物語の1ページ。

守織。

《研ぎ澄まされた神経を持つモンスター》の話

__今から数年前

とある喫茶店で物語は生まれた……



接客の知識は数ヶ月前に一晩で見たDVDのみ。1日でクビになった私が今の喫茶店に就職し、そこで出会った《モンスター》と呼ばれた元常連のお客様のお話です。



「珈琲が熱くない。淹れ直して」

サラダ多め、ドレッシング無し、トーストは甘いものが嫌いなのでチーズや梅のドレッシングをのせる。


梅のドレッシングとトーストが合うのかは疑問ではありますが、好みは人それぞれ。所定の席があいてない!と何故、ある会社の新聞がない!と激怒しながら《モンスター》は好んで食べていました。


毎日来て、長時間居座り文句ばっかり言う《モンスター》を常連さん達は《オーナー》だと勘違いしていましたが、次第に打ち解けおしゃべりする仲になりました。その会話の中で《モンスター》が

「私の神経は研ぎ澄まされてるから何でも気づくし、わかるんやて!」

と聞いてしまった私は《研ぎ澄まされた神経を持つモンスター》と密かに呼ぶ事にしました。



_そんな《研ぎ澄まされた神経を持つモンスター》が起こした最後の事件…


「ないッ!鍵がないッ!やっぱりこの店には泥棒がいる!本当に最低な店や!」

モンスターはいつもは車の鍵と家の鍵を机の上に置いています。その鍵が紛失しました。はい。また、なんです。2回目なのです。


数ヶ月前に失くした時も怒鳴り散らかして凄い騒動でしたが、レッカーのおじさんが優しい方で説得して下さり、家まで送ってくださいました。

「泥棒がいる店はもう行かないわッ!」と言いつつも、2日後にはやって来て堂々と居座る姿。流石モンスターです。



でも今回の件はそうもいかない、困った問題点がありました。《モンスター》の携帯の充電がなくなってしまった事。家に誰もいない事。失くした鍵がスペアの鍵だった事です。


何故、鍵作ってから来なかった!!

と、常連さん含め従業員一同頭を抱えました。




携帯はガラケーを持っている方が多く、充電器がまだ統一されていなかった為、どうしようと焦りましたが奇跡的に近所の常連さんが同じ機種を使っていた為、充電器を持ってきて下さり充電する事ができました。


《モンスター》は充電したらすぐ、友人に電話を掛けて「私を助けると思って迎えに来てッ!」と叫んでいましたが、友人は来れず数十分粘ってましたが無理でした。


当然、息子さんに電話を掛けても仕事中の為繋がらず、約6時間、騒ぎ立てるだけ騒いでタクシーで帰っていきました。



その日の夕方、息子さんが事情を聞きに来て、マネージャーが対応して下さいました。息子さんは納得してくださり、その日以来モンスターが現れる事はなくなりました……


知らない間に車も無かったですし、不完全燃焼ではありますが、この事件は謎のままにしておいた方が良さそうなので何事も無かった様に、平和に過ごしました。




それから数年の月日が経ちました。


「連絡がつかないんだけどあんたら何か知ってる!!」

《モンスター》が助けを求め電話をした友人が店に乗り込んできたのです。

見覚えのある知ってる顔だな。まさかな…とは思っていましたが、やはりでしたか…


「私達も突然来られなくなったので存じ上げません」


心配ですねと、数十分私とお話して《モンスター》の友人は帰っていきました。

類は友を呼ぶと言います、《モンスター》関連のお客様はもう2度と来ない事を従業員一同祈ります。




さて、初めて『実話』を元に物語を書いて、読んでみましたが如何だったでしょうか。

少し出禁の様な感じで店から姿を消した《研ぎ澄まされた神経を持つモンスター》は今何をしているのでしょうか。


事件の後、近所の喫茶店で《怒鳴り散らかして問題となっているお客様》のお話を噂で聞きましたが、研ぎ澄まされた神経を持つ方でない事を密かに私は願っています。

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