エピソード28 センシティブでシャープな愛を

「あの、どなたですか?」

 目の前の美男子はそうに尋ねる。

 きっとそれまでのボクなら、誇張でなしに血の涙を流して自暴自棄になるほどの一言だけど、今のボクには最高の言葉。

 これで何もかも上手くいく。

「驚かないで聞いてね、実はボク、何度も小清水おしみず先輩と出逢ってるんです」

「それは失敬。でもどうも見覚えは…………」

 クールな先輩が珍しく動揺してる。これも今のボクにしか見れない表情だ。ラッキー。

「よければそこのベンチで話しませんか」

「う、うん」

 キザな先輩に見合うように、ボクだってキザに振る舞うんだ。そうでなくちゃ、隣に座る資格はない。

「ちょっと待っててね」

「え、先輩?」

 スラリとした足でボクの指さした方と真逆にある方へと去ってゆく。華麗な身のこなしで避けられた?


「どうしたの?」

 そんな被害妄想が落ち着くまでに、先輩は二本の缶コーヒーを手に舞い戻ってきてくれた。やっぱりこの人しか――――


「ボク、先輩のことが好きなんです!」

 言った、言ったぞ。ついにボクは生まれ変わって、目的を果たす為に行動したんだ!

 でもおかしいな、返事は返ってこない。優雅にコーヒーブレイクな小清水先輩。焦らすのも上手なんだなぁ。


「さっきも言ったけど、本当に僕は君を覚えていないんだ」

「いいんですそんな事。今のボクじゃダメですか!?」

「今のって言われても…………」

「そんなのってないよ。、先輩の好みに生まれ変わったのに!」

「え、それは、え?」

 困ってる。でもこうなったら、とことん困らせてあげる。それが私なりの愛なんだから。


「先輩、同性愛者ですよね。でもいいんです、私、先輩を非難するつもりなんて毛頭ないですし、それに、先輩が愛してくれるなら、

「それじゃあ君は…………」

「流石、秀才として名高い先輩、お察しの通りです。私、先輩のためにこの身を捧げたんです!」

 絶句するほどに感激してくれてる。やっぱり話せば分かってくれるんだ。


「まさか、こんなにも僕を思ってくれている人がいたなんて。でも、本当にごめんなさい!謝って済む問題じゃないけど………僕にはもう、パートナーがいるんだ」

「もしかして斎藤先輩のことです?」

「そこまで知ってるなら…………」

「斎藤先輩とはもうエッチしました?」

「粗野な物言いは演技なのかな?」

「まさか、もしまだなら、私が教えてあげますよ」

「僕をそこまで不純な人間だと?」

「いいえ、純粋だからこそ、先輩はボクと寝るんです。だってもう、斎藤先輩とはお楽しみできないですからね」

「一体どういう………?」


「百聞は一見に如かず、ですよ。大丈夫です、すぐわかると思いますよ。本当になら」

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