文藝と官能小説の狭間で

呪文堂

第1話 【R 15】とは、なんだろう?

 皆さん、こんにちは。呪文堂です。

 実は、拙作『握りたい勇者と渡さない美少女』が、カクヨムガイドラインの【過剰な性描写】に該当してしまいましてっ!


 現在、全文を『修正』するために一旦非公開とさせて頂いております。お読み頂きました皆様、本当に申し訳ございませんっ!


 当初は『本作からエロが消えてしまったら鰻のない鰻重のようなもの!ありえないっ!不当表示だ!詐欺師になってしまうっ!』と嘆きのたうち回り、ならばいっそのこと他所で続けようか・・(涙)とも考えたものです。


 しかし、ですね。

 他で出すとなると『密林』で販売するか、または【R18】での公開という方向になる。


 『密林』での販売は、そのうちやってみたいとは思いますが、なんとなく今じゃない。

 では、【R18】許容プラットホームでの掲載か?となるのですが、これは違うんですよね、読者層が。

 つまり、【R18】にいらっしゃる方々は、純粋に『エロ』を求めている。

 ところが私は『エロスから生命を語りたい』と考えているのです。


 瞬時に消費されるエロではなく、体内に渦巻き生命を導いていくようなエロスを描きたい、そう考えているのです。あ、勘違い頂きたくはないのですが、どちらが『高尚』か、とかではないのです。『目的』が違う。

 もしもですよ。拙作『握りたい勇者と渡さない美少女』をそのまま【R 18】に掲載してしまうと、たまぁにあるじゃないですか、AVなのに妙なところで芸術気取ってシラケちゃう作品。抜けんっ!あれになっちゃう。

 それは駄目なんですね。・・困りました。


 そしたらね。ふと閃いたんですっ!


 『真・握りたい勇者と渡さない美少女』

 『超!握りたい勇者と渡さない美少女』


 この二つに分岐させ、それぞれクラスチェンジさせればいいんだっ!


 『真』バージョンは【許されるエロス】を探りながら、生命を探求する【文藝型】。


 対する『超』は【極限のエロ】に驀進しながら、脳内快楽を追求する【官能小説型】。

 

 そうです、『真』をカクヨムで掲載し、『超』は他所の【R18】で掲載する。

 これならば、自分の欲求を最大化できる!そう気づいたんですね。

 『エロも書きたいし、哲学も探求したい』そんな我が儘を満たすことができます。


 【極限のエロ】の方はね。今まで抑制していた筆圧をリミッター解除しちゃえばいいだけのこと!ガンガンいっちゃいますよっ!

 (なははっ!リンちゃんっ!許してっ!)


※筆者注釈 :「リンちゃん」とは拙作『握りたい勇者と渡さない美少女』のヒロインなのです。健気で可愛い女の子です。



 さて、問題は【許されるエロス】の方ですよね。これは難しい。

 単に『控える』、もしくは思わせ振りな表現の範囲に『抑える』、それだけではちょっとツマラナイ。そもそも、それでは『文藝』とは成り得ない。

 『芸』とは知恵を絞って修練して、新たな可能性を見出だすことだと思うからです。


 そこで。

 前置きが長くなって申し訳ございません。


 この稿にて『文藝と官能小説の狭間』とはなんなのか? 【許されるエロス】とはどのようなものなのか?

 それを考えていきたいと思った次第です。


 ◇


 【R15】とは、なんだろう?


 やっと本題です。のろまでごめんなさい。

 【R15】、これってそもそもなんなのでしょうか?


 『R』は『restricted』の頭文字、日本語訳すると『制限』という意味ですね。つまり、『15歳未満は制限する』という意味です。

 この【R15】、法律上の規制ではありません。法律で「表現物」に対して立法されているものには、憲法21条や刑法175条などがありますね。

 ちょっと条文を見てみましょうか?


🧡憲法21条🧡

 ①集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

 ②検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。


💜刑法175条💜

 ①わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。

 ②有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。


 ほら、面白くなってきましたよ。

 つまり、憲法21条では「表現の自由は保障するよ!検閲はだめだよ!」といっていて、刑法175条では「わいせつな表現物をばらまいたりしたら、懲役刑や罰金刑だよ」といってるんですよ。え?矛盾するんじゃないかって?

 いえいえ。条文だけでは判断ができないんです。神秘は常に隠される。もう一枚、ぺろりと剥いてみましょうよ。


 条文の肌着を一枚剝きますとね、判例というものが出てくるんです。この判例が重要。そしてこの憲法21条と刑法175条の下に潜むのは、あの超有名な判例っ!その名も【チャタレー事件】です!!いわば絶世の美女!!


