1965年(7)
-ソビエト社会主義共和国連邦 チェボリサク-
ようやく長い空の旅が終わりそうだった。それを嬉しく感じながら私は外を見る。
(それにしてもここは…一体…?それと彼らは…)
私は内心そう思いながら同乗者に目をやる。道中までは相当の時間があり、お互い自己紹介となった。
目立ただしい共通点は彼らの誰もが生物学に多少なりとも知識がある学者、もしくは研究員だと言うこと。中にはまだ20代くらいの新人までいる。
私はヘリコプターに乗っている間に考えていたことを思い返す。これ程の人間を集める理由。
まずおそらくこれは機密だ。人里一つすら見渡らず、あるのは雪と林だけの景色。だが、身分証明書を見せるだけで連れて行ってもらえる杜撰さは如何ほどか…
何かを急いでいるのか…あるいは緊急事態か。前者ならばおそらくアメリカの動きも関係あるはずだ。となるとソ連の生物兵器の研究所と考えたほうがいいだろう。
ヘリコプターはゆっくりとだが、速度と高度を落としていく。吹雪はひどくないためスムーズに動いていることだろう。
その機体が地面、いやコンクリートに着地するのにそこまでの時間はかからなかった。ドアが開かれ、兵士達に導かれるように私達は降りる。
その景色はいくらか想像していたものとは違った。
まず研究所ではない。軍事基地だ。陸軍の基地だろうか。滑走路のように広い道路には戦車やトラック、装甲車両などが配備されている。
あとはコンテナや三角上の建物が並び、格納庫、それと二階建てほどのアパートのような建物、だが窓が極端に少ない。
「おい…ここは何なんだ?」
先程の若い研究員が案内している兵士にそう言うが兵士は何も答えない。だが代わりに装甲車両の裏側から出てきた年配の兵士がこちらへとやって来て、答える。
「我々はソビエト連邦軍機密捜査部門に所属している者達と言ったらいいだろうか。だが知っている者はいなかろう」
その年配の兵士の言う通りなのか誰一人としてこの組織を知る者はいないのか、何も言わない。
だが私の隣にいる研究員だか博士だか分からない人物が
「そのつまり…ゲーエルウー(GRU)なのか?」
「参謀本部総局とはそこまでの深い関係はない。ソビエト政府直属ということ以外はな」
私は理解しかねていた。こいつらはソ連軍、だが機密捜査部門とか言う謎の組織に所属している。そもそも機密が何なのかの説明がくることを私は待つことになる。
「分からないって顔だな。まあいい非常事態だ。こっちに来てもらう、それで全てが分かる」
そう言うとその年配の兵士は案内を引き継ぐ。その後は誰も喋らなくなる。
兵士がどこへ案内しているのだろうかと辺りを観察するとそれらしき建物が目に入る。
いわゆるドーム状の開閉式の天井と言ったところだろうか。それが今開かれている状態だ。おそらく地下に繋がっているであろうその場所に私達は向かっていることになる。
段々とその距離が近くなる。おそらく鉄製だろうか。多少の錆が見てとれる。中を覗けるほどになるが、螺旋階段が広がっているだけで内装はほとんど見てとれない。
私達は兵士達に案内されるがまま階段を降りて行く。高度は10m程度だろうか。落ちたら骨折だけで済まされるかは分からない。
長い階段を降りた先には何人ものソ連兵が警備にあたっていた。その先にあるのは全長幅ともに3mはあろうとかという金属製の大扉。
扉上部の赤いランプが灯されると同時にその扉は横に開かれる。どうやら相当厳重なようだ。
満を持してその中を拝見しようとするが、私は目の前の光景にただただ呆気にとられることとなる。
「なっ…!これは…っ!」
「驚くのも無理はない」
私が思わず声を上げたことに対してか年配の兵士はそう言うとツカツカとさらに奥へと足を踏み入れる。
氷、巨大な氷が目の前にはあった。だが注目するのはそこではない。
その氷の中、直径10mはありそうな氷の中全てを埋め尽くかのような長い胴体、そして巨大な鎌首型の頭、目は白目を向いているその生物はまるで
「蛇か…デカいな…」
蛇そのものだ。しかしその大きさは尋常ではない。氷でミイラ漬けにされた蛇の前に私達はただただ呆然と見ていることしかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます