第110話 決意
「大変ですよ!あそこにいた人達が…」
「え?あたしが見る限り誰も死んでないぞ?」
「んなことよりだ!爆発に気がそれてるうちに森の中…って早えなあいつら!」
なんだかわちゃわちゃする現場で、ヒカルはもはや呆れに近い声を上げる。
そこにいたのは3機のヘリコプター。闇夜に紛れるように飛ぶ機体がこちらへと向かってきていた。
「あれってさっき言ってた…この世界の鷲(ブラックホーク)が嫌いになりそうです…」
「上手いこと言うじゃん。私それ好き」
カノンがジョークじみたことを言うが、それは俺達が危機に再び晒されることを意味する。
幸いにも周りの木々に身を潜めることに成功し、これ以上の追手は免れた。
「…なあ、ちょっと休憩とろうよ。疲れたよ俺」
俺がそう言ったタイミングでバタンキューと土に座り出す一同。
「あの…何回私達死ぬ目にあえばいいんでしょうか…」
「なんで魔王の幹部より人間に苦戦するんだろ…」
「あたしもう家に帰りたい。ここからとっとと帰りたい」
ふと俺がヒカルが持っていた双眼鏡でヘリコプター墜落現場を見た時、そこには既に米軍がいて恐怖したのは言うまでもない。
「にしてもよく壊れなかったなこれ」
「あぁ、前回のドイツの反省だな。衝撃緩和するためにクッション入れてんの。ほら」
ヒカルがバックの中を見せる。確かにそこにはスマホやらスタンガンやらが入っている。
「スタンガンでスマホぶっ壊れないの?」
「まあ大丈夫やろ。米軍が持ってた物は基本信用するからな俺は…米軍じゃなかった日本で手に入れたんだっけかこれまあいいや」
そう言うと腰のホルスターにあった拳銃を取り出す。ちなみにライフルはアナリスの便利な魔法収納を使ったらしい。ヒカルはテンプレすぎるとほざいていたが。
「さて、また手詰まりなわけで…道路の真ん中にはバス停も駅もないしな。歩きで州を
横断するわけだが…きついよな?」
ヒカルは俺にそう言う。俺に頷くことを求めているように見える。それがどうしたという感じだが
「当たり前だろ。もうすぐ現地時間で9時なんだろ?過労死するよ」
「過労死って…お前らの文化って結構日本と近いとこあるよな」
ヒカルが何か納得したような言い分で苦笑する。
「女性陣にも言ったけどさ」
ヒカルはそう言うと俺から双眼鏡を取ると
「逃げる先の目標は日本だよ。あの家な。そのためにこのアメリカから脱出しなければならない」
「そのくらい俺でも分かるよ。その為に空港に向かってるんだろ」
「そういうこと。今からやるのはアナリスの身体強化の魔法でひたすら森の中を走る。で
終わり。敵に見つかるな」
「だからそれは過労死するだろ」
話が堂々巡りな気がしてたまらない。と俺はあることが気になってヒカルに聞く。
「なあ、その空港ってどのくらいの距離だよ?」
そう言うとヒカルは動きを固まらせて、しばらく何も言わなくなる。やがて
「400km」
「え?」
「400km。マジで」
「…その距離を走るの?マジ?」
「さすがにそれは…どっかバスやら電車やらをだな。だから最寄りの街まで10km」
俺は10の数字を聞いて心底安心する。危うく死ぬところだった。
「あぁ、そういうことか。それでもう行くか?」
「そーだな。おーい出発だぞ!」
森の中でゆっくり休む女性陣にヒカルが呼びかける。
「よし、見張りお疲れガイム。早く準備しろよ」
「仕事してないからってこんな雑用押し付けんな。大体俺はヘリコプターの操縦をだな…怪我もしたし」
「魔法で治ったんだから良いだろ。早くしろ」
相変わらず振り回されてる気を感じながらも俺は準備する。
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「この魔法一回までね。じゃないと私がやばくなる」
「はあ」
アナリスの魔力の都合上もう身体強化一回ぶんとのことらしい。
「じゃ、いくよ」
そう言うと俺は体が軽くなるのを感じる。最初会った時と同じようだ。
「それじゃあ行きましょうか。キルアさーんいいですかー!」
「あいあーい。あたしが一番早いんだからよ〜。気にすんな〜」
「あんな調子で大丈夫か…よし行くぞノースカロライナ州に!」
俺は勢いよくそう言うと我先にと走り出した。
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2022年 8月10日 現地標準時
午後9時15分
アメリカ合衆国 バージニア州 ベルウッド郊外
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