第14話 アメリカ

2022年7月12日 アメリカ東部標準時

午後1時17分

アメリカ合衆国 ニューヨーク州

スチュアート国際空港前

_________________


飛行機の飛び立つ音と共に、俺達は13時間ぶりの大地へと足を踏み出す。


「飛行機って…気持ち悪い…」


そう言っているのはアナリスだ。


「気圧のせいで、耳鳴りがすごかったからね。帰りは偏西風の影響で15.6時間かかるけど大丈夫?」


ヒカルがそう言うと、アナリスの顔が青ざめた気がした。


「それより…」


アナリスが仕切り直おそうと発言する。


「間違いなくいるね。しかも2人ほぼ同じ場所に。ここじゃないけど…その何て名前だっけ?」


「マンハッタン島のこと?」


「そう、そこ!」

 

どうやら異世界人とやらはそのマンハッタン島にいるみたいだ。


だが周りの状況を察する。見た感じだと…


「ここ田舎だけど大丈夫なのか…?どうやってそのマンハッタン島に行くんだ?」


「タクシーかバスだね。バスならもうすこしで来るらしいからそれまで待ってよう」



そう言われて待つこと40分

バスの到着時刻は、1時27分。だが一行にそのバスは現れない。


「なぁ、なんか遅くない?」 

 

俺がたまらずにそう聞くと、ヒカルが返す。


「日本だけだからね。時間厳守って国は。こことかイギリスは結構そういうのルーズだから気ままに待たないと」


「にしても暇ねぇ~」


今度はアナリスが不満の声をあげる。


「なんか面白いゲームないの?ヒカルが持ってるスマホとかでなんとかできないの?飛行機の中でずっとスマホ弄ってたし」


「あるにはあるけど、あんまりなぁ。見せたくないし」


「でもヒカルずっと何か見てたじゃん。飛行機の中でアニメみたいなの」


「……見てたのかよ。つーかアニメとかいう単語どこで知ったんだ?異世界人にしてはこの世界のこと詳しいな。ガイムは逆にこの世界知らなすぎだし」


なんだかさらっと俺をバカにされた気がする。


「私は確か本だったけな。大阪あたりで大きな建物の中にある本屋に行っていろんなやつ読んだからかな。最初は訳わからない単語とかがでてきて何のことだが分からなかったけど、半日くらいいたら大分分かってきたって感じだね」


