事件は唐突に起こる

事件の翌日、学校には行くものの、授業もクラスメイトとの話も身が入らない。

上っ面の返事で返すことで精一杯だ。



1週間ほどたち、徐々にではあるが元通り話せるようになってきた。

いまだにショックは残っているが、恐怖というより衝撃的だったという感じだ。


本当にあったことなのだろうか。


日々ニュースで流れている行方不明事件の映像を見ているだけではないのかという気もするが、本当に見てしまったんだという気持ちもある。




それからは事件を感じるような出来事はなく、1学期の期末考査を迎えようとしていた。


事件後、学校以外ではあまりつるまなくなっていた4人は、久しぶりに一緒に勉強をすることにした。

期末試験は成績評価に大きく関わってくるため、気合を入れようということだった。



久しぶりに集まったわけだが、夏美は以前のように明るく振る舞っていた。

実力テストの成績はよかったから、その成績を超えようと夏美は言う。


怜佳の家の喫茶店で、お互いに教えあう。

全員、始めはぎこちなさはあったが、気が付けば以前と同じように話していた。


テスト最終日、事件は起こった。


1科目目の問題用紙と答案用紙が配られる。

試験開始の合図が教師から告げられる。


勉強の成果を出すため、開始直後に深呼吸をし、落ち着いて問題を読む。

落ち着いて解き、回答を書き込む。



テストの制限時間が半分を過ぎたころ、パイプ椅子が倒れる音がした。

試験監督の教師が勢いよく立ち上がる。


「ど、どうした。なんで消えているんだ」


顔を上げると、教室はざわついている。

いくつか聞こえる悲鳴の中に夏美のものがあった。


「怜佳!怜佳が・・・」


夏美は怜佳に向かって手を伸ばす。


しかしあの日の陽介のように触ることができない。


机から乗り出した夏美の体は脱力し、椅子にへたりと着地する。

教師は引きつった顔で「ここで待っていなさい」と言い、教室を出て行った。


夏美の周りには女子が集まっていた。

僕と陽介はその様子を見ていることしかできなかった。


行方不明事件を目にしたことも、耳にしたという人にも会ったことがなかったのに、半年で2件遭遇してしまった。


特に今回はクラスメイト、一緒に勉強したり遊ぶ仲だった怜佳だ。

悲しい気持ちはあるが、混乱が大きい。


そして、夏美が心配だ。



しばらくすると、警察は教師に連れられて教室にきて、ひとりずつに話を聞く。


悲しくて泣いている生徒や、訳が分からず呆然とする生徒たちで教室はカオスだ。


警察が帰った後もみんな腰が重く、なかなか帰ろうとしない。

帰れないのだ。


僕と陽介は夏美が教室を出るのを見届けて、教室を出た。

夏美は女友達と帰るようなので、任せることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る