第40話 ドイツ

2022年7月13日 日本標準時

午後9時48分

三重県四日市 三重県立総合医療センター

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黒のコートを羽織った2人の男がその病院へと入る。

男達はまっすぐ受け付けに向かう。


「三重県警の者です。意識を取り戻した患者と話がしたくて。今大丈夫ですか?」


「あっ…ちょっとお待ちください」


受け付けの女性は少し慌てた様子でどこかへ行く。しばらくして戻って来ると


「えっと…大丈夫らしいです。部屋の番号は…」


受け付けの女性は部屋の番号を伝えるとその男達はスッと歩き出す。

その男達は警察官とは思えぬ風貌、そして死神のような歩き方に女性は恐怖を憶えていた。


男達は部屋の前に立ち、コンコンとノックすると「どうぞ」というか細い男性の声が聞こえた。


「三重県警の田中です。こちらは中村。お忙しい中時間をくださりありがとうごさいます」


「あ…あぁ」


「どうぞ」と言った男は再びか細い声で答える。声帯はどうやら大丈夫なようだ。

その男の顔は火傷により顔の半分を包帯に巻かれている。体の方も体の方であちこちに包帯が巻かれ痩せ細っているのが分かる。


「何があったのかお聞かせいただきませんか」


「あ…何が…」


「ゆっくりで大丈夫です。犯人逮捕のためです。あの時何があったのか」


「あ…あの時か…あの時は確か。私は会社の通勤を…電車から降りて…ですぐそこの会社に行こうとした、はずだ」


「なるほど」


「それで…何か騒がしくなった。ボヤ騒ぎとかで…それで好奇心だと思う。俺はそこに向かった…」


「そこで犯人と出くわしたと?」


「いや、炎があった、はず。炎しかなかった。天井一面まで覆う炎が突然。皆逃げ出した。俺も逃げようと思ったら…」


「……」


「ひ…炎が皆を襲いだした。俺もすぐに追いつかれて…まるで生きてた」


「……」


「それで俺は火だるまになりそうだった。けどスプリンクラーのおかげかも…体中が痛かったけど助かった。トイレに逃げたのもあるのかも…」


「……」


「それで…俺は…俺は俺は!」


「落ち着いて、ゆっくりで大丈夫です。深呼吸を」


痩せ細った男性は話を止め、大きく息を吸う。


「あの…緑の…緑の化け物が。窓を割って飛んでんたったんだ!本当だ!あれは人間じゃない!人間じゃない何かが悪魔のような形相で!そいつの手から…炎が…!そっからは覚えてない。煙を吸い込みすぎたんだと思う」


「なるほど。お話を聞かせていただきありがとうごさいました。その犯人の特徴は他にありますか?」


「特徴…特徴…ああああああああああ!!!!!!!」


痩せ細った男性は突然発狂する。

すぐに黒コートの男の1人が医者を呼びに行く。ほどなくして医者がやってきて、黒コートの男2人を追い出そうとする時


「ああああ!そいつ!そいつが俺を!そいつが『魔王様』って、そいつがそいつが!」


その痩せ細った男性に対して周りの医者や看護師が「鎮痛剤を持ってきてくれ」「大丈夫ですよ落ち着いてください」などと言う。


そして黒コートの男達2人は誰もいない病院の廊下をゆっくりと歩き。スマホを取り出す。


「こちらエージェント田村。間違いない。患者は異次元的地球外生命体と接触している。本人は錯乱状態だったが」


無線の相手は一息置いて


『やはりか…近鉄四日市駅の火災の唯一の生存者だったんだがな』


「集合場所は?」


『その事件現場の前にしよう。中谷と一緒に来てくれ』


「分かった」


黒コートは電話を切ると、スマホをポケットの中に入れる。彼のスマホのカード入れには身分証が入っていた。


【TSAエージェント #田村雅俊__たむらまさとし__#】と記された身分証が。

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2022年7月13日 中央ヨーロッパ標準時

午後2時44分

ドイツ バイエルン州 ミュンヘン空港

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「やって来ましたーミュンヘン~ってこれニューヨークでもやらなかった?ガイム?」


「うん」


ニューヨークで言ったのはアナリスで今回言ったのはヒカルのほうだ。ヒカルはあのあと寝たら元気になってた。


「飛行機嫌い」


ただ1人アナリスはカノンに背を支えられている。


「大丈夫ですか?」


「大丈夫じゃない」


どうやら結構気分が悪いみたいだ。


「…気分は絶不調だけど、異世界人の場所は大体分かった。丁度北西に120km程度。つい20分前に探知できなくなったから」


「シュツットガルトで合ってるってことかな?場所が分かるなら大分楽だな」


「ヒカルの言うとおり」


俺達はどうやら通り過ぎてしまったらしい。そのためまた戻らないと行けないようだ。

不意にカノンが話に割り込んでくる。


「120kmって…どうやってそこまで行くんですか?」


「…どうやって行くんだ?」


どうやらアナリスも分からないらしい。無論、俺も知らん。当たり前。


「それはだなぁ。お前らがまだ乗ったことのないやつで行くんだよ」


「乗ったことないやつ…あぁ、あれね…」


どうやらアナリスはヒカルが言ったことが分かったらしい。


「だがその前にまずバスに乗るぞぉ。40分の辛抱だ」


毎回思うが空港→バスの流れがすごいと思う。俺達の世界での移動は馬車が基本…なのだが、魔法をある程度使えるやつは、魔法を使って長距離移動をしていた。


魔法学の理論上、瞬間移動は可能らしいが俺はそれを使えるやつを見たことはない。


____バスに乗車して40分後____

場面は変わりミュンヘン中央駅。

俺達はこれから電車というものに乗るらしいのだ。


「なんというかここの気温は暑いというより暖かいのな」


「ドイツは西岸海洋性気候で日本とニューヨークは温暖湿潤気候だからな…意味分かるか?」


「は?」


ヒカルは俺が知っている前提で話すのが間違っている。


「とにもかくにもここは夏は暖かく、冬は涼しいの」


最初からそう言えばいいのにな。


俺達はミュンヘン中央駅の中に入ることにした。

外見は長方形の大きい豆腐型の建物がドン!と置いてあるような感じだ。


中に入ると広き奥行きのある空間へと出る。

そこは空港と同じように多くの人々が行き交っている。


壁に貼り付けられた文字パネルが空港内をカラフルに彩っている。


そしてその中心部と言える部分には赤く、長い何かがすっぽりとハマっている。


「ヒカルあれは?」


「電車。これもまた人や物を運ぶ手段の1つ。けど飛行機ほどの驚きじゃないだろ?まぁ俺は電車のほうが好きだけど」


ヒカルはそう言うと、緑色に光っている場所へと歩き出す。俺達もヒカルについていく。


「路線多いな…どれがシュツットガルトだ…?」


「これじゃないの?」


「おぉ!ナイスだ、アナリス」


「どういたしまして」


ヒカルはそう言うとチケットを4つ取り出して、俺、アナリス、カノンに手渡す。


「これをどうすればいいんですの?」


「今は持っといて、それを入れる場所があるから」


「これを…入れる…のですか…」


カノンはチケットと言う物に納得があまりいっていないようだ。


「さて、電車の旅といきましょ~」


ヒカルは声高らかにそう言った。





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