いつかのはなし

一刻ショウ

できそこないのかみさま


 昔々、まだ人間と神々が同じ世界に暮らしていたころのことです。

 とある山の上に、とある神様が住んでいました。

 神様には長い間仲良くしている他の神様がいたのですが、その神様が最近結婚をして子どもができたのだ、と聞いて、山の上に住む神様はそれを羨ましく思いました。神様はずっとひとりで暮らしていたのです。

 考えた結果、神様は子どもをつくることにしました。一緒に楽器を奏でたり、狩りをしたりできればきっととても楽しいだろう、と神様はわくわくと想像しました。

 けれど神様には結婚相手がいません。なので、自分ひとりで子どもをつくることにしました。


 神様はまず、自分の住んでいる山から一番きれいな大理石を見つけて切り取りました。白く滑らかな大理石で肌をつくるためです。

 大理石を削って形を整えたあと、神様は以前に人間から奉納された絹の糸を髪の毛にして、頭の上へのっけました。しかし元の色のままでは味気なく感じられます。

 そこで、神様はなにかいいものはないか、と辺りを見回しました。すると近くの水辺にアイリスが咲いています。

 アイリスの紫色の花びらを見て、これがいい、と神様は思いました。なんたって、紫は高貴な色ですから。神様の子どもにはふさわしい色です。神様はアイリスの花びらをとって、その色を髪にした絹糸へとうつしました。

 それからくっきりとした目蓋の下に、瑠璃と翡翠を混ぜ合わせた美しいまなこを嵌めこみました。

 唇には珊瑚の色を染め、歯には真珠を、舌にはアネモネの花びらを使います。

 そうして出来た神様の子どもは、とても美しい姿をしていました。

 この子の名前はどうしよう、と神様は悩みました。神様の子どもなのですから、それにふさわしい名前をつけなくてはなりません。

 神様はしばらく悩んで、そうだ、ルオウにしよう、と決めました。

 華やかで麗しい、よい響きだと、神様は自分で自分を褒めました。ルオウ、だけでは短すぎるように思われたので、やはり神様の子どもにふさわしくなるよう、も少し付け足しました。

 ようやくすべての出来に満足して、神様は子どもの体に魂を入れることにしました。これは最後の仕上げです。

 魂を入れられれば、心が芽生えて、見聞きしたり、喋ったりができるようになります。

 神様はそうっと、体へ魂を入れました。

 けれど、それは失敗だったのです。

 神様が子どもの体に入れたのは、体にふさわしい”神の魂”ではなく、たまたま近くにあった”人間の魂”でした。

 なんてことだ、と、絶望した神様は落胆の声をあげます。

 これではいけない、こんなものはふさわしくない、人間の魂だって? 神様の、自分の子どもに、人間の魂だなんて、まったくこれっぽっちもふさわしくない! 失敗だ!

 そう嘆いた神様は、出来あがった子どもを山の下へと捨ててしまいました。そうしてこのひどい出来事を誰かに慰めてもらおうと思って、山の上から飛んでいってしました。


 捨てられた神様の子どもがどうなったのか、誰も知りません。もし知っているひとがいたのなら、いつかぜひ、教えてほしいものですね。

 おしまい。

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