第8話「三人が出会う時」

『今日のお昼、お時間いただけませんか?』


 涼介のもとに、そんな連絡が届いた。送り主は、昨日助けた相手──立花詩乃だった。


『昨日のお礼、させてください』


 律儀な人だなと、メッセージを眺めながら思う。

 涼介としては、そのうち機会があれば……程度に考えていた約束だったが、詩乃にとっては、そういうわけにもいかないらしい。

 翌日の朝に連絡を送ってきたのが、その証拠だろう。


『わかりました。じゃあ、お昼休みに』

『はい! 場所はCalmで大丈夫ですか?』


 詩乃が指定した場所は、学内にあるカフェだった。

 そして、詩乃は合わせて。


『あ、それと……。友達も、一緒で大丈夫ですか?』


 涼介としても、この提案はありがたかった。

 詩乃との面識はあるとはいえ、ほぼ初対面に近い間柄。二人きりというのは、お互い気まずいものがあるだろうと考えていたからだ。

 なので、特に反対する理由もなく。


『ええ、構いませんよ』

『ありがとうございます! それじゃ、またお昼休みに』


 約束を取り付けることとなった。



「──えっと、立花さんは……」


 昼休み。指定されたカフェへと到着した涼介は、約束の相手を探す。

 どうやら、先に来て席を確保してくれているらしい。


「──あ、仁科さん。こっちですよ!」


 と、名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

 そちらを振り向き、声のする方へ目をやると──。


「立花さん。……と、葉月!?」

「仁科って……。り、涼介!?」


 そこにいたのは、約束の相手、詩乃と……涼介もよく知っている妹、葉月だった。

「え? 仁科さんと葉月ちゃん、知り合いなんですか?」

 顔見知りであることが意外だったのか。葉月と涼介を見て、驚いた表情を見せる詩乃。


「知り合いっていうか、なあ……」

「ええ。……商学部の一年生っていうから、まさかとは思ったけど……」

「それは俺もだ。こんな偶然、あるんだな……」


 未だ、頭に「?」を浮かべている詩乃。

 そんな詩乃に事情を説明すべく、涼介も席へと着き、自分たちの関係を説明し始めた。



「──ふ、双子……。すごい偶然ですね、それ」


 涼介と葉月が双子であること。そして、一緒に暮らしていることを説明すると、詩乃はずいぶんと驚いた表情を見せた。

 確かに、どんな確立だよ……と、涼介も思う。


「ま、そういうこともあるのかな。俺としては、ここにいるのが葉月でよかったよ」

「そうね。アタシも、詩乃を助けてくれたのがあんたでよかったわ。だって」


「「気を遣わなくて済むし(もの)」」


 さすが双子。考えることが全く同じだ。


「それより……涼介、ありがとね。アタシからも、お礼を言っておくわ」

「ん、何がだ?」

「友達を助けてくれたことよ。詩乃、押しに弱い性格だからさ。アンタが仲裁に入らなかったらどうなってたことか……」

「あ、私からも、改めてお礼を言わせてください。昨日は助けてくださって、ありがとうございました」

「ああ、いや。そんなに気にしなくていいですよ。どうせ慣れてることですし」

「……そういえば、妹さんがって話、してましたよね。……そっか、そういうことだったんですね」


 昨日の会話を思い出し、納得の表情を浮かべる詩乃。

 確かに、葉月ほどの容姿であれば、そういうことも多々あるだろう……と、気づいたのだ。


「へ? アタシ?」

「ああ。お前がナンパされる度に、俺が仲裁に入ってただろ?」

「あー、なるほど。高校の時とか、しょっちゅうだったわよね」

「そう。だから、そういう男のあしらい方を、俺まで学んだっていうか……」

「なるほど。ふふん、これもアタシのお陰ってわけね」

「おい、調子に乗るんじゃないぞ。ほんと、いつも面倒だったんだからな……」


「──ぷっ、ふふっ」


 そんな兄妹の会話を横で聞き、思わず吹き出してしまう詩乃。


「二人とも、仲がいいんですね」

「……あー、いや」

「……まあ、そうね」


「「兄妹だし」」


 やや照れながら、またもシンクロを見せる二人。

 別に、仲が悪いと思ったことはないのだが、改めて指摘されると恥ずかしいものである。


「──そ、それよりさ」


 恥ずかしがった葉月が、強引に話題を変える。


「なんで二人とも、敬語なわけ?」

「え?」

「いや、同じ一年生なんだし……別に、敬語じゃなくてもいいんじゃない? 詩乃も、涼介も」

「あー……まあ、確かに」


 涼介は、葉月以外の女性とこうして話す機会がほとんどなかった。

 ゆえに、気軽に話しかけるという行為に、非常に高いハードルを感じており、どうも敬語が抜けない状態だったのだ。

 それは、葉月も同じなようで……。


「私、あんまり同年代の男の子と喋ったことがなくて……」

「なるほど。なら、ちょうどいいわ。涼介なら、どんな失礼を働いても、笑って許してくれるから」

「おい。……いやまあ、別に気にはしないけど」

「ね? だから詩乃も、気にせず普通に話して大丈夫だよ?」

「葉月ちゃん……。……えっと、それじゃ」


 一呼吸置き。


「仁科君。これから、よろしくね」

「あ、うん。こちらこそ、立花さん」


 顔見知りから、友達に進展することができた。

 葉月も、身内といって差し支えない二人が仲良くなったことに、満足した様子で。


「うんうん。それじゃ、これからも三人で遊んだりしようね!」


 と、今後の計画を練るのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る