【連作】『病みがちな元カノに福祉的なアイを』弐

 翌日、僕は軟禁状態にあった。もちろん相手は他国の諜報員でも常識外に生きる富豪でもなく、元カノだった。

「あの、これは?」

「はぁ、やっぱりあのとき死ぬべきだったかも」

 今にもこちらが殺されそうな予感だが、本心はどうもそうでないらしい。やば、今度は何されても昨日言ってた通り、目の前で死なれてしまうぞ!?

「き、聞かせて!詳しい話!」

 値踏みするような目を元カレに捧げる元カノさん。状況はどうであれ、この痛烈な目線こそ本来、受けるはずの報いなのだろうけど。


「挨拶は?」

「お、おはよう」

「そうじゃなくて!う、おはよ」

 情緒がどうもまだ安定してないっぽいなぁ。

「どーして『おやすみ』言ってくれないの!」

 Oh……それは確かに恋人ならメッセージの最後に送るのは、恥ずかしさもあるけど、まだ普通。でもふっておいて、そこまでするのは違うのではなかろうか。

「おやすみしてくれないから、めちゃくちゃ寝不足なんだよ!?」

「それは、その、ごめんなさい」

 待って、これって巧妙な束縛じゃね?

『それくらいなら、まぁ』と思わせておいて、最終的には恋人の頃より気を遣うはめに?

「美奈ちゃん、愛情の不正受給ですよそれは」

「不正!?」

「むしろこの状況は違法な取り立て行為だよ」

「違法!?うぅ、私がそれだけ愛しても報われないの?」

『ぴえん』の具現のような顔でこちらを見つめるが、もはや僕は彼女の魅力という名の魔力は解けているため、色仕掛け的な効果は発揮されない。福祉的な愛を破綻させない、つまり二人とも円満に解決されるには、過不足についてより明確に検討する必要があるらしい。

 まさか翌朝に問題がこうして浮上するとは思ってなかったけど………


 ごうか、カルマか。

 ともかく僕らは将来のために、いっそうの結びつきと離れることとを両立させなくてはならないのだった。

 恋人としても、友達としても、僕らの目指すところは答えでない。

 でも怠惰に過ごしていると、それはやがて、今のように吊し上げだけでなく、無理心中という悲嘆の底へと落っこちてしまう。


「『おやすみ』だめ?」

「とにかくまずは、紐ほどいてくれる?」

 後ろでハサミを持ってるのは知ってるけど、自然と『切ってくれる?』と言わなかったのは、まぁ、そういうことだ。そういうこと、だよな…………


[参につづく]

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