第8話 仙台
俺達が乗ったもの、それは…
「どこまでですか?」
「あ、仙台駅まで」
「仙台駅ですね、は~い」
黒の帽子に黒の服を着た中年のおじさんはこちらを向かずにそう言う。胸元からは白いシャツが出ている。
やがて俺を左の席、アナリスを右の席へと乗せた黒い車は、発進し出す。
ガタガタと揺れる車の中。速度はそんなに出ていないが、初めての乗車は俺にとって未知なるものだ。当然きつい。
突然車が止まった。そのせいでおもわず体が倒れそうになり、隣に座っているアナリスに当たりそうになる。
アナリスは横にずれて俺の体をかわす。てか当たってくれてもよかったと思う。
俺が体を起こしたあと
「てかこれ何?」
俺は揺れる車内で気分を悪くしながらそう聞いた。
「これ?タクシー。お金を払ったら、運転手、まぁ、目の前にいる人がね、目的地まで連れていってくれるの」
「お金?ゴールド?」
「まぁ、あっちの世界ではゴールドだけど、この国じゃあ円、ドルの国もあるみたいだよ」
俺達の世界では、お金の単価はゴールドで表している。
「お客さん達どこの国から?」
突然、タクシーの運転手のおじさんから話しかけられる。
「国?」
アナリスがかわりに答える。
「だって、お客さん達日本人じゃないでしょう?観光に来たんですか?」
「えぇ、まぁ。中国から」
アナリスは俺抜きで答えていく
「中国からですか。まぁ楽しんでいってくださいね」
「え、えぇ、ありがとうございます」
話す前よりアナリスは、疲れながらにそう言う。話を合わせるのが難しかったらしい。
「大丈夫?」
心配して声をかけるもアナリスからの返事は「うん」としか返ってこなかった。
______60分後______
「…客さん、お客さん」
誰かが何かを言っている。その声によって目を覚ます。どうやらタクシーは止まっているらしい。
大あくびをしながら隣を見ると、アナリスも寝ていた。てか寝顔がかわいい。うん。
「お客さん、仙台駅に着きましたよ」
仙台駅?そういえばアナリスが言っていた場所か。
むくりと隣の影が動き出す。どうやらアナリスも目覚めたようだ。
「お代金は4750円となります」
4750円?お金の価値らしいが、俺達の世界でのお金の呼び方はゴールドだ。
それにお金なんて持っていないが大丈夫なのだろうか。
アナリスは自身が着ている黒のローブのポケットに手を入れると、そこから紙幣を取り出す。
「5000円ですね……はい、250円のお返しですね。じゃあドア開けますよ」
運転手がそう言うと右側のドアが開く。
アナリスが先に降りると、俺も降りる。するとタクシーのドアは閉まって、また発進し出してどこかに行く。あたりは結構暗くなっている。
まだ頭がぼんやりとする。アナリスは何をやっているのだろう。見るとアナリスは上を向いていた。上に何かあるのだろうか?
俺も上のほうへと向く。
そこにはタクシーに乗る前にあったビル群が目の前にあった。あっっと仰天する。
周りを見渡して見る。
たくさんの人々。そのほとんどが見たこともない服を着ていて、中には、首に何かを下げていたり、耳に何かをつけている、彼らはこぞって手に何かを持って操作している。そしてほとんどが黒髪だ。
色鮮やかにデザインされた建物。夕方だとは思わせないほど光輝いている。
時間が経つと色が次々と変わっていくL字を90度回転させた物。
その全てが、俺を魅了させた。
「アナリス…これ…って?」
「これがさっき見たやつ。高いね~」
アナリスはどうやらこのビルがどれだけ高いか知っていたような口ぶりで話す。
俺はまたこの世界の手がかりを1つ掴めた。
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2022年7月10日 日本標準時 午後8時42分
宮城県仙台市 仙台駅前
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「これからどうすんの?」
興奮も冷め終わったところでアナリスに問いかける。
「これから?宿……は無理だね。さっきのでお金全部使った」
じゃあまさか……
「野宿?」「うん」「まじ?」「うん」
これほどまでに泊まれそうな場所があるのに野宿なのか?
