我輩はむっちゃんと申す

野林緑里

一話

 我輩はむっちゃんと申す。


「佐賀県」に住むものなり。


 泥のような色をしているのだ。


 我輩は飛ぶ。


 我輩は跳ねる


 我輩を捕まえようとする愚か者がいるようだが、我輩を決して捕まえることができぬ。


 そんな我輩が最近の佐賀県民の様子がおかしいことが気になってしかたがないのだ。


 ある時をきっかけに佐賀んもんたちに焦りのようなもんが感じられてならぬ。


 一体なにを焦っているというのだ?


 なにを落ち込んでいるというのであろうか?


 どうやら、我輩には図り知れぬ事態が佐賀ん民の間で起こっているようである。


 果たしてなにが起こっておるというのであろうか。


 我輩はぴょんぴょんと飛びながら、そこらへんにおった佐賀ん民に訪ねることにしたのである。


 すると、なにやら佐賀が独立することを決めたらしいのじゃ。



 知らぬ。


 知らぬぞ。


 なぜ、そのような事態になったというのであろうか。


「むっちゃんは知らんとや? 佐賀がなあ。ついに魅力度ランキングで最下位になるという不名誉な事態になったとよ」


 なに!?


 いま何と申したのじゃ!


 魅力度ランキング最下位じゃとおおおお!


 これほど魅力のある県を最下位にしようとは、たしかに由々しき事態ではないか!


 しかし、なぜだ?


 なぜ、佐賀が独立することになったというのじゃ!


「独立するしかなか! こがん不名誉なことがあってたまるか! おいたちは独立して日本っ いや世界に佐賀県の魅力を届けるとや!」


 そう佐賀ん民が興奮したように答えたのだ。


 だが、しかし、


 佐賀の魅力をわかってもらうために独立する必要があるというのか?


 やはり、おかしいではないか?


 独立したからと魅力度があがるとは限らぬではないか?


「きみにはわからんやろう? いつもガタで潜っとるムツゴロウにはわからんとよ」


 うーん。


 たしかにそうだ。


 我輩はむっちゃん


 有明海のガタで生きているムツゴロウだ。


 人間世界のことなどよーわからん。


 けど、我輩も佐賀の海に生きとる。


 佐賀の魅力をよー知っとる。


 だけん、魅力度ランキング最下位というのは許しがたいことじゃ。


 我輩もどうにかしたいとは思っとる。


「なら、むっちゃんも協力してくれるとか?」


 そうじゃなあ。


 どうせ独立するなら、名前が必要であろう。


 そうじゃ!



 こういうのはどうであろうか。




“さがガタガタムツゴロウ王国”だ!


 そういうと佐賀ん民は微妙な顔をした。


 なに?


 我輩のこのベストネーミングが気に入らぬと申すのか!?


「そうだな。ダサすぎんか? 」


 ならば、なにがよいというのじゃ?


「うーん、いまのところ思い付かん。なにかよかアイデア浮かばんか?」


 浮かばん!


“さがガタガタムツゴロウ王国”でよいではないか!


 我輩がピョンピョンと跳び跳ねながら興奮しているといつのまにか佐賀ん民がいずこかへ去っていってしまった。


 どうやら、我輩の話をそれ以上聞くつもりはないようである。


 さてさて


 どうしたもんか。


 今後、佐賀が独立するというのか?


 独立するかどうかはさて置いて、


 とりあえず、佐賀の魅力を他県に伝える方法を考えねばならぬ。


 我輩は我輩なりに動くことにしたのである。












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