17話 もう!悪い子には、バルドルゲだぞ!

カメラ越しでも、ユージン・カイムに見つめられると緊張する。別に意識をしている訳ではないのに。


「カイム機出ます!」

マリアナシスターズが告げ、カイムの強行偵察ゼムが単機で、飛び立っていた。

罠をしかける為だ。


「しかし、1人が良く似合う少年」エイミアは思った。


        ☆彡


「えっ?イクちゃんは、ゼムを動かせないの?」

「わたし、あんまし手先が器用じゃないんです」


エイミアの膝に乗ってシェイクを飲んでいるイクが言った。


えええええ!!!!!!

それって5次元人なの?

5次元人の定義ってゼムを上手く動かせることじゃないの?

あの侍女め!やはり訳有じゃないか!


ブリッジには大きなコックピットが置かれていた。

「それで、この艦搭載型ドローウィンシステムです」

カステラーニが言った。


ドローウィン、製図図案?

ドローンを5次元的に動かす能力だったけ?


「あの格納庫に積んでるカジキマグロみたいのと関係があるんですか?」

「あれは、宇宙戦用ドローンです」

格納庫には2メートルぐらいの鋼色のカジキマグロの様な物が積まれていた。

「このドローウィンシステムで、遠隔操作が可能です」

「遠隔操作?!」

「上手く行けば一個師団規模の戦力になります」


ブリッジで作業していたクルーたちが、イクへ尊敬の眼差しを送った。


イクは顔を赤らめ、

「や、止めてください。そんなんじゃないんです」


照れるイク、可愛い~


エイミアはイクを、ぎゅっと抱きしめた。

イクは軍人と違い柔らかな身体をしていた。

文学少女の香りがする。



「そろそろ空域に入るぞ!」

艦長なのにゼムカスタムに乗っているドーキンス少佐から、通信が来た。


こいつ時々艦長風を吹かせる。


ドーキンス少佐のゼムは、ヒメネスの機動コルベットに乗って、宇宙を楽しそうに飛び回っていた。


艦長としての自覚があるのか不明だ。


トキトウの高機動ゼムが、ブリッジのすぐ前に現れて対空陣形を形成した。

まだ光学迷彩モードに移行していない高機動ゼムは、エイミアを見つけると手を振った。エイミアが手を振りかえすと、テンションの上がった高機動ゼムは、大きな電磁鎌を振り回した。


月面都市ネクタールを出る前に、トキトウ少尉が、「電磁鎌が、どーしても欲しい」と言うので、ドーキンス少佐が色々手を回して手に入れた武器だ。


子どものおもちゃか!


まあ、物資が豊富な月面都市ネクタールは色々な物が手に入りやすいし。


しかし、かなり前に出撃したユージン・カイムの強行偵察ゼムとは、連絡も着かない。孤独を楽しんでいるのだろう。どうなんだろう兵士として!

まあ優秀チームのカイムが失敗をするとは思えないし、まあ仕方ない。


         

        ☆彡 


補給線破壊に向かうはずのルナメルに、急遽別件の命令が下された。

補給線破壊より、目の前の敵の方が優先順位が高いらしい。


問題の空域は、バイキング サール

サール戦役で、多くのコロニーが破壊された空域だ。

すでに放棄が決定されて空域で、撤退命令が出ているにも関わらず、月面都市連合の部隊が残留しているらしい。


地球連邦が月面都市連合の撤退を簡単に許してくれない。

撤退すれば宇宙軍と合流して、戦力が増強されるだけだ。


だから撤退戦はかなり難しい。


バイキング サールのパトロール艦クーヘン級3隻と空母チトセ1隻&ゼム多数を、連邦の戦艦4隻と巡洋艦6隻&ゼム多数が対峙し膠着状態に陥ってるらしい。


月面都市連合側がコロニーや艦船の破片にゼムを潜ませているため、連邦も攻めれれずにいる。


しかし、連邦が補給線が繋がっているのに対して、月面都市連合の補給線は繋がっていない。いずれ落ちるのも時間の問題だ。宇宙空間では酸素すら運ばなければならない。


報告によると月の艦隊の酸素が、24時間持つかどうかの状況らしい。


そんなギリギリな状況で巡洋艦ルナメルが1隻で助けに行けと、艦船だけの彼我戦力差が10対5になるが、劣勢なのは変わらない。


ちなみに空母チトセには、月面都市連合議会の上院議員のババ・ロアが乗っている。


ババ・ロア。一応、ルキ派の上院議員だ。

一応と言うのは、何をしているのか不明な点があって、信頼レベルが最低ラインなのだ。ただ見捨てるとルキ派は議席を1つ失う。その1議席を失うと党としての資格も失う。すると色々厳しい状況に置かれる訳で。



ブリッジではココが、イクとカステラーニにカルル少佐専用ゴーグルと制服を着せられていた。


カステラーニさんは、変身したココを見つめた。

「可愛い系のカルル少佐ってとこかな、まっ良いでしょう」


コスプレ感いっぱいなのだが。でもさすがルキ家の坊や、品はある。

まあ、カルル少佐のコスプレをする軍人がいるなんて、誰も思わないから、大丈夫だろう。


    

   ☆彡 ☆彡 



バイキング サール空域に入る前に、ルナメルは光学迷彩モードへ移行し、そのままバイキング サール空域に進入した。



もちろん敵艦隊も見えないし、味方の艦隊も見えない。

見えないからと言って存在し無いわけではない。

地球の潜水艦の様なものだ。


予め大体の敵艦隊の数は予想がつく。

正確な位置を知るためにはソナーで探知しなくてはならない。


探知には、受動的なパッシブと能動的なアクティブがある。

受動的なパッシブなら敵の音を探るだけでいいが、能動的なアクティブなだとこちらの所在も知られてしまう。


どちらのせよ、早めに戦端は開かなければならないし、補給線が閉ざされている状況で、長期戦は全滅を意味する。タイムリミットは24時間きっているのだ。


「ソナー弾発射!さあかくれんぼはお終いだよ。」


アクティブソナー弾が発射され、敵がいるであろう付近でソナーを発した。


ブリッジのスクリーンに、艦隊のある程度の場所が映された。

「そんなものか」


それはこちらの居場所もばれるって事だ

艦隊の位置は解るが、ゼムまでは映らない。





☆彡




空母チトセのブリッジで、艦長は失望した。

「巡洋艦1隻の援軍が来たようです」

「たった巡洋艦1隻だと、敵は10隻もいるんだぞ」


超有力上院議員ババ・ロアが何のためにここにいるのかは解らない、しかし何かの意図があって自身がジョーカーを引いてしまったのは間違いない。政治には関わりたくないのだが、こうなっては仕方なるまい。


「巡洋艦の識別信号ルナメルです!」

「ルナメル?ルナメル!カルル少佐専用艦だと!」

チトセの艦長の表情から失望が消え僅かに希望が見えた

ブリッジのクルーも同じく僅かに希望に満ちた。


もしかすると助かる?

ブリッジでは、誰もが笑みを零していた。


「救援に来たのは巡洋艦ルナメル!」

艦内放送が流れると、艦内の至る所で歓声が上がった。


その声にブリッジのクルーも涙を浮かべた。


まだ生きれる。


  

 ☆彡 ☆彡 ☆彡



地球連邦の旗艦のドボルザークのブリッジは色めきたった。

「カルル少佐専用艦だと!」

「いや大丈夫だ。たかが所詮1隻の巡洋艦に過ぎない。何が出来る!」



    ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡



空母チトセのブリッジのスクリーンに、ルナメルのブリッジの映像が流れた。

少尉のエイミアが映っていた。

「わたしは艦長代理のエイミア・ギルバート少尉です」

まだあどけない少女が、映った事に、空母チトセのクルーは驚いた。


その背後にカルル少佐らしき人物が映っていた。

何気に背が低い様な気がするが、だれもカルル少佐の背の高さを詳しくは知らない。

さらに若くて少年の様な気がしないでもないが、カルル少佐はまだ20歳らしいし。

しかし、只ならぬ品性は感じるから、多分間違いないだろう。

空母チトセの艦長はそう判断した。



「カルル少佐は左遷された。あれはどー見ても偽物。

品はあるが気迫の欠片もないではないか!

