第10話 現地人(2)

「……なるほどね。それほんとの話?」


「君が疑ってきたじゃん。なのに信じないの?」


「いや、まぁ信じるよ。しかしほんとにそんな異世界があったなんてな。僕も1回死のうかな?」


「私は知らない。自己責任で」


「で、なんか魔法とだせるの?」


「だせるよ」


そう言うと手に力を込める。今度は炎のかわりに水の玉を作る。これは中位魔法の1つ

真水玉だ。


「これが…魔法か。改めて見るとすごいや」


そんなに驚いた様子ではないので、少々がっかりする。できれば腰を抜かしてほしかったが。


この少年は一体私達をどうするつもりだろう?だがその前に目の前の問題を解決しないといけない。魔法を消して、少年に言う。


「あのさぁ、こっから出てくれない?ここ何する場よ?正直、私結構我慢してる」


そう、ここはトイレだ。


「あ、まじ?ごめんね~、あと背中大丈夫?痛そうだったけど、君強いとか言うわりに。あと出なきゃ駄目?君逃げるかもしれないじゃん。あ、そうだ、写真撮らせてよ。それだったら逃げられないし、あとそういうトイレを我慢してる女の子って俺の性癖だし。」


少年はどこか嬉しそうだ。さらっと皮肉を言われた気がするし、写真を撮るとか冗談じゃない。あとそういう性癖ってなんだ?

やっぱりこいつは異常な奴に違いない。


「いいからぁ!出ろぉ!」


私は少年を魔法でトイレの外へ吹き飛ばした。



さて、これからどうしようか。正直魔法を使えば、彼1人から逃げることなど簡単だ。

だが、何か引っかかる。それじゃあ物足りないと。それに彼、異常な奴だが面白い奴だ。


彼には何か私達に対しての目的がある。おそらくすぐに世間にバラすということもないはずだ。

そして彼の目的はおそらく私達についていくことだ。この世界の人間も連れて行く。正直危険だがその分ハラハラドキドキが増えそうな気がする。


私は面白いことが好きだ。他人が困惑しているところが好きだ。からかってムキになっているところも好きだ。

そしてスリルがあることも好きだ。


彼を連れて行くって言ったらガイムはどういう反応をするだろうか楽しみだ。


こう考えると私のほうも異常かもしれない。 


_________________


アナリスの帰りが遅い。よほどそのコンビニとやらが遠かったのだろうか。

何かの事件に巻き込まれたということは……ないな。うん。だってドラゴン1人で倒せるんだし。


そうこう考えてるうちに、アナリスが帰って来た。隣に男を連れて。


「ごめーん。待たせたね」


アナリスはさもいつも通りのことかのように俺を話しかける。いやいや待て待て。


「えっと?隣の人は?」


俺がたまらず聞くとその男、いや少年から俺に話しかけてきた。


「君がもう1人の異世界人?変わんないねー、この世界の人間とあまり」


何やら俺がここにいる間にあちらのほうでは話が進んだらしい。てか彼も俺達と同じ、あちらの世界から来たのだろうか?


「えっと、君も異世界から?」


「いや、僕は地球生まれ、地球育ちの日本人、さっきまで異世界があることを知らなかったね」


地球生まれで地球育ち、つまり…?


「えっとね、バレちゃった。昨日私が魔法使ってるとこ見たみたい。ほらネズミを追い払った時の」


アナリスが今度は苦笑混じりに説明する。


「え?それってまずくない?」


この世界の人達にバレたらまずいと言ったのはアナリスのほうだ。


「仕方ないよ。バレたんだし、それに面白そうじゃん?」


「いや、面白そうとかじゃなくて。俺達の命に関わることだと説明したのはアナリスのほうじゃないか」


「いやまぁ、もう時は戻せないし。それに現地の住人がいたほうがいいでしょ?この世界私だって知らないことがあるんだし、彼も私達のこと黙ってくれるみたいだし」


言ってることがここに来る前と違うんだが。

すると突然、俺達のやりとりを見ていた少年が「へぇ~」と言いながら口をはさむ。


「てか、君達日本語なんだね。喋ってる言語」


「日本語?」


俺とアナリスはハモってそう言う。

少年は続ける。


「いや、異世界の人なのに喋ってる言語は日本語なんだーって思って。あ、日本語ってのはここの国の公用語」


あぁ、そういうことか。

確か俺達は…


「それは異世界人全員が翻訳の魔法をかけられているから」


アナリスがかわりに説明してくれた。


「翻訳?魔法の名前?」


「そ、私達は生まれる時、必ず翻訳って魔法がかけられるの。昔は言語の違いによる王国同士の争いがあったから偉大なる先人という人がこの魔法を作ったらしい」


「あぁ、なんとなく分かるよ。てか魔法って作れんのかよ」


「作れないことはない。専門的な知識さえあれば作れる」


ちなみに魔法を作れることは、異世界人の俺も知らない。作れんのかよ。てか誰だよ偉大なる先人って。


「へぇ、なんか都合良いね。あ、てか君達って名前あるの?」


少年は子供のような顔つきで言ったことを

アナリスが答える。


「私はアナリス。でこっちがガイム。よろしく、で君の名前は?」


「名前?あぁ、俺の名前は武本輝、ヒカルって呼んで」


「そ、よろしくね、ヒカル」


アナリスは笑顔でそう言う。


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