第8話「三人が出会う時」
『今日のお昼、お時間いただけませんか?』
涼介のもとに、そんな連絡が届いた。送り主は、昨日助けた相手──立花詩乃だった。
『昨日のお礼、させてください』
律儀な人だなと、メッセージを眺めながら思う。
涼介としては、そのうち機会があれば……程度に考えていた約束だったが、詩乃にとっては、そういうわけにもいかないらしい。
翌日の朝に連絡を送ってきたのが、その証拠だろう。
『わかりました。じゃあ、お昼休みに』
『はい! 場所はCalmで大丈夫ですか?』
詩乃が指定した場所は、学内にあるカフェだった。
そして、詩乃は合わせて。
『あ、それと……。友達も、一緒で大丈夫ですか?』
涼介としても、この提案はありがたかった。
詩乃との面識はあるとはいえ、ほぼ初対面に近い間柄。二人きりというのは、お互い気まずいものがあるだろうと考えていたからだ。
なので、特に反対する理由もなく。
『ええ、構いませんよ』
『ありがとうございます! それじゃ、またお昼休みに』
約束を取り付けることとなった。
■
「──えっと、立花さんは……」
昼休み。指定されたカフェへと到着した涼介は、約束の相手を探す。
どうやら、先に来て席を確保してくれているらしい。
「──あ、仁科さん。こっちですよ!」
と、名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
そちらを振り向き、声のする方へ目をやると──。
「立花さん。……と、葉月!?」
「仁科って……。り、涼介!?」
そこにいたのは、約束の相手、詩乃と……涼介もよく知っている妹、葉月だった。
「え? 仁科さんと葉月ちゃん、知り合いなんですか?」
顔見知りであることが意外だったのか。葉月と涼介を見て、驚いた表情を見せる詩乃。
「知り合いっていうか、なあ……」
「ええ。……商学部の一年生っていうから、まさかとは思ったけど……」
「それは俺もだ。こんな偶然、あるんだな……」
未だ、頭に「?」を浮かべている詩乃。
そんな詩乃に事情を説明すべく、涼介も席へと着き、自分たちの関係を説明し始めた。
■
「──ふ、双子……。すごい偶然ですね、それ」
涼介と葉月が双子であること。そして、一緒に暮らしていることを説明すると、詩乃はずいぶんと驚いた表情を見せた。
確かに、どんな確立だよ……と、涼介も思う。
「ま、そういうこともあるのかな。俺としては、ここにいるのが葉月でよかったよ」
「そうね。アタシも、詩乃を助けてくれたのがあんたでよかったわ。だって」
「「気を遣わなくて済むし(もの)」」
さすが双子。考えることが全く同じだ。
「それより……涼介、ありがとね。アタシからも、お礼を言っておくわ」
「ん、何がだ?」
「友達を助けてくれたことよ。詩乃、押しに弱い性格だからさ。アンタが仲裁に入らなかったらどうなってたことか……」
「あ、私からも、改めてお礼を言わせてください。昨日は助けてくださって、ありがとうございました」
「ああ、いや。そんなに気にしなくていいですよ。どうせ慣れてることですし」
「……そういえば、妹さんがって話、してましたよね。……そっか、そういうことだったんですね」
昨日の会話を思い出し、納得の表情を浮かべる詩乃。
確かに、葉月ほどの容姿であれば、そういうことも多々あるだろう……と、気づいたのだ。
「へ? アタシ?」
「ああ。お前がナンパされる度に、俺が仲裁に入ってただろ?」
「あー、なるほど。高校の時とか、しょっちゅうだったわよね」
「そう。だから、そういう男のあしらい方を、俺まで学んだっていうか……」
「なるほど。ふふん、これもアタシのお陰ってわけね」
「おい、調子に乗るんじゃないぞ。ほんと、いつも面倒だったんだからな……」
「──ぷっ、ふふっ」
そんな兄妹の会話を横で聞き、思わず吹き出してしまう詩乃。
「二人とも、仲がいいんですね」
「……あー、いや」
「……まあ、そうね」
「「兄妹だし」」
やや照れながら、またもシンクロを見せる二人。
別に、仲が悪いと思ったことはないのだが、改めて指摘されると恥ずかしいものである。
「──そ、それよりさ」
恥ずかしがった葉月が、強引に話題を変える。
「なんで二人とも、敬語なわけ?」
「え?」
「いや、同じ一年生なんだし……別に、敬語じゃなくてもいいんじゃない? 詩乃も、涼介も」
「あー……まあ、確かに」
涼介は、葉月以外の女性とこうして話す機会がほとんどなかった。
ゆえに、気軽に話しかけるという行為に、非常に高いハードルを感じており、どうも敬語が抜けない状態だったのだ。
それは、葉月も同じなようで……。
「私、あんまり同年代の男の子と喋ったことがなくて……」
「なるほど。なら、ちょうどいいわ。涼介なら、どんな失礼を働いても、笑って許してくれるから」
「おい。……いやまあ、別に気にはしないけど」
「ね? だから詩乃も、気にせず普通に話して大丈夫だよ?」
「葉月ちゃん……。……えっと、それじゃ」
一呼吸置き。
「仁科君。これから、よろしくね」
「あ、うん。こちらこそ、立花さん」
顔見知りから、友達に進展することができた。
葉月も、身内といって差し支えない二人が仲良くなったことに、満足した様子で。
「うんうん。それじゃ、これからも三人で遊んだりしようね!」
と、今後の計画を練るのであった。
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