俺は目立ちたくないんだ!

厨二赤べこ

最強の魔王は人間に転生する

第1話 魔王は人間に転生する

魔王ゼノーク=ジルド邸にて


「ウッウッ」


「死んじゃいやです」


人々の泣く音が部屋に響き渡る。その中心のベットで眠るのは史上最強と名高い。魔王ゼノーク=ジルドその人である。強大な力と人望でたった数年で一大勢力になった。そんな魔王でも歳には勝てなかった。どんどんと力は弱まり。気づいた頃には満足に立てなくなっていた。


「ハッハ、そんなに泣くようなことではない」


「だったら、起きてください!皆魔王様のお帰りを心待ちにしております」


「それは無理と言うものだ」


「どうしてですか!」


「生きとし生けるものに死はつきものなのだ。これは仕方がない事なのだよ」


そう周りの者達をなだめる魔王。その顔には慈愛で満ちていた。


『ああ、死ぬのか。まさか死に際になって自分がしたいことが出来ていないことに気付くとは。ああ、もし来世と言う物があるのならその時は・・・楽しく生きたい』


その晩魔王は息を引き取った。史上最強の魔王が死んだという知らせは世界中に届いた。


時は流れ四十年後


オギャー、オギャー


『あれ?私は死んだのではないのか?』


自分が死んだことはつい昨日の事の様に覚えているがこの感覚は何だ?意識はあるがうまく声も出せないし体も思うように動いてくれない。目は・・・開けられる


「あーよしよし、可愛いなー」


「ねー、可愛いわよね~」


この者達は誰だ?魔力からして人間であるのは分かる。だが、何故俺は・・・抱きかかえられている?


「あ、目を開いた!」


「ゼノークー、べろべろばー」


目の前の女性が俺がを目を開けたことを知るとすごく喜んだように声のトーンを上げた。ふむ、ふむふむ。状況から察するに・・・転生したのか!?なんということだ!私の願いが叶った。というか今度の名前もゼノークか。


「アウ、アウゥ」


「まあ、可愛らしい」


まともに言葉すらも発せないとは赤ん坊とは大変だな。手も思ったように握れないし、何か分からないが凄く窮屈に感じるな。それに俺の意思に反して何故か泣いてしまう。何故だろう?


「ギャー!ギャー!」


「よしよし、サバン!抱っこ変わってー」


「はいはい」


そういい男に俺を預けた母親。父親の名前はサバンか。というか今更だが凄く綺麗な部屋だな。貴族か何かなのだろうか?そういう事を考えていたがサバンに背中をさすられ気持ちよくなり俺は眠りについた。


それから五年後


五年間色々と調べてみた。この家系は幸いなことに侯爵家だった。侯爵家ってこともありこの家に書斎があった。文字も読めたから夜が更けた頃に起き書斎で歴史書を読み漁った。結果分かったことは大きく分けて二つ。一つ目はこの時代の事だ。現在は俺が死んだ四十年後の様だ。二つ目この時代は俺の前世の時とは比べ物にならないくらい豊かになったようだ。歴史書には第一次人魔だいいちじじんま大戦で多くの文明が滅んだそうだがそのおかげで国が減り一国一国が協定を結び今では戦争防止条例なんてものもあるらしい。条約の内容はいたって簡単。


・戦争を起こしていけない


・戦争の動きを見せた国は他国が共同で止めに入る


・上の違反に処罰を下した場合一度政府を解体し新しい政府機関の設立をし、元国王は永久追放とする


と、大きく分けてこの三つだ。正直理にかなっている。戦争を起こせば資源の奪いもそうだが人的被害の方が損害が大きい下手すると世界全体で人口不足になる。それに今の世界の情報を見るに戦争の抑止力になっているのは九人の魔王だ。九人の魔王も協定を組み世界の秩序を守っている状況だ。そんな事を考えているとうちの母親、クルル=ガルドがやってきた


