第75話 アフリカ動乱(4)
「な、何者だ!?」
俺は叫びに近い声を上げていた。怒りなのか恐怖なのか銃を持つ手が微かに痙攣する。先程建物に強襲に近い形で来られた時と比べるといくらか頭も回るようになっていた。
「…………」
「……!!」
奴は何も話さない。ただふと歩くのをやめる。それに対しても俺はただ息を漏らすだけとなっている。
先に声を上げたのは奴、優しそうな男の声だ。フサッと短い青色の髪を揺らしたあとゆっくりと丁寧に話しはじめた。
「あなたが、あなた達がザッヴァーを殺したのですか?」
それは単なる疑問なのだろうか。ザッヴァーとは何だ?人の名前か?奴の顔は笑っている。それがまた不敵に思えた。
「隊長…いつでも撃てます」
ハミルトンが俺に報告兼確認をしてくる。
「まだ撃つな」
奴が近づくまで。ブラックホークとリトルバードは墜落させられ、他の部隊を全滅させたであろう奴が目の前にいた。M4とマキシモフ専用で愛用のAK74の射程内ではあるが確実に殺さなければならない。撃とうにも奴の周りに散らばる障害物が邪魔だ。だが俺達の身を隠しているのもその障害物だ。
俺が何も答えずにいると奴はまた話し始める。
「あぁ、ザッヴァーを知らないのですか。でしたら私のことも…なるほどおもしろい」
髪をたなびかせながら近づいてくる。青いサファイアのような髪。その顔は常に見下しているかのように笑っている。
奴は視認できる限りの肉体の部位を使わずに障害物を退かす。そして段々と近づいてくる。
「あなた達は」
なんだ?
「死ぬのです」
死ぬだと?
「この」
違う。
「私」
死ぬのは。
「魔王軍幹部の」
俺達じゃない。
「ファランクスによって」
ここで死んだ全員の仇だ!
「撃てぇぇぇ!!!」
俺はそう言うと銃を持つ手に力を入れ、引き金を引いた。
弾丸は全てまっすぐにファランクスとかいう奴のもとに向かう。先程とは違い風を身にまとっていない状態だ。
にも関わらず弾丸は全て鉄壁に阻まれるかのように全てカンッ!と言ったあと落ちていく。
「ぬるいな…」
ファランクスは小さくそう言う。手を拳にすると茶色の光が拳の中から溢れてくる。
「なっ、なんだ!?」
ハミルトンがそれに気づいたのか声を上げる。
そして…ファランクスの周りの地面が建物ごと浮き上がる。浮き島のように。
「全員伏せろ!」
俺はそう言ったが直後体が宙に浮く。それは俺以外の隊員も同じだ。足が地面につかない。
「すぐに楽にしてあげよう」
俺は察した。浮かされたのは逃げられなくするため。確実に殺すため。
「降りれねぇ!どうなって…」
ロイドはプカーッと浮かんだ状態でそう言う。そもそも何故俺達は宙に浮いて…
俺はファランクスの方を見る。ファランクスは手を前へと振りかざそうと…
シュー…ドンッ!
ファランクスが炎に包まれる。丁度斜め横、
AH-6の存在が確認できた。
急に体が重くなったかと思うと俺達の体は地面に落ちる。
「うおっ…いっ…」
呻き声を上げるがすぐに体を起こす。幸い高さは2m程度だったので怪我はしていない。
『あいつ、なんて奴だ…地上部隊へ、俺達が敵の注意を引き付ける。その間にここから離れろ』
AH-6のパイロットが無線越しにそう言うのが聞こえる。ヘルファイアミサイルを撃ったようだが…
「くっ…隊長今のうちに…奴に銃が通じない以上ここにいても…」
マキシモフが苦悶の表情でそう言う。クリスも賛成だとばかりに頷く。
「…ロイド、応援要請は?」
「時間がかかるそうだ。一時撤退をしろってことらしい。リトルバードのパイロットが俺達の撤退を掩護して…っ!!」
それとほぼ同時にミサイルが発射された音と着弾の音が聞こえる。それでは終わらず機関砲の規則的な音が響き渡る。
「隊長!リトルバードの機関砲です!耐えきれるはずがありません!俺達も加勢しましょう!」
ハミルトンが状況を伝えているのかそう言ってくる。何を…奴にはヘルファイアミサイルが効かなかったはずだ。M230機関砲が効くわけがない。
「すぐにここを離れるぞ!できるだけ奴から離れる」
「隊長!?」
「いいかハミルトン。敵の強さが分からない。あれが本気じゃない可能性だってある。今俺達が立ち向かっても意味がない」
「な…っ……」
ハミルトンはそれ以上何も言わなくなった。俺達はその場から走り始めたと同時にリトルバードが俺達の周りを旋回するように飛び出した。
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