第61話 ヒカルの過去(4)

目覚めの朝もいいとして、早々にこの場を立ち去る準備をしていた。もちろん少女ことアオイを連れていって。俺はアオイを救いたいと思っている。


アオイは俺には付いてくるっちゃ付いてくるが一定の距離を置いている。俺の歩く速さに合わせ、俺が止まるとアオイも止まる。彼女の目は相変わらず曇ったままだ。


「ねぇ、ちょっといい?君を救いたいからさ」


そこからはスピーディーに、服を買って、ネットカフェでシャワーを浴びせ(覗きたかったがやめた)清潔感を出させる。そうしないと新幹線には乗れない。


そしてある意味生まれ変わったアオイはまごうとことなき薔薇の姿、美麗だった。


アオイはその自身の姿に戸惑いながらも内心喜びを感じているようだ。


「えっと…ありがとう…」


アオイは短くそう言うと若干はにかむがすぐに元の暗い表情へと戻る。ここまで無言で彼女は付いてきたわけだが、彼女の身に何があったのかは教えてもらっていないため分からない。ただ普通じゃないことがあり、それで俺から距離をとっていると。


服を着替えさせ、シャワーを浴びさせたのは新幹線に乗せるためだ。もしそのままだとしたら圧倒的な注目を浴びてしまうだろう。実際ここに来るまでに彼女をちらっと見た人物は数知れず。


なんやかんやで四国をバスで脱出し、岡山県の岡山駅に到着する。道中のバスの中でアオイは隣に座るものの一切を喋らないが、ただボーッとしているようには見えなかった。


少なくとも俺に付いてくるから俺を多少なりとも信用しているのだろう。自殺も防いだわけだし。俺も同世代の少年だからかもしれない。もしくはもうどうでもいいやと思っているかもしれない。彼女の目はいつでも暗いから。


何回か話しかけたが返事はなかった。故意に無視をしているわけではなくどこか遠い世界へと行っているような感じだった。 


俺達は今から東京都、正確には群馬県へと向かおうとしている。理由は単純ユウタに合わせるため。最初に会ったときに一応の連絡先を交換させたことが幸いだ。けど何故ユウタに会わせたいと思ったのかは謎だった。単純に皆で話したかったというのもあるかもしれないが。


そこからは簡単だ。約2万円と3時間を支払って東京駅に。そこから群馬県高崎駅に行ってバスを乗り継ぎすれば山奥へと着く。


山奥から彼の家に最初に行こうとした時の感想は「きつい。なんだここ」だ。


アオイも同じように疲れているかと思いきや、意外と平気そうだ。運動神経は良いのかもと思っているとここでアオイが俺に聞いてくる。


「私を…どうする…の?」


「どうする???」


「どうして私に優しくするの?どうしてあなたに付いていくのか…分からないの」


…要は俺が何がしたいか分からないということらしい。


「あぁ…まず付いてきたくないなら付いて来なくてもいいんだけど…まぁ君を元気にさせるためにここに来たのかな…景色とか食事とかで元気づけたかったけどそういうの俺分かんないし。何故優しくするのかって…優しくしない人でもいたのか?君を」


そう言うとアオイの顔に再び虚無感が生まれたような感じがした。そしてアオイは黙ってしまった。トラウマ。おそらくこれが彼女をこうさせてる理由だろう。


彼女はおそらく救ってほしいから俺に付いて来ているのだろう、そう考えてるうちにユウタのもとに着いていた。最初の印象はこじんまりとした山奥の一軒家。


俺は取り付けてあるインターフォンを押すと、ギーッと扉が開く。少年はいつもの無表情とは違い、若干目を見開き驚く。そりゃ麻薬の密売人の少年が女の子を連れて初訪問したら驚くだろうな。


彼は何も言わずに中に入れてくれた。だが中に入ってすぐに詰められる。


「おい、なんだよこの人」


「実はな…」


俺は今まであった経緯を説明する。


「それで…何がしたいんだお前は?普通に警察に預ければいいし、俺のもとに連れてくる意味が分からない。こんなんなら連絡先を教えなきゃよかった」


「そう言うなよ。あと警察に預けるって少年が少女を引き渡したら問題になるだろう。いろいろと」


「……何しに来たんだよ、ほんとうに」


「だから彼女を無事に送り返す方法を一緒に模索しようってわけだ。でも彼女家もないし、家族もいないからどうしようもない」


「…?じゃあどこに送り返すんだ?」


「それを考えてほしくてここに来たんだよ。頼む〜」


「とても高IQの人間とは思えんな。計画性がまったくない」


「自称高IQって言わなかったか?とりあえず話だけでも聞いてあげよう。俺だけじゃ解決できないからここに来たんだし」


「はあ」


ユウタは最後まで納得しなかった。







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