俺の高校入学式がツッコミどころ満載だった件

@flugel7

第一話(完)

 4月8日。長いようで短いような春休みが終わり、いよいよ高校の入学式の日が来た。

真っ白の新しいリュック。

そして新しい制服。中学ではブレザーだったのが学ランになった。

午前8時10分。若干早い気もするが、親に急かされ家を出る。

革靴を履いて行きたかったが、痛くなるからやめとけと親に言われて運動靴を履いた。

いちいちうるせぇな、と心の中で思いつつ、玄関のドアを開けた。

「行ってきまーす」

今日は初日なので徒歩で登校。説明会やなんやらで既に通り慣れた道。迷うことは無い。

好きな曲を頭の中で再生して、少しでも気分を上げて行く。

家の裏道を通っていけば、案外近いとこだ。

高校が見えてくる。

校門に続く、長い真っ直ぐな道。

桜並木......なんてものは無い。

それでも、これは俺の立派な花道なのだと思った。

 校門を抜ける。時刻は8時35分。やっぱり少し早い。

それでも新入生は既に何人も来ていた。

同じ中学だった奴もいるが......正直中学はあまり良い思い出がないので、特に顔を合わせるつもりもない。てか、同じ中学で友達だったやつは、推薦で私立高校に行ったり、秀才レベルの遠くの高校に行ってしまった。

同じ高校の友人は、小学校時代からの友達一人だけ。中学は違ったがいつも連絡は取り合ってよく遊んだり出かけたりしている。

 アイツはまだ来ていないようだ。うーむ、気まずい。

下駄箱の近くには看板が出てて、クラス発表の紙が大きく張り出されていた。他の新入生も大勢見に行っている。

アイツと同じクラスなら楽だと思うが、一人で見に行く勇気は無い。クラスが違ったら、と言うことを恐れているのではなく、あんな大勢の中に混じって見る勇気がないのだ。

知らない人間と関わるのが、少し、なんだか嫌っていうか、怖いっていうか。

そんな風に思ってしまった。

アイツが来るまで、俺は一人棒立ちで待っていた。暇潰しの小説も持ってきてない。スマホは...まだ取り出さないほうが良いだろう。

 それから5分くらいしてアイツが来た。

アイツのリュックは俺のリュックとよく似ている白いリュックなので、すぐに分かった。

そのあと、二人でクラス発表の紙を見に行った。

 クラスは一つの科に2クラス。俺の高校は工業系なので、人数が少ない。ちなみに俺もアイツも電気科。一緒になる確率は、1\2。

まずは一組から。.........俺の名前も、アイツの名前もない。となると。

電気科1年2組。俺の名前も、アイツの名前もそこにあった。

安堵した。もし違ったら、と思ったが一緒でよかった。

 そんなことをやってるうちに、受付が始まっていた。

クラス、番号、名前を答え、ロッカーと下駄箱兼用の鍵を貰う。

靴を入れ、上履きに履き替えて4階の教室へ向かう。

4階かぁ、ちょっと遠いかな。でも中学校と違って階段が短いから楽に感じた。

階段を登って廊下を通り、教室に入る。

自分の名前が書かれた紙が貼ってある机に座る。

前も後ろも右も左も知らない人間だ。

アイツの席は俺の席のちょっと離れた斜め後ろ。

話せる距離では......ないな。

とりあえず、座ってじっとしてるのは少々苦手なので、さっき貰ったロッカーと下駄箱兼用の鍵を眺めた。

 しばらくして担任の先生が来て、話をした。ほとんどがこの後に行われる入学式の入退場の話だった。

話が終わり、入学式の前に自分のロッカーを見に行くことになった。

担任の後をついて行き、ロッカーのある場所まで行く。

はずだった。

何をやってたのか列の先頭が担任を見失い、はぐれて訳も分からず右往左往。まだ入学式の時間には早すぎるのに体育館にまで来てしまった。「ここさっきも通ったよね?w」「先生見失ったw」「何これw」みんな笑ってた。俺も笑った。その後、別の先生に教えてもらい、なんとかロッカー前までやってくることが出来た。担任とも合流出来たが、すぐに入学式の時間になってしまい、結局自分のロッカーなんて一切確認できずそのまま通り過ぎて体育館に向かった。当たり前だがはぐれたのはうちのクラスだけだった。

