憤怒の世界喰らい ~魔獣喰らいの私が追放されてから十数年。女神を吸収して、敵無しとなってしまったので、勇者パーティを喰らって、今度は支配する側に回ります~

室星奏

プロローグ

『――今日をもって貴様を我が国から追放する。勇者の盟友の資格もはく奪だ。立ち去るが良い』

『まったく、今日はいつも以上に酷い目にあったぜ』

『グレイ。恨むのなら、お前の力不足を恨むんだな!』


 ――私は、非力だ。

 重い足取りで街路を歩き、奥の正門へと目指す。もう二度と、この街路をこの足で踏む事が出来なくなると思うと、心が押しつぶされそうになる。

 それは即ち、棲む場所も、帰る場所も、食べる場所も無くなると同意儀の事だったからだ。


 私の名はグレイ。世界では珍しい『魔獣喰者ビーストイーター』の天職を持った女の子だ。

 魔獣喰者ビーストイーターとは、その名の通り死亡した魔獣、及び死にかけの魔獣を自身の身体に吸収することで、そいつの持つ固有スキルを使用できるようになるといった物だ。

 基本は男がなる天職ではあるのだが、私のように女性が選ばれるというのは、これまでに例のない事であるらしく、国は私という存在を非常に重宝した。

 訓練を受け、勇者の盟友の一人として選ばれて、共に魔王を倒す旅に向かっていた。道中に出会った魔獣を吸収し尽くした事によって、今後も勇者を支える完璧な人物となる――筈だった。


 私の身体は、限界を迎えた。

 その時の事は、殆ど覚えていない。アイツらが言う事には、眼を赤く光らせ、敵味方構わず攻撃をはじめ、パーティーを壊滅にまで追いやってしまったらしい。

 ――そりゃ、追い出されるよね。

 曰く『魔獣の怨念に、身体が耐えられなくなった』らしい。沢山の魔獣を喰ってきた弊害なのだろうか。力を使っていないときは、特に問題はなかったから、気づく事が出来なかったのだろう。


「……聞こえる。あぁ――!」


 私を睨み小言を挟む忌々しい人間、そして脳裏に刻まれる魔獣の唸り声。

 黙れ、黙れよ――何で一々口を挟んでくるんだよ。


「おいやべぇ、暴走するぞ! 逃げろ逃げろ!」

「ッッーー! だっまれって言ってんのが聞こえんのか!」


 手を出す寸前だった。ギリギリ意識が踏みとどまり、振りかざそうとしていた腕を急停止させる。

 スキル【魔獣爪ビーストクロー】。腕を魔獣の如く異質な腕へと変化させ、力を増強させるスキル。これも魔獣喰者ビーストイーターによって得た力の産物だ。


 目の前の人間が、怪物を見るかのような眼でこちらを見ながら尻餅をついている。あぁ、そうか。お前は私が怪物に見えるのか。

 近くにいた近衛兵も、こちらに槍を向けて警戒する。意識はある以上、迷惑をかけるわけにもいかない。本当ならすぐにでも殺してやりたい気持ちだが、この数相手にはさすがの私でもキツい。


 大人しく従い、私は遂に王国の門外へと足を踏みいれた。


 ***


 あれから何年がたったんだろう。もう数える事すらつまらなくなってしまった。


『街が嫌いなのは分かりますけど、このままこうしていたって何も変わりませんよ?』

「……煩い」


 私の脳裏に住まう忌々しい声が、私を奮い立たせようと何度も叫び散らす。いい加減にしてくれ、さすがに耳が壊れる。


 ん? この声の主は誰かって?



 それは、そこら辺で拾った『女神』だよ。

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