 イギリスの作家、デーヴィット・ハーバート・リチャーズ・ローレンスが書いた『チャタレー夫人の恋人』。これを翻訳した作家伊藤整、出版社である小山書店社長小山久二郎が刑法175条の『わいせつ物頒布罪』に問われ、有罪となった事件なんです。

 1951年(昭和26年)、GHQの占領下にあった頃の事件であり、現在と世相は大きくことなります。しかし、この判例で重要なのは「表現の自由は公共の福祉により制限され得るものであり、これにより最小限度の性的道徳を維持することは憲法21条に反しない」という見解が出されたことなのです。

 

 公共の福祉。これ、超重要ワードです。


 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない!この憲法が保障する基本的人権は、侵すことができない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる!と、憲法11条で高らかに宣言されておりますが。

 しかし。

 この憲法が保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によってこれを保持しなければならない。また、国民はこれを濫用してはならないのであって、常にこれを利用する責任を負う、と憲法12条で釘を刺されちゃってます。


 つまり。大きくいうと我々の権利は『公共の福祉』の制約の下で認められるものだ、というわけです。


 うーむ。分ったような、解らないような。

 『公共の福祉に反するような、ワイセツな表現物はだめ』ってこと?

 じゃあ、公共の福祉に反する表現物って、一体どういうものなの?

 そうですね。問題はそこです。


 公共の福祉に反しない表現物と、公共の福祉に反する表現物、その『線引き』はどこなの?というお話です。


 この『線引き』について、条文に具体的な定めがあるわけじゃないんです。


 ・・そんなときはどうします?

 そうです、条文ちゃんの肌着をひん剥いてやりましょう!

 ガハハッ!条文ちゃん!捕まえたっ!

 観念しろっ ぬがすぞっ!そりゃっ!!


 はい、出てきたのは玉のような美しい肌を持つ判例ちゃん、その名も【四畳半襖の下張事件】です!この子、むちゃくちゃ可愛い、もとい、むちゃくちゃ重要な判例なんです。しゃぶるようにひとつひとつ見ていきましょう!・・ほら、足を開くんだっ!全てをさらけ出してやろうなあ。ひひひっ



☆【四畳半襖の下張事件】で示された『文書のわいせつ性の判断』☆


①性に関する露骨で詳細な描写叙述の程度とその手法

②描写叙述の文書全体に占める比重

③表現された思想等と描写叙述との関連性

④文書の構成や展開、芸術性・思想性等による性的刺激の緩和の程度

⑤以上を前提としてみたときに、主として読者の好色的興味にうったえるものと認められるか否か等の諸点を検討し、これらの事情を総合し、その時代の健全な社会通念に照らして、それがいたずらに性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義的観念に反するものといえるか否かを決すべき

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



 如何でしょうか?判例ちゃんの肢体を、思う存分しゃぶりつくせましたか?おやおや、可哀そうに。判例ちゃん、汗まみれになって苦しげな表情ですよ。更に優しく、ポイントを絞って愛撫してみましょう。


 上記の①のポイントは、『露骨で詳細な』というところですかね。これに対しては『メタファー』、すなわち『隠喩』や『暗喩』といった手法で対応できそうですよ。


 ②は『比重』。つまりエロパートが全体のどの程度を占めるのか、ということです。

 具体的な比重割合は示されていませんが、例えば1割とかなら安全なんでしょうかね?

 ・・でも、エロパートが1割じゃなあ。これはちょっと保留で。


 ③『関連性』。つまり、物語で述べたい思想とエロ表現との関連性です。無意味なエロは許しませんよっ!ということでしょうか。その物語を語るうえで、どうしてもこのエロが必要だったのだ、という説得力があれば(『エロの必然性』)、わいせつ性は低下する、とみることができそうです。


 そして④『緩和』。ここ、超重要だと思いました。つまりですね、エロ表現があったとしても、それを物語の運び方や、思想・芸術性によるオブラートでうまく緩和してあげることでわいせつ性は低下する、ということ。

 たとえば、『登場人物がエッチなことをしちゃったんだけど、実はそれは現実ではなく夢でした、テヘ』とか『勇者とリンちゃんは双方前後逆となり接合して、その顔がその股に、その股がその顔に、互いに深々と絡合し合致するその有り様は、正しく涅槃の金剛曼荼羅、神聖なる胎臓円環を体現するかのような深淵哀楽の果てに延々たりせし』なんていう『思想・宗教的表現』へ導くと、わいせつ性が低下し得る?ということです。


 最後に⑤ですね。ここは『総合』の言葉が重要かと。つまり、①~④を個々に当て嵌めて判断するのではなく、全てを俯瞰し総合的に判断する。つまり②の比重割合に問題があったとしても、他の①③④でカバーされていれば問題ないよね!という判断になり得るわけです。


 如何でしょうか。

 【四畳半襖の下張事件】ちゃん、超重要でしょう?しっかり隅々まで、ねっとりと愛撫してみてくださいねっ!


 さて、ここまで条文と判例をみてきましたが、これはあくまでも刑法175条に抵触するか?という最も重い判断です。

 つまり、【R18】に違反するかどうかの判断でした。


 【R18】の判断基準も重要ですが、我々の標的は目下【R15】。つまり、更に『わいせつ性』を少なめにね!という基準です。


 ・・ところがですね。

 じゃあ、【R18】と【R15】の境目ってなんなのさ?となるのですが、この境目を明確に定めたものは存在しないのです。


 映像の世界には『映倫(映像倫理機構)』という組織があって、ここが業界におけるを行っております。

 この『映倫』が、【PG12】【R15】【R18】といったレイティング(視聴制限)を設けて、例えば映画館における入場制限などを行っているんですね。

 規制対象は『わいせつ性』のみならず、暴力・薬物乱用・人身売買や反社会的行為なども含まれるようです。


 そして『映倫』によるレイティングは、で、【PG12】や【R15】、【R18】などの分別、該当の有無を定めているようです。・・つまり、基準となるような明確な『線引き』はありませんでした。

  

 では、Web小説界はどうでしょう?