あれはポンコツ坊やかな?」と、

その事実を、ババ・ロアだけは知っていたが口にはしなかった。


艦長代理を名乗るあどけない少女が、強い視線を送ると告げた。

「超ゲインプラズマ砲発射を使います!目標バイキング サール地球連邦艦隊」


チトセの艦長は驚いた。

「超ゲインプラズマ砲?新兵器の?」

「はい。艦隊は、速やかにR7地点まで後退を急いでください!」

「今!ここで使うのか!」

「今!ここで使います!」

チトセの艦長は、1秒考え、エイミアの背後のカルル少佐らしき人物を見た。


チトセの艦長は、サール戦役時に目の当たりにしたカルル少佐のゼムを感じた時の歓喜を思い出した。味方は誰もが熱狂した。


あのカルル少佐なら・・・


「了解した。全艦、R7地点まで後退せよ!」

「しかし連邦の艦隊が!」

「構うな!」



  ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡



地球連邦の旗艦ドボルザークのブリッジは再び色めきたった。

「敵の無線を傍受しました。超ゲインプラズマ砲を使うそうです!」

「超ゲインプラズマ砲?新兵器の?待て!待て!ここで使うのか!」


超ゲインプラズマ砲は、噂では聞いたことがあるし、連邦も試験実験中だ。

傍受した無線から敵のオペレーターの少女の声が聞こえた。


【バルドルゲ照準。発電システム異常なし、マイクロウェーブ送電良好。

3500ギルガバットパーアワー。発射角調整ダウン012 ライト0036。

800発電システムの機動コルベットとゼムは下がれ。影を落とすと出力が下がる!】


「まさかカルル少佐が?超ゲインプラズマ砲を使うのか?」


「デブリ群から光源確認!」

「超ゲインプラズマ砲をデブリの影に隠してた?!いつのまに!カルルめ!」


「超ゲインプラズマ砲スタンバイ!」

エイミアの声が響いた。


その声にドボルザークの艦長は目を見開いた。

そして、サール戦役の時にカルル少佐機の存在を感じた時の恐怖を思い出した。

味方は誰もが恐怖した。


カルルか・・・


「全艦散会せよ!全滅を避けろ!」

「敵艦隊が後退します」

「構うな!急いで散会せよ!」




☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡




旗艦ドボルザークのブリッジで艦長は自身の無事を確認した。

「ん?不発か?失敗?」


「地球連邦軍の皆さ~ん、ドッキリでした。超ゲインプラズマ砲なんてありませ~ん。ひゃは♪」

エイミアの声が聞こえた。


ドッキリ・・・超ゲインプラズマ砲なんて・・・ありません・・・


「ん?」


地球連邦の将兵が、エイミアの言葉の意味を理解するのに、数秒要したと言う。

しかし、すでに敵のパトロール艦隊は、最大船速でR7地点まで到達していた。


「ふざけんなやー!小娘!ここは戦場だぞ!

命を賭けて戦う戦場だぞ!ドッキリなんてしてんじゃねーぞ!」


旗艦ドボルザークの艦長の、怒鳴り散らす声がブリッジに響いた。

数的優位であるにもかかわらず、敵に撤退を許してしまった。


「馬鹿な!」

艦長は今後の人生を嘆いた。



☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡



その頃、遠く離れた廃棄された宙域で、強行偵察型ゼムに乗るユージン・カイムは1人、ゼム・ハンドバックから照明弾を取り出し、デブリ群に放った。

光源は激しい光を放った。

「美しい輝き」

カイムは、眩い輝きに見惚れていた。


「カイム~、もういいよ。早く帰ってきて。行っちゃうよ!」

冷たい宇宙空間に、エイミアの明るい声が聞こえた。

その声は、ユージン・カイムの心を少しだけ温めた。



つづく





【エイミア・サトー】ココ・ルキの幼馴染。他称・まあ出来る子。

【ココ・ルキ】落ちぶれ貴族ルキ家の次男。他称・まあ出来ない子。


【イク】五次元人

【メリッサ・カステラ―ニ】イクの担当技官


【サネトモ・トキトウ】エイミア&ココと同期のパイロット。もっとも優秀な同期。

【ユージン・カイム】エイミア&ココと同期のパイロット。もちろん友人は皆無。

【ショウマ・ドーキンス】士官学校時代の教官。ヒメネスとの情事で懲戒免職

【カタリナ・ヒメネス】ドーキンスの恋人?エイミア達と同期。


【シェーラー家のマリアナ】ココが好き。

【マリアナシスターズ】桜乃 梅乃 桃乃 の三人組。美少女感は半端ない。

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