第105話 米軍VS異世界人(13)

「勝手な真似するな、いいな」


ヒカルが低いボリュームでヘリコプターのパイロットを脅しにかかる。その手には先程手に入れたM16が握られている。


「なっ!?…一体…!?」


二人のパイロットはまだ状況が飲み込めていないかの驚愕の表情を浮かべ、顔を後ろに向けている。


「このヘリを街から離れさせろ、場所は…とにかくノースカロライナ州の方に」


ヒカルは冷静にパイロットに指示を出す。ヘルメットと銃口はかなり近い位置にある。


「よし全員いるね、それにしてもヘリ泥棒とはねえ」


最後に乗ってきたアナリスが薄い笑みを浮かべてそう言う。ガタンガタンと揺れる機内の衝撃とローター音でその声はいくらかかき消された。


「ひとまずはなんとか…うわ高いな」


後部ハッチから見えるその景色が地面との高さを物語る。このヘリコプターの中には30人乗ってたらしいが全員無事なはずだ。アナリスが魔法を使って俺達をヘリコプターへと飛ばし、中の乗員を安全に着地させたのを見たが、落ちたらと思うと背筋がゾッとしだす。


「兵士御一行は無事?」


「大丈夫だよ。全員生きてる。怪我一つない…」


「それは良いのですが」


カノンがなんとも言えぬ表情で続きを話す。


「彼らのその無線とかいうものは?」


「ああ、ばっちり全て壊してきた。問題ないよ」


磁力を利用してぶち壊したらしいがそこは定かではない。


そうこう話しているうちにCH-47が揺れ動き、背を曲げずに済むほどの広い機体内で俺は左端から右端へと転がる。手に持っていた銃はなんとか手放さずに済んだが。


アナリスとカノンはどうにか体制を整えたようだがキルアに至っては金属製の天井にしがみつくようにしている。


「おいい!めっちゃ揺れだぞこれ落ちるのか!?」


キルアが多少パニックになりながらパイロットを脅すヒカルに言うが、ヒカルはそれどころじゃないのか


「ちょっ!?おい勝手な真似は…おい避けろ!」


突如一発の火花が天井に撃ち出される。その撃ち出された方向を見るに後ろから見て右側のパイロットが拳銃を撃ったようだ。そのパイロットは怒りに燃えた目を俺達に向け


「誰が…仲間の仇だ!俺達が屈するものか!」


「待て待て待…」


「クソ、舐めるな!」


今度は左側のパイロットがそう言ったかと思うと機体は大きく上昇する。


後部ハッチが開いたまま一気に機体は斜めに傾き、45度程の角度のまま雲へと向かって行く。


「わっ!なっ!?何が!?」


カノンが左右に設置されている席を掴みどうにかそう言う。


再び発砲される。今度は俺のすぐそばで火花が散る。


「ヒカル!なんとか!」


アナリスが背を低くしながらそう言うとかろうじて銃を向けることができているヒカルが


「お前がなんとかしろ!魔法使えよ!」


「巻き込んじゃうよ。まずい撃ってくる、こっち来て!」


アナリスがそう言うとヒカルが後ろへと下がる。直後、影のようなものがアナリスの足元から出て、触手のように動き、パイロットの体を絡め取り


「やめろ!ぬわあああ!!!」


パイロットはそのまま後部ハッチから放り出される。


「安全機能付きのダイビングをお楽しみ」


アナリスは決め台詞を言った。だがヒカルが起き上がり何かに気づいたように


「誰か操縦は?」


……


コントロールする人間のいない機体は横に傾きながら落ち出す。なんという…


「早く!墜ちる墜ちる墜ちる」


「ここは俺が!」


一番近い俺が声を張り上げるとすぐに操縦席へとバランスをとりながら足を進める。


「その左のフォークみたいなやつを下に…引っ張るように!」


ヒカルが言うように俺は立ったまま操縦桿を操作する。


ガクン!と大きく揺れた後、コックピットから見える景色に地面がなくなったあと目の前にはビルが……ビル?


「はあああ!!!???」


精一杯の叫び声を上げる。やばいぶつかる。死ぬ。


「お前バカバカ!左に左に!」


アナリスがそう言う声が聞こえる。慌てて左へと思いきっきり操縦桿を傾ける。


機体は左へと傾く。全員がなんらかの声を上げながら左へと体が移される。ビルはコックピット右側の目の前に映っている。ガラス張りの室内にある椅子が鮮明に見える程に。


ガツン!パリン!


何かが当たる音がする。何かが割れる音がする。そして


俺は操縦桿を水平にする。当たりそうになったビルは既に通り過ぎたようだ。


「俺の作戦…後悔したぞ…俺は」


手汗がいっぱいの俺は操縦桿を握りながらもそう言った。





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