 さて、入学式だ。既に保護者が席に座っていた。

俺たちは教室で先生に言われた通りに移動して席に着く。

始めに「開式の言葉」を聞き、その後に「国歌斉唱」。

ここまでは中学でも当たり前だ。

次が、「入学許可」というもので、これは初めてだった。

それぞれの科ごとに先生が一人一人生徒の名前を呼び、呼ばれたら起立。科の全員が呼ばれ、学校長から入学許可の言葉を聞いた後に着席、

というものだった。

これ1組の1番の人とかずっと立ってなきゃならないから可哀想だな。俺は2組の24番。比較的最後の方でよかった。前の方だったら貧血で倒れてたかもな。

機械科、電気科、化学科の順番で呼ばれた。

機械化も化学科も女子いっぱい居ていいなー。

電気科なんて女子二人しかいねえぞ。俺のクラス女子一人もいねぇし。男だらけの教室か。ウホッ、ムサいねぇ。

 全員の入学許可が終了した。

次は「学校長の言葉」だ。

長いやつだね。

俺は暇だったので、校長先生の言葉に脳内でツッコミをして遊んでた。

「えー新入生の皆さん。ご入学、おめでとうございます。我々教師一同、皆さんのご入学をしゅ、しゅく、祝福いたします」

(祝福ってとこで噛むなよ!台無しじゃねぇか!)

「この時期に入学式を無事きょうこう出来て大変嬉しく思う次第です」

(きょうこう?なんて字だ?強行か?この式無理やりやったのか?」

「皆さんは、普通科の高校ではなくて、この工業科の高校に入ったからには、大きな目標があって、入学したことだと思います。大きく悩んだと思います」

(ごめん学力的にここしか行けないからここに来たんだわ。電気科にした理由はパソコンとかプログラミングが好きだから)

「当校では、今年度から授業の最適化のために一人一台、タブレット端末を購入させていただきました。それらも生かして、頑張っていって欲しいです。」

(俺のおもちゃが一つ増えたようなもんだ)

「さて、私は皆さんに、3つの大事なことをお話しします」

(3つねぇ。手短におなしゃす)

「一つ目は、挨拶です。おはようございます、こんにちは、よろしくお願いします等、大きな声ではっきり言いましょう。失敗したり、嘘をついたりしたときに、ごめんなさいときっちり謝ること。このように、自分のミスを認めて、挨拶がきっちり出来る人間は、信頼が持てるようになります。挨拶は、しっかり行いましょう。」

(俺、自分の非を認めたくなくてごめんなさい、ってあんまり言えないんだよなぁ......直さないとな)

「二つ目は、課題を提出することです。自習のレポートなどをしっかり出して、長く休むことなく学校に来れば、基本的に進級出来ます。課題は大変重要な採点材料ですので、しっかり出しましょう。」

(課題提出......ガチで苦手なんだよなぁ......高校だとほんとに出さないとまずいから頑張ろ)

「三つ目は、命の尊さです。最近、命を軽んじているとしか思えない事件が多いです。学校でも、いじめ等の心を傷つける行為は絶対に許しません。命の尊さを、しっかりと理解しましょう。」

(尊さ、ねぇ。てぇてぇもんはいいよな。あ、いじめ、ダメ、絶対)

補足しておくと、てぇてぇっていうのは「尊い」を鈍らせた言葉で、ネットスラングだ。

「我が校の評判は上がるも下がるも貴方達の行動次第です。我が校の生徒という自覚を持って、行動しましょう。以上で学校長のことばといたします」

ようやく終わったか。

この後、「校歌の紹介」と「閉式の言葉」を聞いて、最初に教室にで聞いた通りに退場。

そのまま自分の教室には帰らず、一階の教室で体操服と体育館履き、何故か購入することになった卓球のラケットを受け取る。

歩きながら体操服が入ってる黒い袋を開けてみるが、体操着が紺色なので全く分からなかった。

三つの袋を抱えて4階の教室に戻る。

 教室に入り、自分の机の上に三つの袋を置いて座る。

教室のどこを見ても男、男、男。担任の先生ももちろん男。

参ったな。これじゃあ青春ラブコメ的展開とは全く無縁じゃねぇか。俺はホモじゃねえんだ。

 担任の先生が説明を始める。

「明日の時間割はこれだ。1時間目のホームルームで、自己紹介してもらうから、考えといてね」

うわぁ......

「それじゃあ今日はここまで。起立、気をつけ、礼」

 こうして、俺の高校生活が、幕を開けたのであった。

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