「もう、ゼノークちゃんはまた書斎に籠って。少しはお外で遊んできなさい!」


「は~い」


母親にこういわれちゃ逆らえない。仕方ない森に行くか。今日は熊でも狩ろうかな?そんな事を考えながら俺は森へ向かった。


ガルド家は侯爵家である。だが、ただの侯爵家ではなく、とても力に富んだ家系なのだ。父親も九年前の大事件『赤に染まる悪魔事件』を解決した者であり。悪魔殺デモンスレイヤーしなのだ。もちろんこの国では英雄だ。母親も今は現役を退いたが元Sランク冒険者である。母も母で現役の頃、国を荒らす『土竜ドルン』の討伐を行ったそうだ。食物連鎖の頂点である竜族の討伐を行ったパーティーのメンバーなのだ。母親の魔力は単純計算で常人の約二十倍である。ここで約とするのはこの世に魔力を正確に測れるものがないからだ。更に魔力量は鍛えれば増えるのだが生まれた時からバカげた魔力量を有している者もいる。まあ、今の話を聞けば察しがつくかもしれないが俺は今、究極の二択に迫られている。そう剣術及び身体の訓練を父親にしてもらうか、魔法の勉強を母親に教わるかの二択で迷っているのだ。


「ゼノークは剣術の才能がある!お前も見ただろうゼノークがで熊を何体も狩ってきたことを!」


「それを言うなら!ゼノークちゃんが書斎でちょっと見ただけので魔物を倒すのを私は見たわ!」


『グヌヌ』


父親の言い分も分かるのだが、母親の意見も分かる。正直俺は人間の五歳の平均を大幅に上回る身体能力、魔力が備わっている。正直魔力に関しては成人の魔法使いと変わらないだろう。そんな感じで二人はどちらを教えるかで論争をしていた。


「分かったわ。ここはゼノークちゃんの決めてもらいましょう!」


「ああ!そうだな、そうしよう!」


おおう、両親の期待の目が痛い。そんな状況を見ていた侍女がため息を吐きながら、素晴らしい意見を述べた。


「ならば、交互に教えるのを変えるのはどうでしょうか?」


「どういう事だ?」


「例えばです。奥様が魔法の訓練を今日教えたとします。そしたら明日は剣術の訓練・・・。この様に交互に教えるのはいかがでしょう」


「よし!それにしよう。お前もいいよな?」


「ええ、こんな事で喧嘩しても意味がないものね」


完全に意見が一致したらしい。こうして俺は明日は魔法。明後日は剣術と言う感じで訓練を受けるのであった。


「良いですか?ゼノークちゃん。魔法と言うのは魔力と言う力を消費し世界に干渉する力です」


「はい。母上」


次の日起きた直ぐから魔法の勉強が始まった。正直もうちょっと寝たかったが夜更かしした俺が悪いので何も言えなかったのだ。せめてご飯くらい食べさせておくれ母上


「よく理解できたわね。流石ゼノークちゃん。さて、次は四大元素魔法と言う物よ。魔法は基本、火、水、風、土と四つに分類するわ。特別枠に回復魔法と身体強化魔法も存在するわ。後は、ごく一部の者しか使えない特殊魔法ってのもあるけど別に気にしなくていいわ。これは注意なのだけど魔法は同時発動は出来るけど混ぜることはできないの。たとえ魔王様であってもね」


「はい、それは理解しています。片方の魔法がもう片方の魔法に干渉しようとすると魔法同士が相殺し魔法の干渉力が弱まるのです。これはどれほど高位の魔法使いでもできないことです」


「正解!よく分かっていたわね!偉い!」


そういいクルルは俺の傍へ近づき頭をなで始めた。正直むず痒いのだがそれよりも嬉しさの方が勝ってしまうのだ。どうやら体だけでなく心まで子供に戻ってしまったようだ。だが自分では悪くないと思っている。これが家族と言う物か。気づいたら戦場を駆け巡っていた前世では考えられなかったな


「では、次ね。魔法の難易度は大きく分けて何個に分けられますか?」


「大きく分けて五個です。したから初級、中級、上級、最上級、最高級です」


「正解!本当に博識ね。上級魔法が使える様になったら宮廷魔法師にだってなれるわ。まあ、私は最上級まで使えるけどね」


「それは凄いですね!」


クルルがどや顔をかましてきたが気持ちは良く分かる。上級で宮廷魔法師。最上級まで使える様になったらと歴史に名を残すほどの高位の魔法師として認められる。最高級は魔王ぐらいにしか扱うことが出来ない。それほど魔法は扱いが難しいのだ。


「じゃあ、ここまで教えたから実践あるのみよ!」


「はい!母上」


「じゃあ、ゼノークちゃんが初級を使えるのは分かっているから中級から教えましょう」


「分かりました」


「じゃあ、風魔法から教えましょうか。風魔法は初級魔法エア中級魔法エアル上級魔法エアルド最上魔法エアルビア最高級魔法エアドミネードとあるわ。今日は《エアル》の練習をやりましょう」


