第7話 魔王
2022年7月10日 日本標準時 午後4時54分
宮城県仙台市 七北田川付近
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あの後30分歩いていて、今ここにいる。
アナリス曰く目的地はもう少し遠いらしいが、ここで話したいらしい。
「いいよねぇ、ここ、初めて来たけどね、話がしやすそうだ。あとコオロギっていう虫の鳴き声が良い」
アナリスは前置きとしてそう言うと、本題を話しだす。
「それでまぁ、さっきの話なんだけど、魔王がこっちの世界に来てる。それも幹部5人と一緒にね。仲良く転生したんでしょーね」
アナリスは笑いを混ぜながらそう言う。
まじか。めんどくさい。でも俺みたいな弱小冒険者の存在など知らないだろう。
「私が転生する時に魔力を感じとって距離と方向がつかめたから、多分あちら側も私達の存在に気づいていると思う」
つまり…俺がこっちへ来たことも知ってるというわけだ。じゃあ俺も命を狙われる可能性が出てきた。それだけは避けたい。
「なんとかできないのか?」
「なんとかって言ってもねぇ、協力して魔王をぶっ倒すかひっそりとスローライフを送るかのどっちかだけど、私は前者を選ぶね。魔王様や彼の幹部って中々戦えないものだし」
冗談じゃない。幹部ならまだしも魔王倒すとか。幹部でさえもあちらの世界でいう兵士150人くらいの戦力だと聞く。
そんな奴らを相手にした日には、それこそゴミの如くあっさりと掃除されるだろう。
「まぁ、待って」
アナリスはこちらを向きながらそう言うと続ける。
「ガイムって見てたら分かるけど絶対魔王を倒すって言いそうにないタイプだよね?
今そんなの冗談じゃないとでも思ってるんでしょう?
でもね、これは私達にとっても良いことだよ。」
良いことなんかあるのだろうか。
「まず、スローライフなんだけど多分送れないよ。私達の存在を魔王が知っておきながら、私達を無視すると思う?」
話を聞いて考える。魔王の性格から考えると……なさそうだ。
うちの世界の魔王は、好戦的だ。そして正面から戦うことを好んでいる。
そんな奴が俺達を放っておくはない。むしろ、見つけ出して戦うことになるだろう。とんでもない迷惑だ。
「まぁ、無理だろうな」
「でしょ?そこでこの世界で奴らを倒せばいいってわけよ」
「でもそんなこと可能なのか?」
「ガイムはこの世界についてあんまり知らないだろうけどね」
アナリスは、間をあける
「ここ君の想像以上にやばい世界だよ。いろいろとね」
ふ~んと返事をするが、それ以上何がやばいかは教えてくれなかった。
そういえばアナリスに聞いてないことがある。
「そういえば、アナリ…スってどこに転生したの?」
女の子を呼び捨てにしたことがないので、変な言い方になってしまった。
「私?」
アナリスはキョトンとした顔をしながら答える。
「私はね、徳島県だったっけな?まぁそこにいつのまにかいた。それでなんやかんやあってここにいるの」
「その徳島って遠いのか?」
「遠いよ、徳島って場所は四国だけど、ここは東北だし」
四国、東北が何は分からないが、どうやら遠いらしい。
「とにもかくにも、魔王達は転生してきたけど私達と同じ異世界人だっているわけだし、その人達を探して魔王を倒そうってわけ、だから早く探しに出かけようってわけ。それにこの世界で暮らすのなら弊害となる魔王は倒さないと私達にとっても不利益になる」
アナリスは一息にそう言う。一息に言ったせいで言い終わったあとにハァと大きく息をついていた。
ようは、今から仲間探しをするのだ。魔王を倒す準備として。
「さて、行こう」
アナリスはそう言うと再び歩き出した。思ったけどこの人自分勝手ではないか?
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2時間、魔王が来たという話を聞いてから2時間ずっと歩きぱなし、アナリスが俺に疲労無効の魔法をかけているから疲れこそしないが、精神的にはきつい。
途中で子供達を見かけた。その子供達は虫かごを手に持って、俺達の横をパパッと通り抜けていた。
アナリス曰く、近くに学校という施設があってそこで子供達を教育してるから、学校の近くには子供が多いらしい。
いろいろな事が違う、この世界についての疑問がいろいろと浮かぶ。それを思いつくたびにアナリスに色々と聞いてみる。
たまに「分からない」と言ったり、最初に言うべきとても重要そうなことを言ったりする。そんなこんなで他愛もない話をしながら歩いてきた。
あと念の為ドラゴンを1人で倒せるかも聞いたが倒せるらしい。
あと気づいたこともある。2時間歩き続けてようやく建物が増えて、畑がなくなっていった。アパートのような建物も見かけるようになってきた。
あと、トラックという車より1周り大きいものも見かけた。
あの大きさはワイバーンに匹敵するくらい大きい。アナリスはなんであんなのがいることを黙っていたのだろう。どうやら物を運ぶ車らしいが。
ふいにアナリスが口を開く。
「ねぇ、こっからがすごいからさ。目を閉じてよ」
アナリスが何を見せたいのかは分からないが、言われたとおりに目を瞑る。
「ねぇ、絶対開けないでよ?」
耳元で言われるせいで背筋がゾクッとする。
やがて手を引っ張られどこかへ連れていかれる。これはまさかムフフな展開に!?
目を開けてと言われ、目を開けると俺は丘の上にいるらしい。そして…
目の前には街があった。夕焼けに染まりオレンジ色に光輝く数え切れないほどの建物。
それら全てが夕日を反射している。
何より目立つのは、奥のほうにある建物。
高い。アパートの比じゃない。生きてきた中で一番高い建物だ。あんなのどうやって建てるんだ?
呆気にとられている間にアナリスが言う。
「あれね、高層ビルって言うらしいよ、私達の世界じゃ到底思いつかないよね」
「すごい」
出てきた一言はこれだった。もはや感想の残しようがない。それくらいすごい。
「さて、あそこに行こう、もうすこし時間がかかるけど、ここまで来たんだからね」
また歩くのかとも思いながらもどこか嬉しそうに出発の準備をする。
だが、アナリスは逆方向を向いて走る。
「え?どこ行くの?」
俺がそう問いかけると、ふいに黒い車がこちらへ向かってきていた。
「これに乗ろ~」
アナリスは笑いを混ぜながらそう言った。
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