エピソード51 愛という名の私有財産

 いつからだろう、私はいつしかコレクター気質を拒むこともなく育んできた。収集癖、とは個人的に違う気がする。

『記号消費』という概念があるらしいことをどこかで知った。

 詳しくはよく分からないけど、文字通りの意味。そのモノ自体ではなく、モノに伴う意味合い・記号を私たちは消費している、みたいな感じだったかと思う。

『たとえ間違っていても構わない』

 こういう考え方は社会では容認されがたい。でも私の場合、更に続く、『私が分かっているのなら』、と。


 独善的だなぁ。ふとそのように思うこともある。でもそれはコレクターには少なからず求められる資質のようだとも思う。

 たった一つのイデアに対して、物質というものは有象無象に溢れている。そんな中から、自分のお気に入りを決めるのは、そうとう、強い自我が必要なはず。

 それこそ、何億人ものヒトがいる中で、血の繋がりから『家族』と再分類しているならまだしも。

 そういう意味では、運命の恋人探しに近いものがある。その対象が多いこともあれば、とある鬼のようにたった一つのルビーを何百年と探している場合もある。


「あったまる…………」

 この時期の紅茶はとても美味しい。一年の内、冬以外はほとんど珈琲を飲んでいるのに、こだわりを持つだけで、紅茶党を自認している。

 私が、全てを網羅するタイプのコレクターではなく、自分なりの価値基準や文脈・意味合いを持たせるタイプのコレクターなのも、案外、この紅茶のような言い訳を基盤にしているのかもしれない。『全て』は手に入らないことへの手向けとして。

 でも、このルールのおかげで、他の人に価値を見いだせない、あるいは初歩的なコレクションであったとしても、他の人には無い感慨を得ることができる。


「手入れが大変なのは何でも同じだけどね」

 実際はどうであれ、その人の部屋はその人の脳内・歴史を表すと思っている。

 それはコレクション一筋であることを誇示する免罪符でしかないかもしれないけれど。


「今日はとってもお利口さんだね、ふふ」

 何でもかんでも収集すればイイってものじゃないと思う。

 セレクションできて初めて自分なりのコレクションだもの。

 だからこそ一層、私の恋人コレクションが愛おしいの。

「ずっとずっとずっと、一緒だからね。他のコレクターには絶対に、何があっても渡しはしないから。

 そう、アナタの価値を一番よく分かっているのが私だから。アナタもそういう相手にされている方がいいでしょ?

 恒久に、永久に、永遠に、私の遺産であり続けてね」

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