唐突…な男達

塩塩塩

唐突…な笹男

「毎日、笹ばかり与えられるんだよ」

 50代後半と思しき男は、競艇場の喫煙所で紫の煙をフーッと吐きながら唐突に話し始めた。

「お兄さん、UFO持ってない?」

「えっ?」

「日清のUFO」

「…ないですよ」

「残念だなぁ。毎日笹だと濃い味食べたくなるんだよな」

 男は、こちらを向いて力なく笑った。前歯は3本だった。


 俺は暇つぶしに男と話をする事にした。

「おじさん、笹食べるんですか?」

「まぁな。食事って言ったら、昔から笹って相場が決まってんだよ」

「俺、笹なんて七夕以外に見る事ないですよ」

「だろうな。…七夕の次の日からしばらく、笹にくだらない短冊が沢山付いてるんだよ。あれ、笹食うのに邪魔だろ。まったくどこの払い下げなんだろうな。お兄さん知ってるか?」

「知らないです…」

「でもな、先週タイヤ来たんだぜ」

 男の目が嬉しそうに輝いた。

「鯛焼き?」

「タイヤだよ。暇潰しのタ・イ・ヤ」

俺は少しイラッとした。


「…ところで、おじさん、何してる人なんですか?」

「パンダ」

「パンダ?」

「そう、パンダ」

「パンダって、あのパンダ?」

「そう、あのパンダ」

 俺と男は顔を見合わせた。

「………」

「………」

 俺と男は気まずくなり、急いで互いにタバコをひと吸いした。


「…好きでパンダやってる訳じゃないんだよ。でもよ、毎日笹が来るしさ、タイヤまで来たら、そりゃもうパンダの世界観だろ」

「はぁ…。あっ、でもおじさんパンダなのに目の周り黒くないですよね」

「醤油顔だからな。あれ彫りが深くないと出来ないんだよ、影だから」

「あれ影だったんですね」

「そうそう。あと徹マンしたら、ちょっとそれっぽくなるけどな…。おっ、もうこんな時間じゃねぇか」

「仕事ですか?」

「動物園だよ、パンダだからな。それじゃ、お兄さん、またな」


 男がそう言った瞬間、地震が起きた。

 俺と男はよろめき、ぶつかった。

 気が付くと、俺と男は体が入れ替わっていた。

 俺は、仕方なく動物園に向かって歩き始めた。

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