第9話 騎士団総長
豪華な作りの一室に魔術団総長と騎士団総長が椅子に腰掛け、主を今か今かと待ち侘びる。
ーーーガチャ
「国王陛下が参られました」
近衛騎士が扉を開け報告をすると国王が入ってきた。2人は立ち上がり礼をとり国王が座り2人にも席に座る様促され座った。
「例の召喚されたモノが見つかったというのは誠か?」
「はい、本日異常な魔力が放たれたので急いで発生元の図書館に駆けつけました所、異常な魔力を持った人間の形をした何かがおりました」
「あれはやはり勇者等ではないでしょうな・・・」
「それでその者はどうした?逃げられたのか?」
「・・・その・・・逃げられてはおりませんが・・・」
「本日解雇になった通訳官と暮らしている様なのです。その人の形をした者はその通訳官の事を気に入っている様で、私にぶつかり倒れそうになった通訳官の背中を支えましたらこの国を滅ぼす程の魔力の塊を出す程です」
「その人の形をした者は我らとは言葉が通じず、その通訳官・・・元通訳官のみ通じる様でしたので滅ぼすのを止めさせる為に魔術団で月金貨300枚で雇うことに致しました」
「金貨300枚か・・・まぁ他の予算を削れば良かろう」
「ありがとうございます」
「金貨300枚で国を守れるならば安いものだ。他の国にそのうち行くかも知れんしな。それまでの辛抱と捉えれば良いであろう」
「・・・あの異形の者も雇う事はできないでしょうか?」
「あの者は金貨如きで靡く様な者では無いぞ」
「確かにあの力が有ればこの星を自分の物に出来ますしね・・・」
「何故雇いたい?」
「南に現れた魔王を滅ぼすのに手を貸して貰えないかと考えたのですが、やはり難しいでしょうね」
「元通訳官だったか?それを人質には出来ぬのか?」
「陛下、その瞬間この国は消されましょうぞ」
「うーむ・・・自分で全て手に入れる事の出来る者には手の打ちようがないではないか。それにそれは異世界の者だぞ。親類に爵位等やれぬ上に人付き合いが一切ない状態なのだから、この国に情すら持ち合わせていない者をどうする事も出来んだろう?」
「元通訳官殿はどこの生まれであったか?」
「そうであったな!その者をこちらに付ければ良いな!」
「陛下、バレンス総長・・・大変申し訳難いのですが、その者は西のユーリングから来た者で急ぎ調べました所身寄りはおりませんでした。」
手詰まりになりどんよりとした重い空気が部屋を支配した。
「明日魔術団に出勤後、彼女と総長が説明や契約の際に私も同席して宜しいでしょうか?」
「オフェール総長にも加わってもらえるのはありがたい!ぜひ頼む」
「ん?元通訳官とは
「申しませんでしたか?」
「聞いておらぬ。どの様な
「そうですね・・・私のへそ辺りの身長で小柄で軽かったですね。年齢は23と書類に書かれていましたが、それよりはかなり幼く見えましたね」
「23!?てっきり私の孫と同じ位と思っておったわい」
「それならばどこかの王家の血筋と婚姻を結ばせてはどうだ?」
「陛下、何度も申しますがその様な行動を起こしたその瞬間この国は消されます」
「では異形の者に色を差し向けるのは可能か?」
「恐らく難しいでしょう。彼女がいなければ会話が成り立ちませんから」
「魔王に滅ぼされる前にあの者に滅ぼされたくないのなら、くれぐれも陛下は何も手出しなさいませぬ様にお願い致します」
「う、うむ、そなたらがそこまで言うとは・・・分かった。2人とも頼んだぞ」
「全力全霊で挑みます!!」
「私も人生最期の仕事として尽力致します」
騎士団総長は自身の執務室に戻りながら異形の者と元通訳官の事を考えていた。
「(ゆな嬢の対応は慎重にならねばならないな・・・。あの様なこの国が危険な状況で帰ろうとしたり、魔力の塊を落とそうとした時も無表情で見ていた・・・。通訳の仕事を解雇になった事以上に彼女がこの国が滅びても良いと思わせる事があった可能性もあるな。もっと彼女に歩み寄る姿勢を見せなければならないが、近付き過ぎれば異形の者の反感を買う・・・。難儀な・・・。)」
通訳としてゆなに異形の者との間を取り持って貰いたいが、そのゆながこの国を滅びようと気にしていない事が一番の厄介なところだと騎士団総長は思っていた。
「(彼女に何かあって怪我をした場合も、彼女の怒りに触れこの国が滅ぶ事を彼女が望んでも恐らく異形の者は一瞬でこの国を滅ぼすだろう・・・。彼女に危害が及ばぬ様に護衛を用意した方が良いかも知れんな。ーーーしかし、何故召喚された時では無く今日大きな魔力を放ったのだろう?召喚されて数日は姿を隠していたにも関わらず・・・。何か理由があるのやも知れんな。)」
この後騎士団団員達に彼女に絶対に危害を加えさせてはならない事と、護衛選抜と今日彼女の出勤してからの行動を調べなければとやらなければならない事を決めていった。
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「総長!!本日の件は本当なのですか!?あの妖しい女を城で雇うというのは!!」
まだ剣の腕はあるが経験の足りない若い騎士団団長が総長執務室に怒鳴り込んで来た。
「元々ゆな嬢は通訳官として城で働いていたのだ。なんの問題もない」
「問題大有りです!!!あの女は得体が知れません!!あの魔力が異常な男と会話が出来る時点であの男を操っているのがあの女という可能性も十分あり得ます!!」
「ゼルノール、お前は自分の言葉に気をつけた方が良いぞ。あの異形の者はゆな嬢を自分の内側に置いている。ゆな嬢をぞんざいに扱えば、あの異形の者に一瞬でこの国を滅ぼされるぞ」
「た、確かに魔力は高かったですが些か大袈裟では・・・?」
「あの者は時空魔法以外にも無属性魔法の変化・隠匿の魔法も使える」
「それは伝承に残っているあの偉大なる魔法使い様がお使いになられた!?」
「そうだ。召喚されて数日完全に姿を消していたのは恐らく変化と隠匿魔法である事は間違いない。あれ程の魔力を魔術団が感知できない等普通ではあり得ん。いつでも見張られているかも知れんと気を張れ。ーーあの姿も恐らく本当の姿では無いだろう・・・」
「ではあの女は逆に操られていると仰るのですか?」
「いや、そういった関係では無いだろう。異形の者に彼女が会ったのは数日、操っているだけであったら私が彼女の背中を支え密着しただけでこの国を滅ぼそうとはしないだろう」
「あの女を取り込まねばならないという事ですね!!」
「やめなさい。彼女はこの国をそもそも信用していない。余計な事をして彼女の不興を買うな。それから彼女に危害が加えられん様に騎士団から護衛を出す。国の存亡を左右する人選だ、お前の部下から腕の良い者を2名選んでおけ。」
「2名だけですか?」
「そうだ。2名を交代で当たらせる。実質1名だが魔術団からも1名付くから任務は2名だ。」
「承知しました!」
「それから・・・今日彼女が出勤して騒ぎが起こるまでの詳細を調べ上げて来い。これは今日中にだ」
「はっ!!!失礼します!!」
団長は敬礼をして素早く部屋を後にした。
「(これから私達の選択で安寧か混沌かが決まる・・・。魔王復活以上に厄介な問題が起きてしまったな・・・)」
魔術団総長と自分ではどうにもならない大きな問題に背もたれに体重を掛け天井を仰ぎ見た。
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