地球防衛オホーツク支部

彩理

第1話 オホーツクフェア開催します

 雨 杜和orアメたぬき様企画参加

『第2回都道府県オープン参加小説2:宇宙人侵略その後、各都道府県はどうなっている。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816452219500906547




 3月の中旬、平年並みに海明けしたオホーツク海をドヤ顔で眺めていた男(本人は寅さん気分)の横に軽トラで乗り付け、ちょっと面倒くさそうにこの町の助役が声をかけた。


「町長~、またこんなところで油売っていないで、役場に戻ってくださいよ。いくら海を眺めても仕事が終わるまで漁には出しませんからね」


 4月とは言え現在の気温はマイナス5度。海には雪がワサワサと降り注いでいる。人口5千人足らずで牛の方が多い酪農と漁業の町がこの男たちの愛すべき故郷だった。


「町長、ちゃんと雪はらってから乗ってください。今日は本業の仕事の予定ですから、一度自宅に送りますので着替えとってきてください」


「漁に出ていいのか!?」

 町長の期待のこもった叫びに助役は深い深い溜息を吐いた。


「地球防衛の方です」


 その言葉に町長は眉間に皺を深く刻んだ。ただでさえ長年荒波にさらされてきた肌は黒ずみ固い鎧のようになっているのに、今の顔は愛する子供たちでさえビビって泣き出してしまいそうだった。


「どこのどいつだ? まったく次から次とウジ虫のように湧いて来るな」

 言い捨てた言葉は町長というよりは、やくざの親分そのものだ。


「なんでも、ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人という新参者で佐賀県を独立させたらしいですよ」

 なぜ、東京ではなく佐賀なのか? いまいちわからないが所詮新参者。地球語があまり理解できなくて、という言葉の響きで佐賀県から侵略を始めたのだろう。それだけで頭の程度が知れるというものだ。


「ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人? 聞いたことない奴らだな。佐賀県を独立させて何をやろうっていうんだ?」

 町長が途端に興味がない口調に変わった。

 つい先日、地球に大型宇宙船で乗り付けて侵略しようとした宇宙人たちを7日間で完全排除した男からしたら、佐賀県を独立させた宇宙人など構っているより、漁に出た方がよっぽど心躍ると思っているのだろう。


「佐賀県だけじゃなく、あちこちで独立宣言させて日本を征服したいみたいですよ。オホーツク物産展でも開催しますか?」


 オホーツクの春はまだまだ先だ。物産展を開くならば商品の手配が結構面倒だ。乳製品も時期的に温かくならないと動き出さないし、ホタテもカニも海明けしたばかりでは量的に足りない。オホーツクだけではブースを埋めきれない場合、規模を大きくして北海道物産展にシフトしなくてはならない。

 まったく、なんて時期に侵略してくるんだ。


「うーん、商品手配が間に合わんだろう。北海道物産展にしよう。道内の隊員に連絡して、知事にも動くことを伝えてくれ」


「知事には連絡してありますが、今それどころじゃないみたいですよ。札幌市長が便独立宣言出したいらしくて。頭を抱えてました」

 チィッという町長の舌打ちが聞こえるような気がしたが、無視をして続けた。

 札幌市長と道知事との仲が悪いことは周知の事実である。

 念のため地球防衛軍の隊員に札幌が侵略されているか確認したところ、数十人の宇宙人の確認が取れた。はじめは尾行のみだったが我々パラサイト組には洗脳の効果はないらしく、ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人を見つけ次第片っ端から拘束している。


「じゃあ、物産展を隠れ蓑にして侵略された地域に隊員を送り込む、でいいですね。あ、町長には佐賀に行ってもらいますから」


 助役はやる気なさそうに助手席に沈んでいる町長をひと睨みした。どうせ、自分はここに残って隙あらば漁に行こうと考えているに違いない。地球連合日本支部の隊長としての仕事はきちんとやってもらわなければ、パラサイトさせてもらっている人間に対して示しがつかない。


 少なくとも自分はこの地球を愛し故郷と思っている。征服して自分のモノにしてようとする宇宙人に好き勝手させるわけにはいかない。


 助役は一人決意を新たに、物産展にもっていく商品をあれこれ考えた。

 久し振りの物産展に少しわくわくしたのは町長には秘密である。


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地球防衛オホーツク支部 彩理 @Tukimiusagi

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