 『カクヨム』のガイドラインは、こんな感じですね(以下、抜粋引用)。


 

☆【カクヨム・ガイドライン(抜粋)】☆

 表現についてご留意頂きたいこと

 表現の自由を制限するものではありませんが、青少年を含む利用者が気持ち良く利用できるように、以下の表現についてはそれ自体が作品の目的(テーマ)ではなく物語上の必要な要素として必要最小限の描写となるよう、配慮をお願い致します。


・表現・描写などにより著しく性欲を刺激するもの

・暴力的又は陰惨な画像・表現・描写などにより興味本位に暴力行為又は残虐性を喚起・助長するもの

・自殺を誘発・助長・ほう助するもの

・犯罪行為及び刑罰法令に抵触する行為又は誘引・助長・ほう助するもの

・他者に対する差別表現、権利を侵害する行為

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 私が相手とするのは、『表現・描写などにより著しく性欲を刺激するもの』ですね。

 『著しく』性欲を刺激するって、うーむ、これも客観的な基準とは言い難いですねえ。刺激具合は人それぞれですからね。


 つまりですね。

 公共の福祉に反する表現物と、公共の福祉に反しない表現物、その『線引き』が存在しなかったのと同様に、著しく性欲を刺激するものと、性欲を刺激するけど著しいとはいえないものの『線引き』は、やはり存在しないんですねえ。

 よって、判例【四畳半襖の下張事件】の考え方を流用することになります。


 ただし。

 【R15】は、刑法175条で論点となった『公共の福祉に反するか否か』が問われているわけではないのです。

 【R15】は『自主規制』なんですよ、『映倫』でみましたように。刑法175条のような法規制ではなく、あくまでも『自主規制』なんです。ここがポイント。


 『自主規制』。

 つまりこれは、『問題が発生しないように、事前に自ら規制しておく』という考え方です。要するに、外部から問題があると指摘されないように、事前に自ら襟を正しておこう、という姿勢です。


 ならば。【R15】は『外部からクレームを受け得るか否か』という点が問われている、そのように集約できそうですよ。


 

 疲れました?もうちょっとです!

 明日のエロ表現のために頑張りましょう!

 エロパワ~っ!!

 ちゅーにゅうズキュン!!🧡🧡🧡🧡



 もう一つだけね。付け加えたい論点がありまして。

 これはあくまでも『流布される一般論』らしいのですが、『画像・映像に比べて、文書による規制はやや緩め』、ということがいわれるようです。

 何故そのようなことがいわれるのか?


 私見ですが、『画像・映像に比べ、文書は受け手にを要するから』だと思うのです。たとえば、画像や映像の場合は文字の読めない未就学児であっても、内容を理解し影響を受けてしまう可能性がある。しかし、文書の場合には読解力がなければ内容を理解し得ず、卑猥であるか否かも理解し得ない。

 故に、文書の場合にはもともと一定未満の年少者を排除し得る性質の表現物である為、画像・映像に比べて規制がやや緩めであっても問題ない、という結論を導けるのだと思うのです。


 そのように考えると、ですよ。

 内容のわいせつ性に比例し、その文書がより難解な表現物となっており、であったなら、規制問題を回避できる!という結論を導くことが出来ると思うのです。


 まとめてみましょう!


☆【R15】に対する具体的な対応策☆

 以下の技法を用いて『外部からクレームを受けないような配慮を行っている』との外形を形成すべし

①『隠喩・暗喩』で露骨・詳細表現を回避

②エロパートの『比重割合を下げる』

③物語上の『エロの必然性を表現』する

④『物語の展開でエロ具合を緩和』させる

⑤『思想・芸術的表現でエロを緩和』させる

⑥『15歳未満の者による読解が難しい程度の表現』を用いる

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



 如何でしょうか?

 長々と述べてきましたが、一応の結論を導くことができました。

 ・・これ、本当に使えるかなあ?


 そこで次回は、『文豪たちのエロ表現』について考察してみたいと思います。

 第一弾は、なんと夏目漱石先生っ!!


 え、漱石先生がエロ?そんなの書いてるわけないだろっ!?って。

 さーて、それはどうかなぁ?


 本邦における巨匠中の巨匠、夏目漱石先生が表現する『エロ技法』であれば、さすがのカクヨム運営担当様もだめといえないはず!

 そして、漱石先生の『エロ技法』が上記の『【R15】に対する具体的な対応策』に合致しているのかどうか、検証してみたいと思うわけです。

 さーて、どうなりますかねえ!

 

 次回、漱石先生のエロを、お楽しみに!!

(つづく)

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