第125話 香港襲撃事件(12)

「これは…一体…何の光だ…!」


ストレイターは辺りをさっと見渡す。かなりの範囲にあたっての光、その根源は地面に張られた魔法陣にあった。


「…魔王の手に墜ちたあなたを浄化する光です。闇の力で変化したあなたを、私があなたの鎧を斬ったのはこの光をあなた自身に当てるため」


「…なるほど。全てはこのためか。最初から一人で戦っていたわけではなかったのか。私のもとに単身やって来たのは時間稼ぎのつもりか?この場に留めてこの魔法を発動させる。まったく無茶なものだ」


直後、凄まじい光が彼を襲う。高速でぶつける光には物体を押し出す光がある。ストレイターは今それをありとあらゆる方向で浴びている。


その時は数秒だった。その数秒で決着がついた…はずだ。


私は瞑っていた目を開ける。ストレイターはその場に仰向けに伏していた。


「はぁ…はぁ…終わったの…これで…」


私はそう言いながらストレイターに近づく。彼の姿、顔をもう一度見るために。しかし、

それが罠だった。


私は彼の持っている武器を見る。彼が持っているのはブーメランだ。


彼が刺又を投げた時、その刺又はいつの間にか手に戻っていた。その瞬間、私の背筋がヒヤリとする。


(まさか…!)


私は背後を見る。いや背後を見る前に左右にその姿は見えていた。


幾千ものブーメラン、それらが四方八方で私を取り囲んでいた。光で気づかなかった。


「そんな…」


私は今度こそ絶望する。この数は捌ききれない。聖なる加護でも打ち消しは不可能だ。


結局は彼との実力は同じということなのだろう。彼は死に、私も死ぬ。その時、さっき見た彼の顔が目に入る。その瞬間、私の頭の中に電流が走った。


私は剣を持つ。絶対に諦めない。それが勝利の道筋だと彼は私から離れる時教えてくれた。彼の最後で彼が去る際の最後の教えを思い出すとは…


私はフッと笑った。死を目前にしているというのに。


「私はあなたの弟子ですよ。いつまでも。あなたの教えどおりに…私はやります」


幾千もの武具に向かって私は剣を構える。だが私の正面にあったそれらが不意に消える。


(……?)


「危ない危ない。おまたせ」


消えた武具の先から紫の髪が見える。それと同時に周囲にあったはずの武具は…


「落ちろ落ちろぉ!」


「撃ち続けるぞ!ガイム!」


ライフルによってその全てが砕かれている。そして〆は…


「ホイッ!ホイッ!」


キルアがピョンピョン跳ねながら武具を消し去っていく。


「皆さん…!」


私は歓喜に包まれていた。


「まさか来れるとは思ってませんでした…アナリスさんかなり時間かかるって言ってたので」


「いやぁ、魔力ある人間が丁度三人いたからね。パッって思いつきで錬成したらうまくいったのよ」


「マジでやばかった。魔力消費多すぎ」


ガイムが疲弊してそう言っている。これで終わり…ではなかった。


「フフッ…さすがだ。私を超えたか」


この場にいるものの声ではなかった。その声の主はおそらく…


全員がその声の方向へ向いている。ストレイターは倒れたままだ。


「…生きてるのか。あれだけの魔法で」


ヒカルが驚愕の声を上げる。しかしストレイターはそんなことは気にしていない様子だ。それに生きているとは瀕死だろう。声に威厳こそあるものの、掠れてきている。


「あぁ…カノン。王女殿、こちらへ来てはくれんか?」


彼は初めて私の名前を呼ぶ。私は迷うことなく彼に近づく。


「…罠かもしれない。気をつけて」


ガイムがそう言うが、罠なわけないと思っていた。彼は死んだふりなどと言うが姑息な手は使わない。


私は彼の顔を覗き込んだ。彼はかすかに微笑んだ。


「あぁ…そのお顔、やはり変わらない。あの頃と同じだ…だが目。今はとても輝いている…」


「ヘルグレンさん…」


私は彼の下の名前を言うがすぐに訂正する。この呼びは彼にとってはあまり良い物ではないだろう。


「いいえ、バルトシュタインさん。あなたのおかげです。あなたのおかげで私はここまで来ることができました…」


「…そうか。良かった。私は…どうやら…もう時間がない…私の体、心は人間ではない。だがお願いだ…どうか、どうかあなたに私の最期を…見ていただきたい…」


「……もちろんです。師匠」


「あぁ、ありがとう。感謝する……よ……」


それからしばらくして彼は目を閉じた。辺りは静寂に包まれていた。黙祷かのように。


だがその静寂も一瞬だ。ババババという聞き慣れた音が上空を旋回していた。


「ワーオ、中華人民解放軍の方々じゃないですか。遅いしタイミング悪すぎな」


ヒカルがダメ出しをする。それにちょっと笑いそうになった。


私はもう泣かない。挫けない。前を進みます。師匠。


ヘリコプターの羽音と共に私は仲間のもとへと近づいていった。




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