「はい!母上」


「いい?大きな風を起こすようなイメージをしながら《エアル》と唱えるのよ」


「はい。やってみます。《エアル》」


俺がそう唱えると大きな風が吹き始めた。動物とかなら吹っ飛ぶぐらいの強い風だ。これが中級魔法エアル。今の魔力量だと《エアル》ぐらいなら軽く出せる事がうれししくて。嬉しさがこみ上げてくる俺。そんな俺をキラキラした目で見てくるクルル


「凄いわ!五歳で中級魔法が使えるだなんて!天才だわ!この今でここまで出来るなら大人になったらもっと魔力量が増えるわよ!」


「はい!頑張ります」


こうして中級まで教えて貰った俺だが上級はやっぱり難しかったようで次からは魔力操作の訓練も追加されることになった。


次の日


「よし!ゼノークお前には俺の師匠の剣術を教えよう!」


「はい!よろしくお願いします!」


この父親サバンの師匠はこのサピン王国最強の剣士と名高い『ガデュール=インフォース』の弟子なんだそうだ。独自の剣術で一子相伝の剣術らしい。まず基本から学ばされた。腕立て伏せ100回、腹筋100回、スクワット100回、素振り100本と言う練習メニューを言われそれを疲れた素振りすら見せずにやるとザバンはニヤリと笑った


「よし、身体能力は高いからもう技を教えるぞ!」


そういい腰に下げていた剣を鞘から抜き出しかまえた。それから一の型から十の型まで見せて貰った。合理的、何処までも合理的俺が最初にこの剣術を見た時に思ったことだ。一の型は万能の攻めの剣。一気に間合いを詰め相手の間合いに入り間髪入れずに相手に一撃を喰らわせる。体全体が連動して動いているから威力も桁違いだ。並みの剣士なら一の型で致命傷だろう。

次の二の型は連撃の型まず剣を腰の高さまで下げそのまま相手の腰に向けて一発。たとえ防がれても次の攻撃のモーションに入っているどの攻撃をしても次の攻撃へと繋げる事が出来るのがこの技。

三の型は防御の型。これは相手がいないと使えないので防ぎ方だけ伝授してもらった。それ以降の四の型や五の型は奥義みたいな技だった。一通り教えて貰っていたら日が落ち始めたのでこの日の訓練は終わった。



そして数日後


今日は週に一度の休日だ。一週間ぶりに森に来ている俺は最深部に行き実践訓練を積んでいた。


「ふう、一週間来てないからか魔物が凄い量増えてたな。まあ、魔法を使う機会が増えて魔力量が増えるから全然いいんだけど」


そんな事を言いながら俺は今まで行ったことがない所に来た。そこは周囲の魔力が凄く強くて強い魔物が大量増殖していた。


「お!試し打ちにちょうどいいな!《エアルド》!」


俺がそう唱えると大量の魔物を死体に変えていく死の風がそこに発生した。その風は周囲の魔物を一掃した。


「よし。順調順調!上級まで使える様になったか。さて、なんでこんなにも魔物がうじゃうじゃ居たんだろうな?」


そういい辺りを散策する俺。そしたら森で変なものが在った。四肢があり、亜人特有の尻尾に動物の耳も付いていた。更に息もある、だが出血が酷い。とりあえず回復させるか


「成功してくれればいいんだがな。回復魔法ヒルルビア


俺はその場で回復魔法の最上級魔法ヒルルビアを発動させた。ちゃんと魔法が発動できたみたいで亜人の体に深々と付いていた傷はきれいさっぱり消えていた。

傷が消えてようやく亜人の女の子と言うことに気付いた。一向に目を覚ます気配がないから俺も休憩に入った。


日が落ちかけてきたところようやく亜人の女の子は目を覚ました。


「あれ?私生きてる?」


「ん、ようやく起きた」


「あの私死んだんじゃないんですか?」


「うーん、死んではいなかったかな。俺が回復してあげたけど」


「あ、ありがとうございます」


そういい深々と頭を下げるこの女の子名はルシル=クオーツ。なんと村に大規模の盗賊団が来て奴隷にされかけたところを親に逃がしてもらい自分だけで逃げてきたとのことだけど頼れるものが何もなくて結局大けがを負っていたところに俺が来たそうだ。


「なるほど。だった俺の家に来るか?」


「え?いいんですか?」


「うん。それは親に許可を貰うしかないけどね」


こうして俺はルシルを連れて家に帰るのだった


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