第13話 空港
2022年7月11日 現地標準時
2時21分
グリーンランド(デンマーク領)
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…………来たか
かの有名な魔王は振り向くことなくその者が姿を表したことを察する。
ひと目で見れば、死神のような黒いマントを被った、大柄の男だ。高さは2mは有に越している。
5cmも積もった雪がそれでもまだ足りないかと言うようにゴウゴウと音を立ててその高さを上げていってる。だが、この過酷な状況にも両者は動じない。
「魔王様」
堕天使を浮かばせる緑色の痩せ細った体と羽を持つ者は、かしこまった男の声で言う。そいつが人間でないということはひと目で分かる。
「……来たか。他の者は?」
魔王は、ゆっくりと響くような低い声で話す。怒りこそ感じないものの威厳を感じる。
「申し訳ありません。ワタクシも貴方様のもとに行くときに、彼らを探したのですが、見つけきれませんでした。ですがこの世界には来ているようです。姿さえ今は見せませんが、時期にこの地へとやってくることでしょう」
「よい。彼らがこちらへ来た次第、移動する」
「左様で。しかしながらワタクシ共貴方様の幹部一同、いや、ワタクシの不注意によりののような予期せぬ事態へ陥ってしまったことを深くお詫び申し上げます」
「あちらの世界で我々をこのような目にあわせたのはなんだ?」
「おそらく彗星でございましょう。まさか貴方様の城と結界を打ち砕く威力をお持ちとは、ましてや我々幹部がいながらも、何もお役に立てなかったことが不甲斐ないです」
「過ぎたことだ。気にしてはいない。それよりエルターゼ」
魔王は一声大きく放ちその堕天使、エルターゼを呼ぶ。
「この世界にも我々の世界と同じ人間が来ているのは本当か?」
「左様でございます。魔王様の野望の弊害となる忌まわしき人間共もこちらの世界へと。ワタクシが始末してさしあげましょうか?」
「時間の無駄だ。それに彼らもこちらの世界の住人と同じ目に合わせる。我々の世界と同じように。それで我々の邪魔者も消える……貴様もこちらの世界に来たのだ……我が目的のために我にその身を捧げることを再び誓うか?」
「もちろんでございます。このエルターゼ。生ある限りあなた様の重臣となり、お役にたってみせましょう。さぁ、なんなりとご命令を」
「我が目的の遂行の準備、及び我が新たなる城を作るのだ」
エルターゼは短く言う。
「かしこまりました」
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2022年7月11日 日本標準時
午前9時13分
宮城県仙台市 仙台国際空港
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ヒカルのおごりのタクシーで、俺達は仙台空港へと来ていた。
「えっと?仙台発のニューヨーク着の便は……あった。確かスチュアート空港でいいんだよね?」
「そーだよ。つーか私お金持ってないけど。飛行機乗れるの?」
「大丈夫大丈夫。お金なら俺が持ってるからさ。それよりガイムはあのままでいいの?」
「まぁ、驚くだろうね。あれを初めて見たんじゃあね」
ヒカルとアナリスが何か言ってるが、そんなことは今気にしていなかった。
俺は見ていたのだ。空飛ぶ鉄の塊を…
「あ、あ、あれ…」
俺が呆気にとられていると、ヒカルが言う。
「あれすごいでしょ。飛行機っていうの。これに乗ってありとあらゆるところへ移動することができる」
「へ、へぇ、なるほどな。やっぱりこの世界すげぇや」
「ガイムとヒカルこっち来て!飛行機が離陸するまで時間あるっぽいから!」
辺りが騒がしい空港内てアナリスが声を上げている。
「何すんのー?」
「何って。君に魔法かけんの」
ヒカルは「魔法?」とキョトンとしている。
するとアナリスはヒカルに両手をかざす。
突然の出来事に戸惑う中、アナリスが言う。
「ガイムも手伝って」
「へ?手伝うって何を?」
「魔法。一緒に手をかざすだけでいい」
言われるがまま俺はヒカルに手をかざす。
すると、自身の指先から大量の魔力が出ていくような感じ。いわゆる脱力感を感じる。
「ちょっ!?待て待て待て待て!俺を殺す気か!?」
「よし、成功するぞぉ~」
アナリスがそう言うと、ヒカルは一瞬白く輝いたあと、すぐに戻る。
ヒカルが頭を抱えてうずくまったので辺り行き交う人々が俺達を見ている。
「んああ、頭が痛い…何したの?」
「魔法。[翻訳]のね。1人じゃできないから」
「翻訳…?てことは俺この世の全ての言語が分かるの?」
「そうだよ。その単語で意味が通じる者が100人以上いないと駄目だけどね。ちなみに自分が知っている言語を話すだけで相手に通じるからヒカルは普通に日本語喋ってたら通じる」
「マジか!俺チートキャラになった。これで異世界転生したら無双でき……ないか。俺魔法1つもできないし」
「てかさ、それここでやる必要あったか?」
俺がアナリスに向けてそう言うと、アナリスは「あ…」というような顔をしていた。
まぁ、何はともわれ俺達は飛行機が来るまで待つことにした。
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出刻 出発地 行先 航空会社
09:30 大阪 シカゴ ANA
09:45 福岡 ソウル JAL
10:00 仙台 ニューヨーク ANA
10:15 国分寺 ロンドン JAL
1時間くらい経っただろうか。空港内をブラついていると無機質な声のアナウンスが流れる。
そのアナウンスが流れると、アナリスが
「これじゃない?」
と言う。
「あぁ、そうだよ、行こうか。ガイムも早く」
ヒカルにそう言われ、俺はお土産屋の前から立ち去る。
「俺パスポート持ってないけどパスポートどうすんの?」
ヒカルはそう聞くが俺は何を言ってるのかいまいち分からない。
「パスポート知らない?海外に行くのに必要なやつなんだけど」
「え」
「あぁ、なんかそういうのあったね。私がなんとかするよ」
そう言うとアナリスは空港の中に行く。手に謎の光を僅かに発しながら。
飛行機というのに乗るには、荷物の検査がいるらしい。
鎧は目立つし、あとつけていけないとのことで、今朝いた路地裏に捨ててきている。
なので今の俺は、灰色のジャージとパジャマみたいなズボンを履いている。
ちなみにこれらは、ヒカルがどこかで買ってきたものらしい。
ヒカルとアナリス、そして俺は荷物検査を終えると、飛行機の到着場所へと向かう。
道中には、動く床があり。そこに乗ると歩かずとも前に進んだ。
もはや、こういう訳の分からないものも日常と化してきたので、これが何かは聞かなかった。てか聞いてたら切りがない。
「んと、ボーイング107便は…あ、あれだな」
ヒカルが指をさして言った方向には、白色の機体に青のカラーリングがされた飛行機だ。
「もう乗っていい時間だから早めに乗っとこう。あと飛行機お前ら初めてだろ?」
「あぁ、まぁね。どんなにすごくて面白いんだか」
アナリスは内心のわくわくを隠しきれずにそう言う。
かくして、俺達は飛行機に乗り、そこでの長い時間を過ごすのだった。
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