球に来る前の場所でも世界を支配しようとしていて…で俺達5人は違う、あいつらをどうにかして倒そうって思ってる奴ら」


「なんだと?」


「一応言うけどあいつら以外にも侵略者はいる。ドイツやイギリス、香港はそれが原因でああなった」


「…なんということだ」


「信じてくれる?大抵信じられないからこの事はずっと隠し事にしてたんだけどね。で、黙っててくれるよね?俺は聞きたい事は一応聞けたし」


「…君がここで銃を撃ったらそれこそ終わりだ」


「今はそれどころじゃないよ。それに俺は地球人だし、東京駅のやつも地球人。やっぱ人間が一番恐ろしいね」


ヒカルはそう言うと拳銃を持った手を男に近づける。


男は視線を合わせたまま動かない。


「…なあヒカル殺すのか?」


俺は思わずそう聞くとヒカルはこちらに顔を向けずに


「…必要があれば。こいつらも俺達をアメリカで殺そうとしてたから」


「……すまなかった。君達の事情を知らなかったんだ」


「捕獲も殺傷も逃げる事ができたからね。地球外生命体向けのマニュアルはないの?」


「あんなの…アテにならんさ」


男はその時、微かに笑った気がした。


「…君達は何か特殊な超能力は使えるのか?」


男は拳銃を向けられながらもその事に触れずに俺達について聞いてくる。


「俺は無理。でもあの子はいける」


「あの茶髪の子か。君じゃないんだな、ヒカル君」


「俺の名前覚えてくれたんだ。ありがと」


「頼みがある。君達の力で彼らを救ってくれ…!」


男はそう言うと突然、膝をついた。これにはヒカルもさすがに困惑している様子だ。


「彼ら…?救う…?何を何から…?誰を…?」


「あの地獄にいる彼らだ。東京駅に閉じ込められ、苦しんでいる…彼ら民間人…」


男はそう言うと片膝を付いた体勢へとなった。


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