おんぼろサイボーグ

ちゃちゃまる

おんぼろサイボーグ

 Nは天才外科医であった。彼の元を訪ねる患者は、重症であってもことごとく完治した。Nはじぶんの仕事ぶりに対して、たいへん誇りを持っていた。

 ある日、彼の元に男が訪ねてきた。一見、男には具合が悪そうなところが見当たらなかった。

「先生。わたしの腕を、機械に変えてくれますか」

「腕が悪いのですか」

「いいえ。わたしは、いたって健康です。」

「ではどうして、そのようなことを言うのです。健康な体を、理由もなく傷つけるわけにはいかない。」

「わたしは、サイボーグに心底憧れているのです。じぶんの腕があの力強く、美しい機械になると考えるだけでも気分が高まるのです。断るのなら、じぶんで傷つけます」

 Nは、困りながらも手術を引き受けた。手術は成功し、男はその力強く、美しい腕に喜び、帰っていった。

 数日後、Nのもとにあの男が訪ねてきた。今度は、あしを機械に変えてほしいとのことだ。Nはもう一度引きとめたが、言うことを聞かない。仕方なく、男のあしを機械に変えてやった。

 その後も男は、数日ごとにNのもとに訪れ、Nはそのたびに男の体を機械に変えた。内臓や胴体、首、顔、ついには脳までも変えてしまった。男の生身の部分は、もう存在しなかった。しかし、男はじぶんがサイボーグであることに、たいへん喜んでいた。

 Nはじぶんが男にしたことについて、内心悔やんでいた。健康な体にメスを入れることに、外科医として誇りを持つことができなかった。

 Nは手術室にある冷蔵庫を開いた。冷蔵庫には、今までの男のパーツが保存されていた。Nはおもむろに、パーツを取り出し、手術台の上に置いた。そして、針でパーツを一つずつ、つなぎはじめた。内臓という内臓、血管という血管、すべてを精密につなぎ合わせた。

 数日にわたる手術の末、手術台には、最初に訪ねた頃の男が横たわっていた。

 Nは機械の前にいた。電気ショックを与えるボタンを押す。すると男は、大きく跳ねたあと、浅く呼吸をし始めた。

 これで、外科医としての誇りを取り戻すことができる。Nは安堵のため息をついて、近くの椅子にこしかけた。

 しばらくすると、男は目を覚まし、体を起こした。そして、自分の体をゆっくりと見回し、こちらを見た。生身の体があることに、感動しているのだろう。

 Nは男のもとへいき、喜びの声をかけようとした。すると男は、軽やかに口を開いた。

「先生。わたしの腕を、機械に変えてくれますか」

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おんぼろサイボーグ ちゃちゃまる @chachamaru_techcocktail

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