第73話 アフリカ動乱(2)

『電波良好。天気は快晴。全部隊地上調査を開始、リトルバードは旋回しろ』


「マキシモフはヘリコプターに乗って、共に偵察を頼む!」


「あいよ!GAU-19が欲しくなったらいつでも!」


マキシモフはそう言うとブラックホークに取り付けてあるガトリング砲をドアに固定させる。


「アレク、こいつは」


「ああ…」


俺とロイドは同じことを思ったらしい。人が住んでいないどころかその痕跡が消えていた。食べ物や車はその辺に長い間放置されている状態。それが一面に広がっている。


「ほんとにここなんですか?」


「そのはずだ」


ハミルトンが疑問の声を上げる。その時クリスが何かに気づいたのか


「隊長!あれを!」


その先には床に置いてある何か。違うあれは生き物。それが建物の影に隠れるようにして倒れている。


いち早く気づいたクリスがM4を構えて向かう。


「……死んでます。完全に。胸にどデカイ大穴が」


「…全員はぐれるな!俺についてこい!」


俺はそう言うとハミルトンとクリス、そしてロイドが付いてくる。


全員がM4を構え、あちこちに銃を向けながら調査する。


「死体もあれだけ。他の異常なし」


クリスがそう言った時、足が急に止まる。


「いや待て、ハミルこっちだ」


「どうし…」


クリスに呼ばれたハミルトンは動きを止める。


「た、隊長。やばいです!ここからの臭いがとんでもなく」


「臭いだと?」


俺はそう言われ咄嗟に嫌な予感がする。アフガニスタン敵勢力の制圧、その際にすぐ目の前で死んだ彼らの臭いは凄まじく、今でも忘れられない程だが。


「…間違いなく中に」


クリスは俺に語りかけるようにしてそう言った。その先は言われなくても分かった。


「俺が先に入る。後に続け。周囲の警戒を怠るな」


俺がそう言うとまず先頭に俺、ロイド、クリス、ハミルトンの順に建物の中に入っていく。


「ロイド、無線で今の状況を本部に伝えてくれ」


「分かった。こちらオメガ01。現在の状況は…」


ロイドは立ち止まり本部とやりとりをしている間に俺はどんどん中へと入っていく。黒の防弾チョッキと黒の軍用ヘルメットに汗が染み付くのが分かる。


M4の照準をいつでも合わせられるようにする。建物内の開けた場所、そこに出た俺は驚愕する。


「な、なんだこれは…」


思わず口に出ていた。横目でだがクリスとハミルトンも驚愕しているようだ。


「死体の山か、こりゃあ隊長まずいぜ」


「すぐに本部に知らせろ」


目の前には何十にも重ねられた死体。それが小さな山を作っていた。服はあちこちが破け、肌が露出した人間の死体が。腐ってウジとハエが湧いている。


その時無線越しに何かが聞こえる。


『こ、こちらストライカー02。敵だ!敵がいる!正体不明!繰り返す!正体……』


無線は途切れる。と同時にそう遠くない場所で何かが割れる、落ちる音がする。


全員が一斉にそちらへと銃を向ける。その時ロイドが俺達に追いつき走りながら言う。


「ロイド、本部には知らせたのか?」


「この地域での殺戮がここまで大規模だとは思ってなかったらしい。それに…」


ロイドがそう言いかけた時、突如今いる建物の壁が崩れ落ちる。


近くにいたクリスが後ろに下がりながら周囲に銃を向ける。壁の外に何かがいることを警戒しているようだがそこには何もいない。


しかしそこに何もないだけで凄まじい暴風が吹き荒れ、建物の中へと入ってくる。


「隊長!まずいぞこれ!」


クリスは声を荒らげる。俺はそれに反応するかのように


「皆退け!」


「隊長これは一体…」


ハミルトンは吹き荒れる暴風に困惑したようだ。


「ロイド!マキシモフから何かないのか?」


「マキシモフ!おい!駄目だ繋がらない!」


「隊長!何かが来る!」


クリスはそう言うとさらに大きく後退する。俺達もそれに合わせる。銃を一斉に向ける。M4の照準は全て崩れ落ちた壁に向けられる。


ガガガという音と共に崩れ落ちた壁を起点として再び壁の崩れが広がる。砂嵐が壁の外の景色を濁している。そしてダガンと壁がひび割れる音と共に何かが姿を現す。


「誰だ!お前は!?」


俺は人か何かも分からない存在にそうぶつける。その存在は何も答えない。だがおそらく…手をかざしている。暴風でよく見えないがおおむね人型だ。


「撃て!」


俺の一言で全員がM4を撃つ。薬莢が落ち、銃口から明るい光が灯る。だが弾丸は全て奴の周りを吹くような暴風によって有効なのかが分からない。だが、その暴風自体が止んでないため、撃ち続けても無駄かと思った時、奴のいわゆる手の部分が赤く光るのを見逃さなかった。


「全員逃げろ!!!」


俺は咄嗟にそう言って全員を建物の外へと逃がすようにする。建物から素早く全員が抜け出すと共に謎の赤い光と共に壁にヒビが入って建物が崩れ落ちる。


建物の外は快晴。にも関わらず奴の周りには暴風が吹き荒れている。雲ひとつない場所で起きているハリケーン。


「走れ!走れ!」


俺は咄嗟に撤退を命じると全員が来た道を戻っていく。その間にも後ろからは建物が崩れ落ちる音が続いて響き渡った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る