[25] 少女
「助けてくれてありがとうございます。猫族の双剣使いです。わたし以外の双剣使いの人はじめて会いました。すごく強いんですね。かっこいいです。わたしもあんな風に戦いたいなあ。あ、わたし、すずって言います」
戦闘が終わるなり猫耳少女忍者はてとてとと走り寄ってきて、勢いよく頭を下げた。
なんていうか、すごく元気な娘だ。エネルギーにあふれてる。会話中もぴょこぴょこぴょこ飛び跳ねてる。そんでもってぐいぐい迫ってくる。少しだけ苦手なタイプかもしれない。ほんとに少しだけ。
私たちも簡単に自己紹介する。それからクレハは尋ねた。
「すずちゃんはなんで追われてたの?」
「えーとですね」その質問にすずは頬をかいてから恥ずかしそうに答えた。「歌いながら歩いてたらうっかり隊列につっこんで蹴飛ばしちゃいました!」
クレハが私に視線を寄こす。言いたいことはわかる。放っておけないって言うんだろう。確かにこのままこの娘放っておくのはすごく危ない。私は大きくため息をついてみせた。
「私たちの目的地もここから近いみたいだしいっしょについてくる?」
おおっぴらに言いふらすことではないけど、かといって極秘任務というわけでもない。袖すり合うも他生の縁。ちょっと道連れが増えるのは問題ないだろう、多分。
「迷惑でなければ安全なところまでついていきたいです!」
「わかった、それじゃあよろしくね、すずちゃん」
そんなわけできわめて突発的に森のど真ん中で仲間が増えた。
さっきから同じところをぐるぐる回ってる気がする。けれども手元の立方体は確実に目的地に近づいていると言っている。
近所にあるものすごく歩きなれた山なのに迷ってしまって、けれども気づいたら同じ場所を回っていただけだった、というような話がある。それの逆バージョンみたいなことが今起きてるんじゃないか。
同じところを回っているように見せかけて、実はきちんと目的地に向かって進んでいるという現象。私は私の感覚と謎の装置だったら謎の装置の方を信じる。
ゲームだし。
「リィナさんの戦い方かっこいいですね」
モンスターはあんまり出てこない。野犬の群れに出くわす程度。のんびり歩きながら会話する余裕はある。
「こう、まっすぐずびしって近づいてって、そのまま一気に斬り捨てるのが決まってます。私も双剣使いなんですけどなんかしっくりこないんですよね。どうしたらいいんでしょうか?」
歩きながら考える。褒められるのは悪くない、けど難しいこと聞くなあ。
私だって特に何か考えるわけではないのだ。なんとなく適当にやってる。でもそのなんとなく適当でわりと形になってきてるとも感じている。
しばらく無言で考えたけどそれっぽい答えは思い浮かばなかった。のでそのまま正直に言った。
「私ね、正直言って人に何か教えるのすごく下手なのよ」
「だよねー」クレハうるさい。
「だから私の戦い方を見て覚えなさい」
「わかりました、リィナ先生!」
うーん、先生って呼ばれるのも悪くない感じね、なんかくすぐったい気持ちがする。
「後ろから見てた限りだけど2人の戦い方ってちょっと違うよ」
「そうなの?」「そうなんですか?」
「リィナちゃんはとにかく最短距離で敵を攻撃してるけど、すずちゃんは曲線で敵の意識の外から狙ってる感じかな。どっちがいいとか悪いとかじゃなくて、種族とかそういうので得意な戦い方が違うんだと思うよ」
クレハよく見てる。というか私は隣で戦ってるからすずのことはあんまり見れてない。でも言われてみればそうかもなあという気がしてくる。
「まあ全部が全部そのまま使えるってことはなくても、参考になりそうなところを見て盗んで取り入れてくってことで」
私はすずへのアドバイスをちょっぴり付け足した。
てっきり森の奥に研究所みたいな建物があるもんだと思っていた。目標のポイントが間近に迫ったところで現れたのは、森の中でぽっかりひらけた空間だった。
けれどもそこが確かに目指していた場所だ。立方体が教えてくれているし、なにより感覚でわかる。ここは森の中でも何か特別な領域だ。
「行くよ」
振り返って2人に一言だけ声をかける。
「うん」「はい」
緊張してるんだろう、2人の返事も短い。
私たちはその場所へと足を踏み入れた。
警告音が鳴り響いた。森に似つかわしくない無粋な音程。
四方八方、木々の間から木兵たちが飛び出してくる。門番というやつだろうか。数が多い。数が多いがしかし木兵の対処は慣れている。時間はかかるかもだけど、どうとでもなるだろう。
とりあえず集まったところでクレハに焼き払わせて数減らそうと考えていたところ、ちょっと変だということに気づいた。木兵たちはぶつかって折り重なって何かの形を作ろうとしている、組体操みたいに。
やばいかも? もう動いた方がいいかも? その瞬間、木兵たちは白い光をはなった。
『モックサウルス』
ゴシック体でそうでかでかと表示される。
光が収まったときそこには高さ3Mほどの木できた恐竜が立っていた。ティラノサウルスみたいなやつ。
えっとなにこれ?
恐竜は高らかに咆哮を上げる。空気をびりびりと震わす。
わかるのはそれが私たちに敵意を持っていて、目的地への最後の関門として立ちふさがっているということ。
簡単なおつかいって話だったのに。この面子でなんとかなるの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます