1965年(2)

「俺はスケイラ マルチネス。こっちではイワン カシヤノフの名前で通ってる。よろしく」


「あぁ、こちらこそ。ところでここはどこなんだ?」


「ここはソ連国内シベリアの針葉樹林帯だ。ノヴァンシビルスクまでは近いぞ。年は1959年1月31日」


「あんたが案内役?」


「ああ、そうだな。ここに来る同僚を導く役割も供えている。働く場所はキーロフという街で、私と一緒だが、住む場所は少し違う」


「…そうか分かった。自己紹介がまだだったな。私の名前はナイジェル ブライアン。だがこれからはセルゲイ ナワリヌフとなっている。ところであんたロシア語が上手いな」


「そうか?俺はアメリカ生まれのCIA諜報員だがな。4年も暮らしていたら自然とこうなるものなのかもな。そういうあんた、ナワリヌフもだ。ロシア人の特徴通りと言ったところか」


そう言うと彼は若干だが微笑んでいた。

____________________

私は驚きはした。ハッキリと奴がそう言ったことに。何を話すかと思えば人を捜したい、しかも相手は本当の意味での同僚。


目立つことはしないのが私のモットーだ。だがこれは彼を救えるチャンスが現れたことになる。私は彼の仲間だ。立ち去ろうとしていた私を食い止めたのは神からの伝言かもしれない。


私はどう言おうと迷いながらもどうにか後を繋げる。


「…犬?何が言いたいんだ?」


私は冷静になってそう言うと男は待ってましたとばかりに口を開く。


「ラングレー。コソコソ我々を嗅ぎ回るドブ臭い犬。カシヤノフはその可能性がある。最もカシヤノフという名前が本名かは知らんがな」


「ここにスパイが入れるはずがない。厳重な身分チェックが行われるはずだ」


「そんなのはどうとでもなるさ。厳重だってんならマンハッタン計画が何故バレた?我々が核兵器を持つ理由はなんだ?あそこは厳重じゃないのか?そうじゃないよな?」


私は口を詰まらせてしまう。マンハッタン計画を安々と口に出すものではない。だが男はあっさりと言ってのけた。


そしてこの男は先程可能性があると言ったが十中八九カシヤノフをCIAだと思っている。私に話しかけたのも何かの縁だろうか。


「とにかくだ。あんたにはカシヤノフという男を連れてきてもらいたい」


「何故私に?」


「そんなの簡単だ。俺の前を通ったからだ」


……は?


「どういうことだ?」


「聞こえなかったか?俺の前を通った博士らしい奴がお前だったからだ。だからカシヤノフを連れて来いってわけだ。同じ博士同士なんだろう?あいつは違うが」


……なるほど、この男は頭がおかしい。そして高圧的だ。これでもほんとにKGBなのだろうか。


KGBの人間は常に冷静で頭がキレ、狡猾だと聞くが目の前の男にその要素があるのだろうか?顔に滲み出る狐の要素がそれか?


「それにタダではないと言ったはずだ。報酬もあるぞ。私は面倒事を行うのは嫌いなものでね」


「…普通そういうのって直接行くものでは?極秘な任務とかではないのかね?」


私は思わずそう言ってしまった。しかし男は表情を変えずに


「私は私のやり方でやる。それの何が悪い?」


「…いや…悪いというか…」


それは組織の一員として問題があるだろう。ここまで高圧的とは思わなかった。だがこの男はよく喋る。ならば


「だがあんた一人でここにってわけじゃないんだろ?同僚を売るような真似を私にさせるのか?」


「ここは私一人だ。それにそいつは同僚じゃないから安心しろ」


少なくともこいつは一人でここにいること、カシヤノフへの疑いは確信に近いことが分かった。私がさらに話を掘り下げようとすると


「とにかくだ。私は捜してきてもらいたい。国の為だと思ってくれ」


主張を曲げる気はないらしい。これ以上は何も聞けなそうだ。


「はぁ、分かった。捜した後は?」


「ここで待っている」


そう言うと男は葉巻を吸い出した。これ以上話す気すらないらしい。なんとも自分勝手な男だ。




男との会話が終わり、私はようやく研究所の中へと入る。この白い建物は清潔感という印象を私に与えるものだ。


カシヤノフことマルチネスは3階建てのこの建物の2階にいるはずだ。300人もの研究員がいるが彼は毎日ここで研究をしている。


予想通り彼は何やら資料を手に読んでいるようだ。髪が大分薄くなっているのがその目印と言ったところで案外早く見つけることができる。私は彼の横を通り際に耳に入るか入らないかの声で囁く。


「終わったら3階に。休憩所で待ってます」


私はそのまま通り過ぎる。彼が何やら訝しげにこちらを見るだろうと予測しながら私は振り向かずに立ち去る。







「俺はスケイラ マルチネス。こっちではイワン カシヤノフの名前で通ってる。よろしく」


「あぁ、こちらこそ。ところでここはどこなんだ?」


「ここはソ連国内シベリアの針葉樹林帯だ。ノヴァンシビルスクまでは近いぞ。年は1959年1月31日」


「あんたが案内役?」


「ああ、そうだな。ここに来る同僚を導く役割も供えている。働く場所はキーロフという街で、私と一緒だが、住む場所は少し違う」


「…そうか分かった。自己紹介がまだだったな。私の名前はナイジェル ブライアン。だがこれからはセルゲイ ナワリヌフとなっている。ところであんたロシア語が上手いな」


「そうか?俺はアメリカ生まれのCIA諜報員だがな。4年も暮らしていたら自然とこうなるものなのかもな。そういうあんた、ナワリヌフもだ。ロシア人の特徴通りと言ったところか」


そう言うと彼は若干だが微笑んでいた。

____________________

私は驚きはした。ハッキリと奴がそう言ったことに。何を話すかと思えば人を捜したい、しかも相手は本当の意味での同僚。


目立つことはしないのが私のモットーだ。だがこれは彼を救えるチャンスが現れたことになる。私は彼の仲間だ。立ち去ろうとしていた私を食い止めたのは神からの伝言かもしれない。


私はどう言おうと迷いながらもどうにか後を繋げる。


「…犬?何が言いたいんだ?」


私は冷静になってそう言うと男は待ってましたとばかりに口を開く。


「ラングレー。コソコソ我々を嗅ぎ回るドブ臭い犬。カシヤノフはその可能性がある。最もカシヤノフという名前が本名かは知らんがな」


「ここにスパイが入れるはずがない。厳重な身分チェックが行われるはずだ」


「そんなのはどうとでもなるさ。厳重だってんならマンハッタン計画が何故バレた?我々が核兵器を持つ理由はなんだ?あそこは厳重じゃないのか?そうじゃないよな?」


私は口を詰まらせてしまう。マンハッタン計画を安々と口に出すものではない。だが男はあっさりと言ってのけた。


そしてこの男は先程可能性があると言ったが十中八九カシヤノフをCIAだと思っている。私に話しかけたのも何かの縁だろうか。


「とにかくだ。あんたにはカシヤノフという男を連れてきてもらいたい」


「何故私に?」


「そんなの簡単だ。俺の前を通ったからだ」


……は?


「どういうことだ?」


「聞こえなかったか?俺の前を通った博士らしい奴がお前だったからだ。だからカシヤノフを連れて来いってわけだ。同じ博士同士なんだろう?あいつは違うが」


……なるほど、この男は頭がおかしい。そして高圧的だ。これでもほんとにKGBなのだろうか。


KGBの人間は常に冷静で頭がキレ、狡猾だと聞くが目の前の男にその要素があるのだろうか?顔に滲み出る狐の要素がそれか?


「それにタダではないと言ったはずだ。報酬もあるぞ。私は面倒事を行うのは嫌いなものでね」


「…普通そういうのって直接行くものでは?極秘な任務とかではないのかね?」


私は思わずそう言ってしまった。しかし男は表情を変えずに


「私は私のやり方でやる。それの何が悪い?」


「…いや…悪いというか…」


それは組織の一員として問題があるだろう。ここまで高圧的とは思わなかった。だがこの男はよく喋る。ならば


「だがあんた一人でここにってわけじゃないんだろ?同僚を売るような真似を私にさせるのか?」


「ここは私一人だ。それにそいつは同僚じゃないから安心しろ」


少なくともこいつは一人でここにいること、カシヤノフへの疑いは確信に近いことが分かった。私がさらに話を掘り下げようとすると


「とにかくだ。私は捜してきてもらいたい。国の為だと思ってくれ」


主張を曲げる気はないらしい。これ以上は何も聞けなそうだ。


「はぁ、分かった。捜した後は?」


「ここで待っている」


そう言うと男は葉巻を吸い出した。これ以上話す気すらないらしい。なんとも自分勝手な男だ。




男との会話が終わり、私はようやく研究所の中へと入る。この白い建物は清潔感という印象を私に与えるものだ。


カシヤノフことマルチネスは3階建てのこの建物の2階にいるはずだ。300人もの研究員がいるが彼は毎日ここで研究をしている。


予想通り彼は何やら資料を手に読んでいるようだ。髪が大分薄くなっているのがその目印と言ったところで案外早く見つけることができる。私は彼の横を通り際に耳に入るか入らないかの声で囁く。


「終わったら3階に。休憩所で待ってます」


私はそのまま通り過ぎる。彼が何やら訝しげにこちらを見るだろうと予測しながら私は振り向かずに立ち去る。







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