第12話 元職場の人々









「ねぇ!知ってる?あの平民、騎士様と魔術師様に朝迎えに来てもらって魔術団の施設に行っているようなのよ!!また男騙して取り入ったんじゃ無い!?」



 通訳官の職場では就業中にも関わらず、休憩時間の様な雰囲気である。ここの上司は「長い物には巻かれろ」系スタンスの男で貴族から金銭を貰った上で試験を受けていなくても合格の印を押している。

その結果実力ある通訳官は全体の1〜2%しかいないのである。他の通訳官が役に立たないと言う事を外務大臣は身をもって知った為に、その数少ない通訳官を指名するのでこのゴミ溜めの様な部屋に有能な通訳官は全く姿を見せない。

ここは実力のない裕福貴族の掃き溜めである。その掃き溜めの通訳官の職場は先日の窓ガラスが割れた事による事故で多くの者が休んでいるが、家に居たくない者達は包帯を巻いた姿で出仕している。



「本当に!?アイツ男漁り大好きだなぁ。お偉いさんが囲うくらい良いなら一回ヤっときゃ良かったな。」

「それ、俺も思ってた!!アイツここで働いてる時下着付けてない時あったろ?あれ誘ってんのかなってずっと思ってたんだよ〜」


 一人の貴族男性は手のひらをわさわさ動かして下卑た笑みをしながら机に寄り掛かり話す。


「はぁ!?なんで知ってんのよそんな事!!」

「腕がたまたま通りかかったアイツの胸に当たったんだよ。そしたら柔らかくて「下着付けてなくないか?」って思って朝アイツにあったら下着今日は付けてるか注意して見るようになったんだよ。青色だし大きめのシャツで誤魔化せてるって思ってたんだろうけどさ、物を上に上げてる時とか服が引っ張られてさぁ・・・」


「それな〜!!俺はコイツに教えて貰ってから情報お互いに交換して、付けてない日はわざとタイミング合わせて当ててたんだよな〜追い出したからあの楽しみが無くなってつまんないよな〜」

「僕にも教えてくれたら良かったのに!!」

「お前は教えたら鷲掴みにしてバレそうだから言わなかったんだよ」

「う・・・。」


 ーーバンッッッ!!


「バッカじゃないの!!あんな情婦みたいな女のどこが良いのよ!!」


 一番ミュナを虐めていた女が机を叩き喚く。


「まぁ顔は可愛かったし、お前らみたいにキャンキャン言わないし、胸も結構大きかったよなぁ〜」

「下着付けてなくても全然垂れてないし、服の上からでも形良いの分かったしな」

「ここ居なくなる前に食っときゃ良かったーーーーっっっ!!」


「・・・そうよ!!まだお城で勤めているんだからどっかでヤれば良いじゃない?」

「そうだな!!まだヤれる可能性あるな!!おっし!!」


余計なやる気を煽りほくそ笑む女を遠くの席で、ミュナの事を休みに隠れてつけ回していた貴族の男ライナス・ハルディックが感情の無い目で見ていた。








 休憩時間ライナスは中庭でぼんやりと空を眺めていた。晴天で暖かく鳥が美しく囀る声が聴こえライナスの金髪がそよ風にサラサラ揺れる。


「(このまま午後は戻らないで街にでも行こうかな・・・。何もかもどうでもいいな・・・)」


怪我をして治療された後、意識が戻らないまま家に運ばれたのだが意識が戻って以降どうも居心地が悪い。口うるさく注意して来ていた執事は顔を合わせても何も言わなくなった。



「(追い出されるのも時間の問題・・・か)」



 ミュナが同じ職場から居なくなって何もかも楽しくない。ライナスはミュナに挨拶されるのが何よりも楽しみになっていた。好きだったのだと自覚してから自分のした事言った事が後悔となって自分の首を掻き切ろうとしてくる。



