ソロモン
みつやゆい
プロローグ 弱者
「ソロモン72柱。ソロモン王に使役されていたとされる72の悪魔。ソロモン王はその力を使って多くの発展を遂げてきた。しかし、ソロモン王はその力を恐れ72の悪魔たちを真鍮で作られた容器に封じ込め湖に沈めた。のちに、何も知らない人がその容器を引き上げ開けてしまい、悪魔たちは世界中に散っていったとさ」
「それなんて本?」
「ソロモンと72の悪魔」
「そのままだね」
「うん、そのまま」
何も代わり映えの無いいつもの放課後。
僕はいつものように図書室へ来て本を読む。図書室には誰もいない。僕だけの空間。
静かな一人の空間に気がつくと彼女はいる。僕の目の前の席に座り本を読むわけでもなく僕を見ている。
「ソロモンさんはなんで72人も悪魔を呼んだんだろう?」
「なんでだろうね。それと、悪魔の数え方は人なのかな?」
「どうだろう、人の姿をしてたら人でいいんじゃない?」
「そんなものかな」
「そんなものだよ」
毎日僕の前に来ては僕が読んでいる本のあらすじを聞き、気になる事を質問してくる。
僕たちの会話に特に意味はなくただその会話を楽しむだけ。
「世界中に悪魔が散らばったなら、もしかしたらすぐそばにいるのかも」
「かもね」
「なんか信じてなさそう」
「だってこれは物語の中の話でしょ?」
「全く夢が無いなぁ」
学校が終わった放課後に、なんの価値もなく生産性もない会話をするのが僕の日常だ。
でも、そんな時間が僕の退屈な毎日にある唯一の幸せ。
およそ友達と呼べるものがいない僕に話しかけてくれる彼女。
こうした毎日が始まったのはいつからかは覚えていない。
だが彼女の前で本の話をするのがいつしか僕の生きる理由になっていた。
「でも、そんなに悪魔が怖かったなら最初から呼ばなきゃいいのにね」
「確かに」
放課後の図書室。
そこは、僕にとって天国や理想郷といった意味を持つ場所になっている。
しかし、幸せは長くは続かないと告げるように彼らは二人の空間に土足で踏み入ってくるのだ。
図書室に一つしかない出入口が大きな音を立てて開かれる。
「うーーっす」
柄の悪い三人組の男たちがわざとらしく足音を立てながら中へと入ってくる。
これもいつものこと。
「今日も勉強かぁ? 全く真面目だなぁ」
そんなことをいいながら僕たちの方へ近寄ってくる。
一番体の大きい男が僕の肩に手を回す。
「お取り込み中悪りぃんだけどよ、今日も借りてくぜぇ」
彼の顔が僕の横まで迫っている。だけど僕は彼の顔を見ることはない。
なぜなら、人を馬鹿にしたような笑い顔を浮かべる彼を見てわざわざ嫌な気分になる必要はないから。
だけど最後は結局嫌な気分になるのもいつものことだ。
「じゃあ、私は用事があるから」
目の前に座っていた彼女はスッと立ち上がると入り口の方へ歩いていってしまう。
僕の肩に腕を回す彼の後ろについてきた二人の男たちがニヤニヤと笑いながら僕の方を見ている。
「そんじゃ俺たちも用事があるからよ、これからも仲良くしようぜ」
用事の単語だけを強調した鼻につく言い方をした後、僕の背中を二回叩くと彼女を追いかける様に三人は出ていった。
静かになった図書室で僕は、読みかけの本の続きを読み始める。
まるで何事もなかったかの様に。
僕は知っている。彼女が僕のために彼らのいいなりになっていることを。
僕は知っている。そんな彼女の優しさに僕が甘えていることを。
僕は知っている。彼女がこれから彼らに犯されることを。
僕は知っている。僕が弱いことを。
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