第13話 王族








「はぁーーーーーっっっ」




 豪華な晩餐を目の前にして上質な服を着たおじさん、もとい国王陛下が大きなため息を吐いた。




「陛下?どうなさいましたの?何が御心を煩わせていらっしゃいますの?」



 王妃が口を拭き国王に尋ねる。



「実は・・・いや、何でもない」

「父上、もしや一部で噂になっている通訳官の事ですか?」



 国王と同じ髪色の王太子が口を挟む。



「誰からそんな話を・・・」

「何ですの?その通訳官とは」


「何でも地方から来た平民女性で城の通訳官を解雇になった後、何故か魔術団お抱えの通訳官になった人物だとか。平民が地方から取り立てられるとは余程仕事が出来る様に思いますが、ほとんど図書館で翻訳をしていてつい最近解雇に。それが前例のない魔術団お抱えの通訳官に解雇になったその日に決まったと言うのですから、下の者たちは皆口を揃えて美人局か身体で就いたのだと噂していますよ」


「まぁ!なんと穢らわしい!!陛下、その様な下賤な者早く罰するべきでは!?」

「そんな事をしては、この国が一瞬で消されるぞ」

「まさか、貴方もその女狐に・・・!?」

「ち、違うぞ!!まだ会ってもおらん!!お前たち、決してその通訳官に関わるな!!これは王としての厳命だ!!」

 

 3人の話を黙って聞いていた王女は静かに紅茶を飲んでいた。国王がこの時説明しなかった事が後々に大事へと発展してしまう。








「きっと陛下もその女狐に唆されたのよ!!悔しい!!!平民の女なんかにっっっ!!!」



 王妃は元々気性が激しく嫉妬深い性格であった。公爵家の長女として生まれ貴族の学校に在籍している間、10人の皇太子の婚約者候補の中に入っていたが多くの貴族令嬢を追い落とし又は陥れ、最後は正式な婚約者の座を手にした肉食系貴族令嬢だった。

今でもその性格は変わってはいなかった。



「お母様、その女狐に思い知らせてやりましょう?」

「どうやってっ!?あの人は関わってはいけないと命令されているのですよ!?」


「そうですね・・・今度のパーティーに招待状送ってみませんか?流石に断ることは出来ないでしょうし、招待状はお父様にはバレない様にこっそり送らせましょう?」

「ふふっ平民がパーティーに着られるドレスを用意なんて出来ないんじゃないかしら?それに今招待状を送って作る事は不可能、既製品もパーティー前じゃろくなデザインの物しか残っていなくてよ♪あの場に制服で入場なさったらきっと楽しいでしょうねぇ・・・。良いわそれでいきましょう」

「貴族の洗礼をたっぷり味合わせてやりましょう!!」




 王妃と王女はパートナーを誰にするのか予想したりしながら話に花を咲かせていた。






♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎





 翌日出仕したミュナは総長から執務室に呼ばれ夜会の招待状を受け取った。

ソファーで向かい合って座り夜会の話を聞かされる。部屋には資料をまとめて他の部署に届けに行こうとしていたライナスもいる。



「え?平民の私が夜会ですか?」

「すまん・・・。どうやら広がっている噂のせいでは無いかと思っておる」

「噂?」

「ゆな嬢が・・・身体を使って職を得ているといったものだ・・・我々が否定した所で君にたらし込まれていると判断する様で、噂を止めるどころか加速してしまう始末なのだ・・・本当に申し訳ない・・・!!!ゆな嬢を任されていながら噂程度止められぬとは」


『ミュナどんな噂だ』


「それは・・・」


 ミュナが今しがた総長から聞いた話をそのままレンに伝えた。


『ミュナがたらし込んでおるのは我だけと言うに愚かな。行かねばならんのか?』

「行かなきゃならないのか聞いてますけど?」

「この招待状差出人は王妃なのだ・・・。断れないだろうな・・・。はぁ・・・陛下は何をやっているのだ・・・。」

「結局どういった意味での招待なんですか?」


「先程の噂から送ってきたとなると、『その者を罰しないのは陛下とも関係を持っている』『パーティーで恥をかかせてやる』といった意味でしょうな」

「恥・・・」

「まず一つ目にドレスが用意できないだろう事、二つ目に急にパートナーは用意出来ないであろう事、三つ目に作法・・・ダンスなどですがそれが出来ないであろう事、四つ目は恐らく制裁的な事に遭わせ辱める。大体考え得るのはこの辺りの事を狙っているのでしょう」


「あのっお話に割って入って申し訳ありません。少し宜しいでしょうか?」


 ライナスがおずおずと話しかけて来た。


「なんだ?」

「あの・・・その噂広めたのもしかしたら前の職場の通訳官達かも知れません。私が中庭でお2人に声を掛けられる前に職場でゆなさんを辱める事をしようと考えている様な話をしていたので、夜会に出るならアイツらにも気をつけてください」