「(もぅ何もかもどうでもいいな・・・)」

「あれ?もう少しでお昼終わりますよ?」



 ライナスは素早く振り返った。聴きたかった声を間違えるはずもなくやはり元同僚の声であった。彼女は心配そうな顔をしている。隣には以前街で彼女の隣にいた男がいた。



「あっ・・・えっと・・・久しぶりだね・・・」

「そうですかね?数日会っていないだけだと思いますけど・・・」



 ライナスにとってはこの数日が数ヶ月経っているかの様な感覚に陥っていた。



「・・・君は魔術団所属の通訳官になったんだってね?おめでとう」


 ベンチに座ったまま魂の抜け殻の様な心此処にあらずといった口調で祝いの言葉を伝えた。



「あの・・・どこか具合でも悪いんじゃ無いですか?医務室行かれた方が・・・」

「ゆなさんはこんなクズにもまだ気を遣ってくれるんですね・・・」

「え?クズ!?」


 ライナスはベンチから立ち上がりミュナと顔を合わせると息を吸った。



「ゆなさん!!貴女の個人的付き合いに対して勝手に広めた事、故意にぶつかって転けさせたのに酷い事を言った事本当にすみませんでした!!」

「えっ?あっ、いえ・・・その謝って頂けたならもう良いですよ。貴方は私の事あの日以外でいじめに加担していなかったじゃ無いですか。人間一度の過ち位皆ありますよ」


「いや、私はアイツらが君を寄ってたかって傷付けているのを見ていながら黙っていたんですから、あの日以外も加担していた様なものだ・・・。本当にすまない事をしたと思っている・・・。出来れば君に何かお詫びをしたいのだけれど、心苦しいのだが私にできる事は大して無いんだ。私に出来そうな事があったら何でも言ってくれ」



『コイツは何と言っているんだ?』


 2人が長く話しそうだと思ったレンは既に近くにあった花壇の石で出来た囲いに座っている。


「えっと、以前の職場で私に対するイジメを見て見ぬふりをしたお詫びをしたいんだって」

『ーーーほぅ、ならばコイツは我が雑用に使ってやろう』

「え゛っっ・・・」

『詫びをしたいのなら別に恋人の我が使っても構わんだろう?』

「いつから恋人になったんですか?・・・前、友達って言いましたよね?」

『まぐわったら恋人の様な関係と言っていたであろう?だからミュナは我の恋人だ』

「・・・・・・。」


「彼は何を言っているんですか?私には何を言っているのか分からないのですが・・・」

「・・・つい先ほどまでこの人、私の友達だったんですけど今しがた恋人に昇格したらしくお詫びをしたいと言うなら恋人の自分が雑用に使っても良いだろうと言い出した次第です・・・雑用って今の仕事もあるのに無理なので断っておきますね。本当わがままな人ですみません」


 

 街で会った時2人は恋人ですら無かった事を今知り、早とちりして嫉妬して酷い事を自分は言い傷付けた事実に頭が働かない。彼女が職場に入ってから自分が心を開いていたら、もしかしたら彼女と付き合えていたかも知れないと考えるだけで苦しくなる。



『心配ない、此奴は魔術団所属の雑用にすれば良い』

「勝手にダメでしょ」

「・・・え?何がですか?」

「魔術団所属の雑用にしようとか言い始めたよ・・・」

『今から行くぞ!!』

「え!?」

「え?どうしーー」






「2人とも戻ってくるのが早かったな。ん?君は誰かな?」


魔術団総長が目の前にいて机の上の書類をまとめていた。


『ジジイ、コイツを魔術団所属の雑用に職場を変更させろ」

「総長、レンが彼を魔術団所属の雑用にって言ってます」

「君名前は?」

「え!?あ!!私は通訳官のライナス・ハルディックです」

「そうか、では今から魔術団所属の雑用だ。まぁ頑張りなさい」

「今日からよろしくね!!」

「えっ!?本当に職場変わったんですか!?」

「うん。総長が言っているから変わったんだと思うよ?」

『よし、では手始めに貴様はミュナが書いた物を清書しろ』

「そうですね。確かに1人いたら捗るよね!ハルディックさん私が書いた清書前の殴り書きの清書をお願いしますね」

「はっはいっ!!最善を尽くします!」



ライナス・ハルディックは雑用係という名の何でも屋にジョブチェンジを果たした彼は、仕事を任される様になると徐々に仕事に打ち込む様になり1年後には魔術団総長の秘書に再度ジョブチェンジをすることになる。








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