「だって、ここら辺は泊まれないよ。私有地だから」
なんということだ。まさかこの超高いビルを買うものがいるらしい。こういうのは国が作るものではないのか…
「てか、何の為にここに来たんだ?あとお金どこで手に入れたんだ?」
「こんなにお金使うなんて知らなかったし、お金は大阪のほうで手に入れた」
一体どんな手を使って手に入れたのかは教えてくれなかった。
その後アナリスの提案で公園、もしくは路地裏で寝ようということにした。アナリス曰く雨が降りそうなので、公園で野ざらしにされるよりかは、多少まともな路地裏が良いらしい。
「ここら辺でいいかな?」
仙台駅から15分くらい歩いて、路地裏を見つける。建物と建物に挟まれたその通路は、さっきまでいた場所よりはるかに暗い。ここだけ夜になっているみたいだ。
「てか、なんかいないよね?」
「魔物?大丈夫。魔力感知も反応しないし。何より私がいるからね、どんな魔物もイチコロ」
アナリスは自信満々に言う。それがフラグとなったのか、奥のほうからガサガサと聞こえる。
「何かな?ガイムも来てよ」
「えぇ、なんで俺まで?」
「だって男じゃん。何ビビってんの?」
逆のビビらないのか?
「ほら、行こ」
そう言うとアナリスは先へと進む。
薄暗い通路では、1つ1つの物音が響く。
「ほんとに何もいない?」
俺はたまらずそう聞く
「多分ね、まぁ、魔物以外ならいるかも」
「魔物以外って、あのイノシシみたいな?」
「そ…」
アナリスが何かを言おうとした瞬間、物陰から何かが飛び出してきた。
見た感じは、灰色の小さい動物だ。だが
これに似た動物が俺達の世界にもいた。
確かネズミとかいう。
「うわ!?こっちに向かってくる」
その小動物は、俺達めがけて向かってくる。それを気に、他の場所からもネズミが飛び出、俺達のほうへと向かって来た。どうしてこの世界の動物は俺達を見ると突進するのだろうか。
「アナリス!魔法!早く!」
片言になってしまったが、アナリスはまだ魔法を打たない。
「人いない?」
そんなことを聞いてくる場合か!あっちは体こそ小さいが、数は10を有に越している。
「それ気にしてたら俺達が死んじゃう」
「分かった」
アナリスは分かったらしい。そう言うとアナリスは、手から拳大の炎を出す。この魔法は、スキー場で俺に見せた魔法だ。
確か中位魔法の[火炎球]とか言う。
その炎はネズミ達のほうへと向かって行く。ネズミ達はそれに驚き一目散に退散する。
やがて炎は地面に着くと、あたり一面に炎を散らす。幸いにもネズミ達はそこにいなかった。もしいたらとんでもなくグロッキーなことになっていただろう。
「多分これでもう来ないでしょ。にしてもなんでこの世界の動物ってこっちに突進してくんだろ?」
どうやらアナリスも同じことを考えていたらしい。
だが、問題はまだある。
「ここで寝るの?」
「そうだよ」
あっさりと答えてくれるが、ここら辺は、匂いとホコリがすごい。何かが腐ったような匂いがする。
俺が匂いで苦悶の表情になっていた時
「それじゃあ私ご飯買ってくる」
アナリスはそう言うと通って来た道を折返していた。
俺が1人の間にゴミを片付ける。俺はアパートに住んでいるのだが、ここまで汚くはない。少しでも清潔感を出そうとした。
またネズミが出ないかとヒヤヒヤしながら。
「おまたせー」
どうやらアナリスが戻って来たらしい。
「はい、これ」
アナリスは俺に紙で包まれた何かを手渡しする。結構熱い物だ。
「これ何?」
「これ?弁当。中にいろいろ食べ物が入ってるもの」
これは弁当というらしいが、どうやって中にあるものを食べるのだろうか。
横を覗くとアナリスが豪快に弁当の包み紙を引き裂いていた。
「お、おう…」
思わず声を上げるが、アナリスは気にせず弁当の中身を食べている。
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