「そうなんですか・・・ハルディックさん!ありがとうございます!!」

「いっいえ、気になっていたので。では私はこの書類を届けた後、魔法薬の部署で業務を行いますので失礼します」

「行ってらっしゃい!!」

「ーーっ!?行ってきます!!」


 ライナスは随分と明るくなり笑顔が出る様になった。仕事もどんどんと吸収していると人伝に聞いている。ミュナは前職場でライナスが腐って行くことにならず良かったなぁと心底思った。



 総長とライナスが言った事を再びミュナはレンに説明すると、少し考えたレンは口を開く。



『我が共にパートナーとして出よう。それで全て片付くであろう』

「総長、レンがパートナーでも問題ないですか?」

「それは構わぬよ。ただ・・・余り大きな問題を起こさぬ様にお願いしたいのだが・・・」

「どれ位の問題は大丈夫だと?」

「そうだな・・・最低でもパーティーで人を殺さない事とパーティー会場を破壊しない事、この2点だけさえ守ってくれたら大丈夫だ」


「レン、総長さんが人殺すのと会場破壊しなかったら大丈夫だって」

「ーーーん?ゆな嬢??」


ソファーから腰を少し浮かせ額に汗を滲ませた総長を気に留めることもなく話は進む。


『うむ!!それならば少し加減をすれば良いだけではないか!!任せておけ!!』

「総長さん良かったですね!!レンも余裕みたいですよ!!」


「余裕・・・何が余裕かいまいち理解できんが、まぁ国王が王妃を御しきれなかった責任もあるので良いか・・・そんな事よりゆな嬢!!昨日私が言っておった『旧原始の魔術書』を持って来たのだ!!今日はこれの翻訳が仕事だぞ!!ほれほれっ!!隣の私専用の書庫部屋にお菓子も用意してあるから早く来なさい!!レン殿はいまいち好きなものが分からんかったから酒を用意しておるぞ!!」



 先程とは打って変わって、祭りに行く前の子供の様にやたらミュナとレンを高いテンションでせっつく。総長が2人を招き入れた部屋の中はお菓子や飲み物軽食も用意されている。レン用だという1人がけソファーはクッションや毛布ワイン等用意されていて、何時間ここに留まらせる気なのだろうと思わせるほどだ。

ミュナのソファーには長時間本を読んでも疲れない様に様々な形と硬さのクッションが用意されていた。



『此奴は気が効くではないか。ミュナ其奴に我の配下になる気があるか聞いてみよ』

「総長・・・あの、レンが自分の配下になるか聞いてますけど・・・」

「私がレン殿の配下になれるのか!?嬉しい事を言ってくれる・・・あと半年で年齢的にここを去らねばならんのだが、レン殿の配下になったら2人に会いに来る口実が出来るのぅ。うぅ・・・こんな年寄りにレン殿は優しいの・・・」


『泣くほどなりたく無いのか?』

「いやいや、私たちに会いに来る理由になるから泣く程嬉しいらしいよ」

『ーーーそれは重畳・・・この酒を呑めば配下になれると伝えよ』

「え、職務中に酒・・・まぁいいか・・・。これ呑んだら配下になれるそうですよ」

 

 ミュナは兄弟の盃的なものなんだろうなと気にせず渡す。目尻に涙が溜まっている総長は、有難い物を頂いたといった風に重々しくお酒を一気に飲み干した。


 すると、白髪頭は茶髪に変わり皺のあった顔は温和な顔から精悍な顔つきに変わった。歳も30歳以上若返ってしまった。



「え・・・マズくない?」

『ほう、あの虫も殺せぬ様なジジイが全ての敵を屠る様な目付きを持っておったとは。意外ぞ』

「おおおおおおおおおおお!!!!レン殿の言葉が分かる!!レン殿の言葉が分かる!!」

『ん?我にもジジイの言葉が分かるぞ。ふむ配下になれば分かる様になるのだな。新たな発見だ』


 総長は感動に打ち震え、ミュナはどう言い訳したら良いのか悩み始めていた。


『そうだ、ジジイ』

「ジジイはやめなさい。メルド・バレンス魔術団総長だから」

「構わんよ。レン殿の配下だからな!好きに呼んでくれ」

『ーーだそうだ。それよりも大事な事を伝えておらんかったな。我の魔力がジジイにも移ったから加減せねばならんぞ?今まで通りに魔法を使用すれば簡単に城が吹き飛ぶぞ』

「なんと!!!レン殿の魔力のおこぼれを授かったとは・・・レン殿の名を汚さぬ様にこれからもっと精進致します!!!!」

『良い心がけだ。期待しているぞ?』

「勿体ないお言葉です!!!」



 この後ミュナは大変だった。それも2人に常識を擦り合わせるためである。レンは全く常識がなく総長は魔術オタクなのでいくらみんなに不審がられない言い訳を考えようと言っても、「皆にレン殿の偉大さを知らしめるべきだ」としか言わず全く考えないのである。


 最終的にレンが『我と契約をしたと言っておけ。契約内容を聞かれたらミュナは分からないで押し通して問題なかろう。彼奴らは我の言葉が分からぬのだから神経質になる必要はない。ジジイも余計な事を申すなよ』で話し合いは終了した。








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