アナリスの長話を聞いてるうちにそのバスは到着する。


「お。来たみたいだね。それじゃあ行こうか。お金に関しては俺が持ってるから安心安心。ほらガイムもさっきから黙ってないで早く」 


「はいはい。分かってるから大丈夫だよ」


「いや、分かってないでしょ」


「分かってるって!!」


ムキになって結構大きな声を出してしまったが、ヒカルはそれをよしとばかりに笑顔でバスに乗る。今のヒカルはフードを被ってないせいで、余計に表情が見えてムカつく。


バスの中には人が結構いたが3人分の席は空いていた。前からヒカル、俺、アナリスの順に椅子に座る。


「こっから1時間半くらいかな、ニューヨークまでは」


ヒカルはそう言うと、スマホをバッグから取り出して、またスマホを弄りだした。ついでにイヤホンも取り出して耳に入れている。

どうやらヒカルは暇つぶしの用意は周到のようだ。


俺とアナリスはというと、動くバスの中で動く景色をボーッと見ているだけだ。


今のところは木々と僅かな住宅しか見えない。が日本の住宅とは異なり、1つ1つの家が大きい。中には滑り台つきの庭のある家も見つけた。

それと木製ではないということだ。なので古臭い感じはせずに俺達の世界にあった建造物と似ているといえる。


やることがなくて暇すぎる。昼寝というてもあるが、飛行機の中で散々寝たせいで、多分眠れない。


「ねぇ、なんか話さない?」


不意にアナリスが俺にそう話しかけてきた。

どうやらアナリスも退屈のようだ。


「話すって何を?」


「何でもいいじゃん。えっと、それじゃあ機内食どうだった?」


「え?あれは普通にうまかった。多分この世界に来て一番うまい飯だったと思う」


機内食として出されたメニューは、卵とひき肉のそぼろと紫キャベツが入ったサラダだった。


「飛行機の中でいろんなこと教えたけどちゃんと覚えてる?」


「あ?あぁ、もちろん…だよ」


「絶対覚えてないでしょ、まぁいいけどさ」


アナリスからは飛行機の中でいろいろと教えてもらった。スマホやパソコン。いわゆるインターネットに関連した物だ。無論難しすぎて全く覚えきれなかったが。


「アナリスほど俺は賢くないからね。そう簡単に全部覚えろって言われても」


「別に覚えろなんて言ってないし」


「なんか俺に当たり強くない?」


「なんというか、君みたいな引っ込み思案な人が結構苦手でさ、ガイムって完全に陰キャだよね?結構オドオドしてるし、まぁでも磨けば光ると私は見てる」


アナリスは一気にそう話す。陰キャとか余計なお世話だ。


「磨けば光るって何だよ…ダイヤモンドみたいにか?」


「そう」


「世界で硬い物質とも言われてる。不思議なのは呼称や性質がまるっきり同じということ。この世界と私達がいた世界での…」


「お~い、お前らぁ」


突如ヒカルが話に割り込んできた。


「声のトーン低めに。周りの人が見るよ。君達傍から見たらカップルみたいだし。あと世界一硬い物質はウルツァイト窒化ホウ素だぞ」


カップル?アナリスのほうを見てみる。アナリスは俺と話すために俺の椅子の背もたれに腕まくらを作っている。

それで俺はアナリスと話すために体を後ろに向けて話している。なので目と目が近い。


あぁ、なるほど。そういうことか。


「……アナリス、なんか恥ずかしくない?」


「まぁ、話すのやめるか。もう話すネタもないし、昼寝する」


アナリスはそう言うと俺の背もたれに作った腕まくらを崩し、背もたれへもたれかかる。


「……いや、昼寝はやめたほうがいいか。確か物をとられるとかなんとか……そういえばガイムとヒカルって飛行機内でいつ寝たの?」


「俺?俺はアナリスが寝たあとすぐ寝た。君の寝顔可愛かったよ~」


ヒカルはからかうようにして言う。


「見てたんだ。まぁいいけど。ガイムも見てたっぽいし。それに私結構顔整ってるからね」


さらっと俺も見たと言われているが、俺は決して……

いや、見たな。うん。美人だって思ったな。


「まぁ、美人っちゃ美人だけど…なんつーか性格が悪そう」


ヒカルがそう言うとアナリスも返す。


「おい待て、それお前が言うことじゃないと思う」 


「まぁアナリスとも負けず劣らずって感じじゃない?」


「なんか不服だな……やばい、ホントに話すネタないや」


「外の景色でも見てな。俺は自分の世界に入ってるから」


ヒカルはそう言うとまたスマホを触りだす。

てかヒカルはスマホで何やってんだ?

イスからちょっと立ち上がり、ヒカルのイスの背もたれに腕をかけて見てみる。


スマホに映し出されていたのはアニメだった。それも結構ピンク色っぽそうなやつ。


「……ヒカル何見てんの?」


「ん?あぁ、アニメ。日本のアニメ技術は最高だからね。見る?」


どんなアニメを見ているか聞いたつもりだが、ヒカルは答えてくれなかった。


「いや、いいよ。なんか俺の性格ネジ曲がりそうなやつだし」


「そう?」


そして、ヒカルはまたスマホに没頭した。




やがて景色も変わりだす。緑が減り、段々と一軒家と人工が増えてきている。

俺はその景色をただボーッと見つめている。  

これも意外と悪くない。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る